想いが止まらない
好きな人は、高値であればあるほど、夢中になって止まらない。
―――俺の好きな人は、通っている高校の国語の先生だ。
三年の初めの始業式で、新任の先生としてこの学校にやってきた。
新人らしく「かちかち」になって、挨拶をしていたのが忘れられない。
この男所帯のむさい学校に咲いた一輪のバラ……といっても過言ではなかった。
本当に、それぐらい綺麗だったのだ。
もう俺の一目ぼれだった。
亜麻色のふわふわした髪をバレッタで止めて、チェックのロングスカートを着て、笑った顔はふんわりと甘く・・・・・・。
でも、本当の性格は男勝りな勝気だった。
「おっはよー!クラウド!」
登校中の俺の背中を走りながら叩いてきたのは、他でもない俺の担任、エアリス先生だ。
イコール、片思いの相手。
彼女に彼氏がいるとは聞いたことがないけれど、と言うか、怖くて聞けないけれど、とりあえず、憧れて止まない存在だ。
「おはようございます……」
「どうしたの?朝から元気ないぞぉー」
小さな身体で両腕をブンブン振り回しながら、エアリス先生は俺に笑って話しかけてくる。こっちがどんな気持ちでいるのかも知らないで。
「ま、青少年には悩み事はつき物よ!なにかあったらバシバシわたしに言ってくれちゃっていいから!」
そう言って、ボンと自分の胸を叩く。
その時に服のたるんだ部分が引っ張られて、胸のふくらみが露になって俺は思わず生唾を飲み込んだ。
本当に、こんなことでドキドキしてしまうんだから、どうかしていると思う。
でも、好きで好きで、狂いそうなぐらい、彼女を好きな自分がいて、どうしようもないぐらい胸がはち切れそうで――――――――。
ついでに、ちょっとだけでいいから触れてみたくて……。
……。。。。。。。。。。。。
「クラウド、どうしたの?」
「いや、体育倉庫が、ちょっと」
「体育館が?」
「おかしくて……」
おかしいのは俺のほうだ、と思った。
こんな見え透いた嘘で先生を呼び出して、何をしようというのだろうか・・・。
自分のしたいことがよく分からない。
おまけにこの時間は、もう学校には誰もいない。
毎週毎週、先生がこの日だけはだれよりも遅く帰るのを知っていて、それで見計らって連れ出した。
怪しすぎる。
どうしよう・・・・・・。
「体育倉庫がどうしたの?」
「その……中が……」
俺は手招きして、エアリス先生を体育倉庫の中へ招きいれた。
この時、もう後戻りはできないと感じた。
……だれもいないんだ、やるしかない。
「先生!」
「・・・・・・!」
俺はエアリス先生の華奢な身体を両腕に閉じ込めるようにして壁に押し付けた。
先生の視線が一瞬中を彷徨い、それから俺に焦点を合わせた。
「な……クラウド……一体?」
「先生……俺、その……」
腕の中で呆然としている彼女に向かって俺は顔を近づけ……そして言った。
「俺、先生が好きです!!!」
「!」
その瞬間、先生が俺の胸をのけるように強く押したのが感じられた。拒絶の表現だと思い、俺は腕をどきかける。
でもすぐに思い直して、先生が応えるまでこのままの姿勢でいようと思った。
先生はうんともすんとも言わない。怯えているのだろうか。
それとも……
「先生・・・・・・?」
俺は先生の反応を見ようと、彼女の顔を覗きこんだ。
何の反応も示さなかった先生が少し俺のほうを見た。
その瞳は決して怯えてはいなく、どちらかと言えば驚いているようだった。
無理もないだろう。
生徒に、しかも体育倉庫で、こんな襲っているみたいな姿勢で、急に告白されて驚かない方がおかしい。
でも、どんな返事をされたって、もうここで引き下がるつもりは俺には無かった。
自分でも気づかない間に、かなり興奮しているようだった。
……胸の中がもやもやする。
