●● 再
会は、突然に。U ●●
プレゼントと、そう彼は言って、わたしの指に指輪をはめた――――――
「で、あっさり貰っちゃったわけ?」
ティファは相変わらず能天気な姉を前にして、盛大なため息をついた。
「??」
姉のエアリスは大きな瞳をくりくりさせて、妹のティファを見つめる。
その指にはプラチナのリングにイエローダイヤのそれは高そうな・・・高そうなめん玉が飛び出るほど高そうな指輪がはめられている。かなりごつい―――エア
リスは指につけているが、どちらかと言えば観賞用の―――指輪の価値は、何千万、いや、何億級のものだろう。
「綺麗でしょっ、イエローダイヤって言うんだって!貴重品なんだってっ」
指輪を指差しながら、エアリスはにこにこ顔で嬉しそうにティファに言った。
「で、そのきちょーーーーな、ほーせき付の指輪をあっさり貰っちゃったわけ?」
「うん・・・え・・・な・・・なにか悪かった?」
おどおどする姉を前にティファはまた深いため息を突いた。
この姉は一般人とは妙に思考のはずれた人だとは思っていたが、まさか指輪を―――それもパリとかの老舗宝石店のVIPルームでしか見せてもらえないような
超ド級の指輪を“プレゼント”としてあっさり受け取る神経の持ち主だとは思わなかった。
考えてみよう。
もし、あなたにまだ良く知らない男性の知り合いがいたとして、きゅうに指輪を渡されて、「あら、ありがとうっ」と受け取れるだろうか。
それも一生分の給料をはたいても買えない指輪を。
―――この、馬鹿姉
「あ・の・ね。男性が女性に指輪をあげるなんて、何か含むところがあるに決まっているでしょ!!」
「え・・・?」
「だ・か・ら、付き合ってくれと言っているのか、すでに付き合っていると思っているのか、またはプロポーズかって相場が決まってるの!!そんな指輪を友達
にあげる道楽者がいますか!!」
エアリスは暫く考え込んでいたが、いつものぽやんとした顔でティファを激怒させるようなことを言う。
「でも、付き合ってくれなんて言わなかったよ?」
「この馬鹿――――!」
ティファの足刀蹴りが炸裂しそうになったところで、エアリスは何か自分がまずいことでもしたのかと不安になってきた。
「え・・・あ・・・じゃ、これ返したほうがいいかなぁ?」
ティファの蹴りがぴたりと止まる。
そのまま姉に向けた視線は凍るほど冷たかった。
「返したからってどうなるのよ。だいたい、そんな風に手袋もつけずにぺたぺた触った宝石を返したところで、無かったことになるだなんて思ってないでしょう
ね・・・。あ〜〜あ、お姉ちゃん、そんなの受け取ったのが最後ね、外国に身売りしろって言われたら身売りして、結婚しろって言われたら結婚しなくちゃー
ね」
「え・・・そんな・・・大それた・・・」
「それがプラスチックのおもちゃだったら良かったんだけどね。本物、しかも希少価値の高い指輪!お姉ちゃん、人生10回分の給料つぎ込んでもお姉ちゃん
じゃ、それ、買えないわよ」
エアリスの動きがぴたりと止まる。
そんなに高いものなんだろうか、これは・・・。
でも
「だ、大丈夫だよ!クラウドさんはそんなヤクザみたいなことしないよ・・・」
「ヤクザぁ?それってあれ?「まさか受け取っておいて、できませんなんて言わないよなぁ、ん?どうなんだよ、こらぁっ!!」って言うやつ?あのね、クラウ
ド様がヤッチャんが入っているか入ってないかはともかく、こんなの渡すと言うことは、絶対何か期待してるから渡してるの!常識、常識、あ・た・り・ま・
え!!で、お姉ちゃんは、もしクラウド様に言い寄られたら・・・って既にその様子じゃ暗黙で言い寄られていると思うけど・・・とにかく、どうするの!?」
ティファの怒涛のまくし立てには、昔からエアリスは弱かった。
エアリスは口下手だったし、それに相反するかのように、ティファは能弁だった。
エアリスはしどろもどろになりながら答えた。
「うえ・・えと・・・でも・・・付き合うって言うことは、私とクラウドさんが両オモイナわけで・・・?」
「それで?」
暫くの沈黙の後、エアリスは満面の笑みを妹に向けた。
「じゃあ大丈夫だよ!わたしとクラウドさん、そう言うの、無関係だから(にっこり)」
「\(゜ロ\)ナンデストーーーーーーーーーーーーーーー(/ロ゜)/」←ティファ
「ピーーーーメッセージガ一件アリマス――――――あ、もしもし?ティファですけど。残念ですけど、お姉ちゃんにとってクラウド様は恋愛対象外な模
様です。あ、わたしの電話番号は090−1234−****です。どうしてもお姉ちゃんのこと諦められなかったらご一報くれたし―――――ピーーーーー八
時四十三分デス・・・」
「(;_;・・・・・・・・・」←クラウド
「で、単刀直入に聞きますけど、クラウド様はお姉ちゃんのことどう思っているんですか?」
ホテルのプライベートで使える一室を使って、クラウドとティファの懇談会が開かれたのは、二日後のお昼だった。
「・・・・・・」
クラウドはなんと言えばいいかわからずに黙った。
ティファの留守録のメッセージを聞いたとき、茫然自失状態に陥って、今に至る。
エアリスに指輪を渡そうと思い立ったときは、かなり張り切って、無理を言ってパリから速攻取り寄せたイエローダイヤの一品に決めた。