「……!」
俺は引き気味だった先生の腰を抱き寄せて、無理矢理唇を重ねた。
逃げないようにもう片方の手で頬を捕らえる。
身長差があるからか、上から覆いかぶさるような口付け。
ビックリした彼女が俺を突っぱねようと胸を押してくる。その些細な抵抗を封じ込めるかのように、俺は腰を更に強く掻き抱いた。
彼女の抵抗が段々と収まってくる。
俺を除け様としていた両手の平はいつの間にか胸に添える形になっていた。
苦しくなって、ほんの一瞬だけ唇を離す。
でもそんな時間が勿体無くなってすぐにまた唇を合わせる。
今度は少し、舌を入れてみる。
彼女はまるで自分の為すがままになっているかのように思えた。
ゆったりとしたリズムで互いの舌を交わしながら、じっくりと味わう。
でもやがて、彼女が自分をリードしていることに気づく。
自分の舌が彼女のそれに甘く捕らわれているのがわかる。
いつのまにか、彼女は自分の頭を抱き込むようにキスをしていた。
俺は慌てて唇を離した。
ビックリしたように彼女を見下ろせば、不思議そうにきょとんとしている彼女の顔と、濡れた唇が目に付いた。
「……な、せんせ……い?」
どことなく気の抜けた声が自分の口から発せられた。
自分の気持ちに応えてくれたのは嬉しいが、逆に気圧されてしまいそうだった。
「なによ、いきなりキスしてきたの、そっちじゃない!」
エアリス先生は可愛らしく頬をぷくっと膨らませてきた。
それは俺の目には抱き締めたくなるぐらい極上に見えたが、後になってよく考えると、小悪魔的微笑だった気がする。
あの時点から、俺は既に彼女に「食べられて」しまっていたのかもしれない。
「いいのかなぁー。生徒が先生をこんな所に不純な目的で呼び出して、オソちゃって」
意地悪そうに言う。
自分だって乗ってきたじゃないか。
「先生が、拒絶すればよかったんじゃないのか?」
「《エアリス》」
「……エアリスも、俺に応えた」
《エアリス》は暫くふーん、と考えていた。
やがて、にっこりと笑う。
「わたし、悩み事は聞いてあげるって言ったよね?」
「約束したからか?」
不満げな俺の頬をエアリスの唇がそっと撫でた。
彼女には俺の気持ちなど、とっくの当にばれているようだった。
「……そうじゃないって言ったら……?」
こちらの気持ちを見透かしているくせに、聞いてくる。
俺は半分苛立ちを込めて、彼女の身体を抱きかかえ、マットレスの上に寝かせた。
「こんなところでするつもり……?」
「問題の観点は場所なのか?先生が聞いて呆れる」
「まあ、意地悪ね」
どっちが。
「クラウド、初めて・・・・・・?」
エアリスが微笑みながら聞いてきた。
分かっているくせに、と俺は思った。
だからあえて何も言わない。
別にこの歳で童貞でもおかしくないはずだ。
「いいわ。《お姉さん》がいろいろ教えてあげるっ……」
どこでそんな言葉を覚えたんだか、俺は少し呆れながら彼女が自分のシャツに手を掛けるの見ていた。
「……うっ」
「クラウド、もっと腰使って……ね?……あ…ん、そう……」
俺とエアリスは体育倉庫のマットレスの上で抱きあっていた。
はじめての場所としては決して良いとは言えないが、彼女を抱けるのだったら場所なんか何処でもよかった。
触れた先は何処までも柔らかく、そして暖かかった。
グラマーとは言えないが、へたに出ているよりも彼女の優美な身体のラインのほうが比べ物にならないほどに綺麗だった。
「ン……あ・・はあっ」
殆ど吐息だけの声が俺の頬をかすめた。
彼女のほうがずっと年上だからか、こんな風に俺が上になっている時でさえ、何となく押されている気分になってくる。
いや、押されている。
「……っエアリス…っ」
彼女の繊細な指がつうっ、と俺のわき腹を擦る。