エアリスも嬉しそうに笑って受け取ったものだから、てっきりエアリスも自分に・・・そう、状況的にしょうがなかったとは言え、本人にその気が無い以上、完
全な勘違い・・・ああ、アセノスフェアのあたりに埋まっていたい・・・
「あのーーー、もしかしてーーー」
ティファが気遣わしげに尋ねてきた。
「もしかしてもしかして。。。やっぱり思ってました?」
クラウドは力なくこくりと頷いた。
ティファの顔にやっぱりという呆れの色と、クラウドに対する同情の色が交互に浮かんだ。
「は・・・馬鹿だな・・・。指輪を受け取ってもらったものだから、てっきりそうだと信じて・・・ははは」
「あははは・・・」
ティファもつられて乾いた微笑をクラウドに向けた。
「ははははは」
「あははははは」
『あっははははは』←狂人が二人
ティファの前でその冷たいまでに整った顔を形容しがたいまでに苦悩で歪めている男の名はクラウド・ストライフという。
17歳という若さで賞という賞を総なめにしたドイツ出身の現在22歳の世界屈指のダンサーで、彼のショーは世界中どことは問わず、チケットを取ることが至
極困難な・・・スーパーマンな男である。
彼は同じく世界でも有名であったダンサーであった父親の仕事の都合で、四歳のころから八歳のころまでこの国(作者の意向で特定していません)にいた。
が、しかし父親の浮気で両親が離婚、母親に引き取られた彼はドイツの田舎町へと帰ることになった。
青年となった彼に対するスクープやゴシップは多く、プライベートなど無いに等しいが、その彼に14年間思い続けた女性がいることは、一部関係者のみにしか
知られていない。
その女性とは、今彼の目の前にいるモデルばりのスタイルと容姿を誇る女性、ティファの姉のエアリスである。
エアリスは妹のティファとは180度タイプが違うとは言え、美しい女性だった。
ガーデニングと、窓辺で安楽椅子に座りながらの読書が何よりも好きで、普段は花屋でパートとして働いている。
彼らは小学校のわずかな時間をともに過ごし、家が隣どうしだったこともあり、固い絆を作り上げていた。
が、しかし悲しいかな、クラウドがドイツへ帰ることになったとき、二人は海を挟んで遠くに離されてしまった。
いつか会いたい、その思いでクラウドは約束をした。
「世界中、どこへでも行けるぐらい有名になって、エアリスがどこへいようとも迎えに行く」と。
かくして二人は希望を胸に分かれたわけだが、その後エアリスが交通事故に会い、記憶を失ってしまったのだ。
クラウドのことも全て。
これによって、クラウド×エアリスではなくクラウド→エアリスという哀れな片思いが14年間続いてしまったのだ。
身一つで都会に飛び出し、後見人も無いまま死に物狂いでスクールに通い、宣言どおり世界のトップダンサーになったクラウドは、世界ツアー最終公演で、エア
リスのいるこの国へとやってきた。
が、エアリスとの再会を喜んだのも一瞬。
寒い現実をつきたてられたクラウドは、怯えるエアリスに激情をぶちまけて、あろうことかレイプしてしまう・・・。
んが、エアリスも何とか「迎えに来てくれる」の一部分だけを思い出し、なあなあに事が進んで、クラウドは三ヶ月の休暇を迎えているのである。
『あはははははははははは』←まだ壊れてる二人
いかん、これではあまりにもクラウドが可哀想だ。
ティファは決意に燃えた。
「どんな手を使ってでも、クラウド様の義妹になってみせるわ!」
「・・・・・?」
「あ、違った。どんな手を使ってでも、クラウド様とお姉ちゃんをくっつけてみせる!!」
んな強引な・・・。
クラウドはそう思ったが、自分では手のうちようがないため、ティファの決意に便乗してみることにした。
・ ・・ティファに嫌われたら、一生エアリスに近づかせてもらえないだろうし。
「おハロ〜クラウド!」
「リノアの真似はよせ」
「今流行ってるんだぞ、と」
ティファとの懇談会の後、入れ違いでクラウドのマネージャーのレノが入室してきた。
彼の放った言葉「おハロ〜」は、ハリウッドのセクシーさNO1とも呼ばれるスター女優リノアの挨拶を模したものである。
「さて、一部にしか知られていないビッグニュース!大女優リノアの妊娠発覚!父親はもちろん、スコール・レオンハート!」
レノはいささか大仰の手振りで、言い放つ。
クラウドはあまり驚きもせずに、肩をすくめた。
「レオンか・・・。ま、当然といえば、当然だな」
スコール・レオンハートとは、端正な顔とクールな雰囲気が多くの女性の心を捉えて止まない、今をときめくハリウッド・スターだ。
仲間内の間で“レオン”の愛称で呼ばれている。
「いいネタになるな。・・・あいつが悔しがるだろうな・・・“先を越された!”って」
「そうそう、“あいつ”と言えば、“あいつら”が今日の昼に到着する飛行機でこっちに来るって言ってたぞ、と。そろそろ来るころか?」
きた。あまり他人をほめることの無いクラウドが、優秀だと認めるマネージャー、レノ。その最大で最悪の欠点が久しぶりに顔を出した。
「それ、いつごろ連絡が入った」
「んー、一週間前ぐらい前だぞ、と」
もっと早く言えよ!!