同時にゾクッとした快感が身体を駆け抜けた。
隙間もないほど身体を密着させれば、彼女の硬くしこった先端が俺の胸部を刺激して止まない。
接合部に急激に熱がたまっていた。
「う…ぐっ……」
何かに耐えるかのように俺は呻いた。
絶頂に登り詰めたい自分と、まだ彼女と繋がっていたい自分が激しく胸のうちを交差する。
快感をとるか、メンタルをとるか。
結局俺はメンタルをとった。
もっと彼女の身体を味わってからでも遅くはないはず。
それに、こういうのは勝手かも知れないが、彼女より先に自分が達するのはなんだか格好悪く思えた。
もっと、乱れた彼女が見たい。
「……あ!…ンン…!やあ……!!」
彼女の喘ぎが一段と艶を増してきた。
俺はいい気になって腰を振るスピードを速めた。
突き上げに緩急を加えて、刺激を高める。
強烈な摩擦感が俺とエアリスの双方を襲った。
「…く・・・うっ」
「ひあっ……んんん…ぅ!!」
エアリスがいやらしく身体をくねらせて、喘いだ。
俺は一瞬、自分がエアリスを支配しているかのような錯覚を覚え、一気に最奥まで突き上げた。
……調子に乗りすぎたのが悪かったのだろうか。
俺の腕の中でエアリスがピクリ、と動いた。
何なのだろう、と俺はほんの少しだけ動きを止めてエアリスの顔を覗き込んだ。
エアリスは顔を伏せていてその表情が読み取れない。
不思議に思って、接合を解く、とまでは行かないが両腕を突っぱねて少し腰を浮かした。
その時だった。
急な加速が身体に加わったかと思うと、俺は反転してマットレスの上に押さえつけられていた。
何が起こったのかよく分からず、呆然として自分の上にいるエアリスを見やると、彼女は明らかに怒った顔をしていた。
「……調子に乗りすぎだぞ、クラウド君」
「……え」
「いい気になってると痛い目見るわよ」
その瞬間、エアリスは俺のものを自分の中に押し入れた。
じゅぶ、といやらしい音がして、俺は思わず喘いだ。
そのままエアリスが激しく腰を動かしだす。
俺のものは強く締め上げられて、悲鳴を上げそうだった。
「う・・・・・・・あ・・・ぐうっ…!」
「どう?さっきと違うでしょ」
エアリスは楽しそうに言った。
俺とは全然器も場数も違うと言うことか。
少し悔しくなって、腰をどけようとしたが、俺の身体は意外なほどに感じていて自分でも呆れるくらい力が入らなかった。
まずい、と思った。
「うふふ、感じちゃってるね。……そろそろかしら?」
瞬間、エアリスが堰を切ったように俺の身体の上で動き出した。
それはまるで暴れているかのような激しさだった。
ここがベッドだったら間違いなく、転がり落ちているほどに。
「う…!あ……ああっ…!」
堪らずマットレスを爪で抉るように握り締めた。
それを見たエアリスがくすりと笑う。
「クラウド、いっちゃっていいよっ」
その言葉を聞いた途端、俺の中で何かがはじけた。
もう我慢しなくていいのが、酷くうれしく感じられた。
絶頂へ駆け上りたい。
そう思った。
「う……あ……、ぐ…ううっ!ああああああッッッ!!」
―――目の前が、白くなった
情事を済ませた後、エアリスはクラウドの脇にゴロン、と横になった。
身体が汗ばんでいて、快感にずたぼろな気がした。
生徒としたことには何の罪悪感も無かった。
結局は男と女なのだから、行き着くところはこれでしょうがないだろう。
それに彼が自分を好きで自分も彼を思えるならそれで良い。
他に求めることなど無かった。
彼女は今一度、自分の生徒だった彼を見つめた。
その表情はまだどこかあどけなく、初々しかった。
可愛くて、ちゅっと唇にキスを落とす。
それから目を細めて言った。
「よろしくね、クラウド♪」
とりあえず、終電が出るまでには彼を起しておこう。
fin