そう心の中で叫んだ途端、プライベートルームのドアが乱暴に開いた。
続いて、大音量で、聞きなれた煩い声が部屋に鳴り響いた。
「おハロ〜、クラウド!ザックス・ヴァルヴァドス&セフィロス・ホウジョウ、映画公開記念特別試写会のため来国――――(国特定しません)!!!」
黄色いメガホンを片手に、つんつんした長い黒髪の男が入ってきた。
長身で、がっしりした体に、日焼けした健康的な肌。
そして豪快かつ、明るい笑顔と性格。
これだけで、彼の人となりを表せるといっても、過言で無いくらい、単純で、人当たりのよい男の名は、ザックス・ヴァルヴァドスと言う。
(*なぜヴァルヴァドス?
知っている人は知っている、知らない人は知らない、GSのデートイベントで、劇に出てくる悪竜王の名である)
今までに一度もスタントマンを使ったことの無いという、ハリウッドきっての肉体派男優で、アクションもの、アドベンチャーものを演じさせたら、右に出るも
のはいない、とまで呼ばれている。
「久しぶりだな、クラウド、レノ」
その後ろに続いて、ザックスよりも長身の銀髪の男が入ってくる。
彼の名はセフィロス・ホウジョウ。
この業界に彼女あり、とまで呼ばれた美しい大女優、ルクレッツィアの実の息子である。
父親はホウジョウという風貌の怪しい男―――ルクレッツィアが政略結婚させられた――――ということになっているが、一部の関係者によると、真実はそうで
はないらしい。
と言うのも、ルクレッツィアには結婚確実と呼ばれ、当時大スキャンダルになっていた恋人が存在したのだ。
彼の名はヴィンセント。
とても美しい男性で、女神と呼ばれていたルクレッツィアが『彼はangelよ』とまで絶賛していた俳優だった。
が、しかし、彼はルクレッツィアがホウジョウと結婚したときに、失意のあまりに消えてしまった。
彼がどこにいるのか、生きているのか、彼の行方はいっさいわかっていない。
だが、ホウジョウと結婚したルクレッツィアがすぐに―――あまりにもすぐに―――妊娠したのだ。
もしくは妊娠していた・・・?
どちらにせよ、生まれた赤ん坊はとても美しく、醜いホウジョウの血など全く受け継いでいないようにさえ見えた。
で、肝心のセフィロスがどう思っているかというと・・・。
どう聞かれても、
「私の父親は、ヴィンセント・ヴァレンタインだ!」
と、譲らない。
彼は自分の美しさを信じており、よって美しいヴィンセントが父親なのは当然であり、なぜ愚民どもは当たり前のことを疑うのかと、いつも疑問に思っていた。
彼は自分の母親同様、父(仮)のヴィンセントを尊敬している。
とにかく、彼に言わせれば、自分の父親は世界60億人と言えども、ヴィンセント一人なのだそうだ。
「お前ら、忙しいんじゃないのか?」
クラウドはため息をついた。
馬鹿コンビ(クラウド談)でも、表向きは世界の大スター。
こんなところにひょこひょこ来るとは、マスコミに騒がれても仕方が無い。
それにしても、飛行機が着いてからは、スケジュールがいっぱいいっぱいなはずではないのか。
「あー、そういうのはパスパス!来国記念に観光って事で。なあ、セフィロス」
「そういうところだ。・・・ん、なんだこれは。・・・女物の財布か?」
セフィロスはテーブルに乗っていたブランド物の財布を手に取った。
「あ、ティファが忘れていったのか・・・?しょうがないな・・・」
交通機関が使えなくて、困るだろう。
まだそう遠くには行っていないはずだ。
クラウドは無言でセフィロスの手から財布を受け取り、ティファの後を追いかけようとした。
だが、ドアの前へ立ったとき、どたどたと大きな足音が聞こえ始めた。
本能的に危機を感じて体を捻ると、次の瞬間、勢いよく開いたドアから、ティファが部屋に雪崩れ込んできた。
「財布、忘れちゃった!・・・ってあれ・・・?」
先ほど出て行ったばかりなのに、部屋には人が増えていた。
ティファはその面々を凝視する。
驚いたことに、その顔ぶれはマスコミが好んで取り上げるスターのものだった。
「ザックス・ヴァルヴァドス?セフィロス・ホウジョウ?な・・・なんで?」
沫を食ったような表情のティファにクラウドは耳元で囁く。
「(新作映画の公開記念で来国しているんだ。・・・あんまり騒ぐなよ)」
「(ふむふむほうほう)」
ティファの順応性は目を見張るものがあるかもしれない。
すんなりと、現状況を認識したティファは、有名人そっちのけで話し出した。
「あ、クラウド様。お姉ちゃんは明日の午後から家にいるけど、会うなら絶対明るくて人目のつくところでね♪」
「お・・・っおい!」
クラウドは青ざめた。
そんな言い方をすると、絶対にこいつらが。。。
案の定、一拍置いてザックスが顔を輝かせ始めた。
「お姉ちゃんって・・・あれか!クラウドの彼女!!」
「ほう」
「まだ、彼女じゃありません!」←ティファは英語がばりばり
「おい・・・お前らにいつ教えたんだ?」
「16のときに酒飲ませたら、面白いほどボロボロ吐いたぞ」
クラウドはまた盛大にため息をついた。
こいつらはいつのまにそんな・・・。
「で、そのお姉ちゃんとはうまくいっているのか?」
ザックスが興味深々で身を乗り出して聞いてくる。
クラウドは自分の悪行?を思い出して、後ろめたい思いがふつふつ湧き上がってくるのを感じた。
適当に誤魔化そうとすると、いらないところでティファの横槍が入ってきた。
「それは・・・」
「もー、聞いてよ!あなたたち、友達なら注意の一つでもしてあげてよ!クラウド様ったらねー・・・ピーでピーでピー・・・」
「なに!?お前・・・お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!」
「うむ」
誰がお母さんなんだ?
しかし、クラウドは確実に今この瞬間弱みを握られたことを悟った。
普段感情をあまり外に出さないクラウドは、この時も平静を装っていたが、内心ではかなり参っていた。
「よし!親友の頼みならしょうがねえ。初恋実らせ隊発足だ!なあ、セフィロス」
「面白そうだ、いい暇つぶしになる」
「あら、忙しいんじゃないの?」
「いいっていいって、ティファちゃん」
こうして当の本人を締め出した『初恋実らせ隊』が無責任にも発足されたのだった。
合掌
ティファが出て行った後、ザックスは浮かれていた。
まさか、面倒くさいと思いながら、仕方がなしに来たこの国で、運命的な出会いをするとは思わなかった。
ザックスはしっかりティファのメアドをゲットしていた。
これでいつでも連絡が取れる。
彼女と初めてあったとき、とても運命的なものを感じた。
ティファがクラウドを吹っ飛ばす勢いで入室してきたとき、ビビッと来たのだ。
まっさきに目に付いたのは、露出度の高い服から伸びる足と腕だった。
―――あれは格闘家のボディーだ!!
まさしく運命!
すばらしい!
あの雰囲気からも相当な腕を持っていること間違いない。
「おい、クラウド、彼女はめちゃくちゃ腕が立つだろ!!」
「は?・・・まあ、空手で全国大会とジュニアの世界選手権を制覇したらしいぞ」
「やはり!俺の目に狂いは無い!こうなったら早速アタックだ!よし・・・明日の夜八時・・・●△×の河原にて待つ・・・これで、送信だ!」
それって果たし状じゃないか、と思いつつクラウドは面倒くさいのでザックスのしたいようにさせた。
それよりも、クラウドには大事なことがある。
明日エアリスが昼家にいるということだ。
事実、クラウドはエアリスと二人っきりで会える時間が嬉しくて堪らない。
男性として、女性に対する一線を越える好意を彼女に抱いたことに、最初は戸惑いを覚えた。
だが受け入れてしまえば、それは深い胸のときめきを伴う一種の陶酔感を彼に与えた。
子供のときは、ただ純粋に彼女が好きだった。まるで宝石の原石のように、淡かった。
だがその思いは、思春期を飛び越えたころには、多角形にカットされた美しい宝石のように、光を浴びて眩しいほどに輝きつつ、それでいて、形容しがたい深み
を持つようになっていた。
胸の苦しみはどこからやってきたのだろうか。
つくづく、自分という貪欲な存在を意識してしまう。
ほんの少し前まで、彼女に再会することが、自分の全てだった。
だがどうだろう、彼女のあった瞬間、それ以上の何かを一方通行の思いで求めた。
ダンサーとして有名になってから、欲しいものは何でも手に入れられるようになった。
だからといって彼女が、自分のものになるなどと、子供じみた考えは持ってはいない。
それでも、自分は確かに女性の心さえ好きにできると心の片隅で思っていたのかもしれない。
他人からの好意に慣れ、反比例するかのごとく、自分の好意はごく限られた人、ことにエアリスに主に向けられていた。
自分の思い通りに成るなどと思ってはいない。
それでも、彼は「確か」に、思い通りになる世界を生きてきたのだ。
女性の心を掴む容姿はある意味で彼の武器であった。
だから、エアリスがまったく自分に恋愛的感情を抱いていないなどと・・・平たく言えば、考えたことも無かった。
自分から好意(のふり)を示されて、喜ばない者などいなかった。
だが彼女は違う。
立場も容姿も無意味だった。クラウドは、今まさに一般人と変わらない視点に立たされ、凡人と同じように、物思いにふけり、胸の苦しみに耐える境遇に陥った
のだ。
あの花のような笑みを、一分でも早く見たい・・・。
クラウドは思いもかけず、恋の魔力に取り付かれたのだった。
クラウドは駅の前でそわそわしながら、待ち人を待っていた。
人目のつくところは好きじゃない。
でも、人一倍抜けている彼女に、人目につかない場所を指定したら、夜まで待っても会えないかもしれない。
そんな危険性のほうが、人目につくことよりも恐ろしく思えて、よりによって駅の前で待ち合わせをしたのだ。
予定としては、このあと、ザックスとセフィロスが主演をはる、新作映画の関係者用特別試写会を見て、舞台挨拶を聞いた後、予約したホテルの高級レストラン
で、ディナーをとる。
もちろんプレゼントもその場しのぎとは言え、用意した。
こてこてのデート・・・?
だが、クラウドは不器用であるがゆえに、そう言うデートしか知らなかった。
幼いころは苦労した・・・と言っても、女性と付き合える年齢になるころには、それなりの富と地位を得ていた。
その彼が目にしていたのは、金で何とかなる女性との付き合い方。
もちろん、クラウドは真心でエアリスに接しているが、それでも『金さえあれば』できる、『いかにも』なデートを選択したのは、それしか知らないからだ。
暫くして、エアリスが長いお下げを可愛らしく揺らしながら、駆け足でやってきた。
転ばないかどうか、少し不安になる。
幼いころの彼女は、年にそぐわないほどしっかりしていて大人びて見えた。
だが記憶を無くした彼女は、まるで人が代わってしまったかのようだ。
少なくとも、自分がはらはらして見守る必要のある人ではなかった。
少し一抹の寂しさを感じる一方で、クラウドは自分の中の保護欲が掻き立てられるのを感じていた。
妹がいないだけで、心細さに震える彼女だ。
誰かが守ってやらなければ、どうしようもないようにさえ見えた。
「お待たせしました・・・」
自分と二人きりでいるエアリスは、いつだって緊張しているように見えた。
自分が襲ったからではなく、ただ単に恥ずかしがりやなのだと信じたい。
「行こう」
腕も組まず、手も繋がない。
だがクラウドは、二人で入れる時間がずっと欲しかった。
14年間も、ずっと。
だから、隣に彼女がいるだけで、幸せだとさえ思った。
ずっとはにかんだ調子のエアリスを横に従えて、クラウドは試写会の会場の裏門に、タクシーを横付けさせた。
警備員にパスを見せて中へ入ると、廊下の突き当たりの控え室から、ザックスがひょっこりと顔を出した。
「お、クラウド来たか!で、その子がティファちゃんのお姉さんかよ・・・わお、二コール・キッドマンもナタリー・ポートマンもビックリの美女だな!」
冗談か本気か分からないことを口走りつつ、ザックスはエアリスにずい、と近づいた。
「俺、ザックス!ザックス・ヴァルヴァドスなっ。よろしく、エアリス!」
「は・・・はい・・・」
ややイントネーションはおかしかったが、ザックスはエアリスにも分かる言語で話しかけた。
エアリスはしどろもどろになって消え入りそうな声で返す。
「本当にティファちゃんとは180度性格が違うんだな!どうやって引っ掛けたんだよ?・・・あ、そーか、まだひっかけてないか」
今度は母国語で話すザックスが何を言っているか分からず、エアリスはテレビでしか知らない有名人を前に、呆然としていた。
「ま、今日の試写会、楽しんでくれよエアリス。その後のtalk showじゃ、ちょっとビックリな演出するから、必見だぜ!」
ウインク一つして甘く微笑みかけるザックスは、エアリスの目にもとても格好良く映った。
少しだけ赤くなったエアリスの表情を的確に読み取って、ザックスはクラウドに向かって意味深に笑う。
クラウドは面白くなくて、ザックスを少し睨んだ。
「じゃあ、これで。俺とセフィロスはtalk show用に準備があるからな」
ザックスは大手を振って控え室に戻っていった。
その時、試写会開始5分前の放送が流れた。
「行こう、始まる」
映画はザックス扮する海賊ジャ○ク・ス△ロウが呪われた金貨を集める海賊達と闘う・・・という、アドベンチャーものだった。
クラウドは映画よりも、海賊が骸骨になったり、誰かが殺されるたびに体をびくつかせるエアリスの反応のほうが面白かった。
続くトークショーでは、主演のザックスと助演のセフィロスが映画のセットで現れて、口調まで真似してマスコミの質問に答えたり、製作秘話などを面白おかし
く話したりしていた。
こうして試写会が終わるころには、空はもう暗くなっていた。
「映画、面白かったですね!」
映画を見たのも久しぶりだと言うエアリスは嬉しそうに見えた。
エアリスはあまりアクション性の強いものを見そうにも無かったので、クラウドはほっとした。
時計を見ると、そろそろいい時間だった。
「エアリス、ホテルに・・・」
「!!!」
クラウドは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
あのとろいエアリスがここまで早く動けるとは思っていなかった。
エアリスが、彼女の手をとった自分の腕をあらん限りの力で振りほどいたかと思うと、一目散に逃げていったのだ。
「え・・・エアリス!!」
遠ざかっていくその背中を追いかけようとしたが、ショックで、足を踏み出すことができなかった。
「な・・・なんなんだ・・・?」
食事を拒まれた?
それだけにしては、妙に反応が激しかった。
クラウドは、自分のセリフを思い返してみる。
『エアリス、ホテルに・・・・』
ホテル!
勘違いされた!!
どうせ、ティファが、変なことを吹き込んだに違いない。
「ホテルにだけは連れ込まれちゃだめよ」とかなんとか。
前科持ちの自分だから、その可能性は色濃くなってきた。
クラウドはため息をついた。
これで、当分エアリスには近づけないかもしれない。
失恋に似た痛手が彼を襲った。
エアリスは落ち込んでいた。
クラウドはいい人だと思っていた。
あの指輪をくれたのも、きっとただの好意で・・・そう思っていた。
今朝、ティファに注意された。
「ホテルには連れ込まれちゃだめよ」と。
注意された直後、エアリスはティファの言っていることが分からなかった。
それで説明をティファに求めると、彼女は大そう呆れた顔で「怖い目にあうかもしれないからだ」と言った。
怖い目とはどういうことだろう。
怖いこと・・・
合点の行かないエアリスにティファは大きなため息を付いた。
「ピーでーピーでピーなことされちゃったらどうするのよ!お姉ちゃんじゃまず逃げ切れないんだから、危なくなる前にさっさと逃げるの!」
なるほど、それが怖いことなのだ。
ただし、あれは怖いのではない。「すっごく」怖いのだ。
でももうクラウドの前でその話題を掘り返さないことに決めたのだ。
だが、それでも体に染み付いた恐怖はなかなか拭えず、エアリスはたまにとても怖くなる。
今回もそうで、エアリスは青ざめた。
「じゃあしっかりね、お姉ちゃん!」
そう言って頼みの綱のティファは仕事に行ってしまった。
エアリスは壁の時計を仰ぎ見た。
10時。
ティファはまだ帰ってこないのだろうか。
10時10分。
ティファは帰ってこない。
10時20分。
クラウドは怖い人なのだろうか。
10時30分。
「ただいまんご〜!!」
「お・・おかえりんご?」
やっとティファが帰ってきた。
ドアが相当な力で閉められるのが聞こえ、続いてどたどたとした大きな足音。
ついにはリビングのドアを蹴破って、ティファが登場した。
「ティファちゃん・・・?」
見れば、ティファの息遣いは荒く、露出した健康美溢れる足や、可愛い顔にあろうことか擦り傷や挫傷の痕がある。
エアリスは絶句した。
「ど・・・どうしたの!?お姉ちゃん、警察に電話する!」
「は・・・何言ってんのよ!受話器置きなさい!!」
「は・・はい(~△~)」
ティファはつかつかとエアリスの前までやってきて、その手をぐわし!と握り締めた。
「わたしたちは拳で分かり合ったのよッ!!」
「はい?」
「だーかーらー、熱く拳と拳で語り合ったの!彼と向き合い、互いの闘気をぶつけった瞬間、何かがわたしたちの間を駆け抜けた!そして拳を一つ交えた後、そ
れは確かな実体を持って・・・うんたらかんたら」
ティファがわけの分からないことを熱く語っている。
エアリスは呆然としてそれを聞いていた。
「で・・・あれがそーでこれがこーで・・・とにかく!わたしたちは“婚約”したわッ!!」
「こ・・・こんにゃく!?」
こんにゃくとはこんにゃく芋をふかして、ついて作られるヘルシー食で、あのぶるぶるした感触がめちゃウマで、味噌田楽や、おでんに入れるとばりウマなあれ
である。
ティファがこんにゃくするとは、こんにゃくになるということで、と言うことはティファは元々蒟蒻(こんにゃく)芋だったということで・・・??
「こ・・・・こんにゃく・・・」
「は?何言ってるの。見て!この腕の痣!愛の傷痕よッ」
あ・・・愛のこんにゃく・・・
「ザックスのメテオドライブ・・・私の脳天にがつーんときた・・・!」
メテオドライブとは、ティファ命名したまあいわゆる裏投げである。
プロレスごっこでも使われて、たまに事故を起こすあれである。
「ざ・・・ザックス・・・!ジャ○ク船長・・」
「あら、よくお姉ちゃん知ってたわね。そうよ、あのザックスよ!!うふふふふ、で、お式の日取りなんだけど・・・」
「!!・・・ティファちゃんの馬鹿ぁ〜〜〜うわーーーーん!!!」
「は、おねええええちゃあああああん!!」
エアリスは漫画のように、消化ホースから噴射される水のように涙を流しながら、家を出て行った。
「俺たちは拳で語り合った!お互いを認め合い、尊敬しあった!」
クラウドはもう三時間ほどザックスの「運命」の話に付き合っていた。
エアリスに逃げられてから自棄酒をあおっていたため、おとなしく話を聞いていたのだ。
酒瓶を前に、テーブルをバンバン叩きながら、ザックスは力説する。いわく、どれだけ自分と彼女の間に強い絆が生まれたとか生まれなかったとか・・・。
「クラウド!運命の相手というのは、そういうものなんだ!一瞬でビビッと来る!つーことは、お前にとってエアリスはビビッと来たのかもしれないが、彼女に
とってはお前はただの幼馴染に過ぎなかったという訳だ!諦めろ!それでこそ男だ!!」
「好き勝手言ってんじゃねーーー!!」
ザックスの腹にクラウド式打拳ラッシュが決まった!
「うが・・・っ、んが・・・、しかし!俺の顎を破砕しかけたティファのサマーソルトのほうが百倍・・・」
そこまで言って、ザックスはぱたりと眠りに入ってしまった。
かなり出来上がっていたらしい。
それほど彼の言う運命の相手に出会えたのが嬉しかったのだろう。
なにが、「初恋実らせ隊」だ。
自分だけ・・・自分だけ・・・
そう思って、クラウドは嫉妬じみた感情を捨てることにした。
親友の恋だ。
放っておこう。
それよりもエアリスだ。
このザックスの状況だと、ティファの反応も相当良かったのだろう。
婚約したとか何とか言っているし。
そうすると、ティファの機嫌もこのザックスのごとく良いわけだから、エアリスが何か言ったところで、そこまで・・・そこまでは怒らないだろう。
というか、そう信じたい。
「はあ・・・」
クラウドはため息を付いた。
気づけば、残りの休暇もあと一ヶ月。
そうしたら、また分刻みのスケジュール。
当然、エアリスに会える時間も会う予定も作ることはできない。
と言うことは、この思いもあと一ヶ月でゲームオーバーということだろうか。
ふと、心に暗いものが翳った。
クラウドはそれを追い払うかのように首を一度二度振ると、ザックスの肩を担いで、客室へと運んだ。
巨体をごろんとベッドに放り捨て、クラウドはリビングへと戻る。
スウィートもこう広いと厄介だ。
だいたい、自分ひとりしかいつもいないのに、寝室が三つある時点で無意味だが。
それに広いリビングとダイニング。
しん、と静まった空気。
クラウドはまた一人で酒宴をしようとした。
そのとき、チャイムが部屋に鳴り響いた。
「誰だ、こんな時間に・・・」
来客の予定など入っていないこといぶかしみながら、クラウドはロビーへと出た。
のぞき穴から外を覘いてみると、クラウドは先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやら、上機嫌でセキュリティを解除してドアを開けてやった。
「ふ・・・ふえ・・・クラウドさ・・・」
そこには顔を真っ赤にして、大泣きしながら自分を見上げてくるエアリスがいた。
「どうしたんだ?」
努めてやさしく声をかけながら、クラウドはエアリスを部屋へ入れてやった。
エアリスはしゃくり上げながら、クラウドに促されるままに、ソファーへと座る。
クラウドは酒で少しハイになっていたのか、いつもより、エアリスを正面に捉えてそわそわしていた。
気を落ち着かせようとして、エアリスの隣に座りながら、腕を組む。
エアリスは暫く何も話さなかったが、やがてぽつりぽつりと言葉をつむぎだした。
「・・・ティファ・・・ちゃんが・・・こ・・・ここここ・・・・こんにゃく・・・」
「は?」
今エアリスはこんにゃくと言ったか。
ティファがのどにこんにゃくを詰まらした・・・?
まさか。
「お・・・・式・・・わた・・し・・・おいていかれ・・・」
エアリスはぽろぽろと零れ落ちる涙を拭いもせず、しゃくり上げる。
「今までずっと一緒だったのに・・・ティファちゃん、外国に行っちゃうよ・・・」
クラウドの頭はようやくこんにゃくから脱した。
こんにゃくじゃなくて婚約だ。
ザックスの言っていたことは本当だったのだ。
それしても、早い(汗)
「う・・・うわーーーん!!」
エアリスはショックのあまり家出をしてきたようだった。
それで自分のところに訪ねてきてくれたのが、クラウドは正直嬉しかった。
いかんいかん、他人の不幸を喜んではいけないぞ、クラウド←クラウドは酔うと素直になるようだ。だから、ザクセフィコンビにべらべらと自分の思い人につい
て語ってしまったようだ
エアリスにしても別にザックスに大事な妹を取られたのが悔しいわけではないのだろう。
ただ純粋に、ティファと別れるのが悲しい違いない。
「ひっく・・・ひっく・・・」
しゃくり続けるエアリスを前に、クラウドができることは無かった。
抱きしめれば唐突だし、黙っているには気まずすぎた。
堂々巡りのまま、だんだん激しく泣き出すエアリスをいさめようと、クラウドは口当たりのいい酒を彼女の前に置いた。
「ちょっと飲めよ・・・落ち着くぜ」
「ふっ・・・ずる←鼻を啜った ・・・は・はひ・・」
クラウドはクリスタルガラスのコップに口当たりのよく、甘い酒を注いでやった。
エアリスは鼻を啜りながら、ぐい、とコップに口付けた。
その瞬間だった。
エアリスの手からコップが零れ落ち、彼女の体はソファーへと横倒しになった。
「エアリス!?」
「・・・・・・」
ビクともしないエアリス。
気分でも悪くなったのだろうか
だが、クラウドがあわてて近寄ると、エアリスは寝息を立てていた。
「・・・酒にめちゃくちゃ弱いのか?・・・ったく」
しょうがなく、クラウドはエアリスをザックスとは違う寝室に連れて行こうとした。
だが彼女の体を抱き上げて、クラウドは硬直した。
伏せた長い睫が影を落とす、美しい顔。
ほつれ、オレンジの灯を浴びて透ける、栗色の巻き毛。
陶磁器のような真っ白な肌は、灯の光によって、暖かな色を宿し、弾みで脱げたパンプスを追えば、すらりとし且つ華奢な足が目に付いた。
覗けた首筋からどうしても目が離せなくて、クラウドはエアリスの体をソファーに戻した。
蛇に睨まれたかえるのように、その場から動けない。
かの旧約聖書のヨセフは、淫らな誘惑に屈しそうになったとき、女に掴まれた外衣を脱ぎ捨ててまでその場から逃げたという。
理想を言えば、さっさとこの場から退散したほうがいいのだろう。
いや、そうするべきだ。
だがクラウドはエアリスを前にして、じっとその姿に見入っていた。
思えば、遥か彼方。
手を繋いで大きなランドセルをしょって一緒に登校していたころ、彼女はある意味で自分にとって全てだった。
すっかり大人になり、美しく成長したエアリス。
・ ・・我慢するのは酷だった。
クラウドはそっとエアリスに顔を近づけた。
もう少しで唇が触れるというところまで・・・。
「私はそう言うのは、いかんと思う。うん、私はいかんと思う」(俺は許されたいんだと思う、うん、俺は許されたい)
「・・・!!?」
いつの間にかクラウドの前には銀糸の髪を風も無いのにたなびかせたセフィロスがいた。
「彼女がここに来たところから私が見ていたから良かったものを。状況を見ろ。空の数本の酒のビン。こぼれた酒。眠る女。それに覆いかぶさる男。どう見て
も、お前が彼女を泥酔状態にさせて、昏睡した彼女を襲っているようにしか見えん」
「空瓶はザックスのだ・・・」
クラウドは突然現れたセフィロスに驚き、さらに恥ずかしいものを感じたが、心のどこかでほっとしていた。
「ま、とりあえずだ。彼女には手を出すな、さもなくば私が直々にスキャンダルにしてやろう」
セフィロスはさっそうとそう言い放つと、妙に偉そうな態度で、ソファーにどかんと座った。
「まあ聞け」
「・・・」
腕を組み足を組むセフィロスはこの上なく偉そうに見えた。
暫くその場を沈黙が支配した。
セフィロスは少し息を吐いてから、唐突に口を開いた。
「実はわが父と思し男がこの国いたのだ」
「え・・・!!?」
父とは無論、法律上のではなく、彼が言うところの父である。
その父に彼が会ったということは?
「勿論、俺はすぐにこう言った。『さあ、行こう父さん』。せっかくの父子の感動の再会だというのに、随分と驚いていたが・・・」
いきなり、男に『行こう、父さん』などと言われたら、誰だって引くだろう。
クラウドはそう考えたが、口にはしなかった。
「そして我々は遺伝子鑑定をしに行った。すると・・・・するとだな・・・・・」
わなわなと震えるセフィロス。
もしかして・・・
父親は・・・
「・・・・・・その男は父ではなかった」
「!!」
クラウドは今世紀最大の悲劇に直面した気になった。
セフィロスになんと言えばいいのだろう。
彼はヴィンセントが父親だと信じていたのだ。
自分だって、あんな薄気味悪い白衣の親父が父親だったら、泣き叫ぶ。
・ ・・まあ自分の父親も、浮気した最低野郎だが。
「そ・・・そりゃ残念だったな」
「ああ・・・」
「ま、気を取り直せよ。宝条が父親だろうと、あんたはあんただ・・・」
その時、セフィロスがぴきりと固まった。
その影を落とした表情があまりにも恐ろしくて、クラウドは言葉に詰まる。
「誰が宝条が父親だといった・・・?」
セフィロスへの禁句ワードが存在する。
それこそが、「宝条が父親」という言葉だった。
「は?」
「話をよく聞け。『その男は父ではなかった』のだ」
「だから、あんたの父親はヴィンセントじゃなかったのだろう?」
「何を聞いていたのだ。この愚耳が。私の父はヴィンセントだ」
「はあ・・・?」
わけが分からなくなってしまった。
セフィロスは父=ヴィンセントに出会って、遺伝子鑑定をしたらその男が父でなかったということは・・・しかし、ヴィンセントは父で・・・??
「説明してやろう。愚民め。私の父親はヴィンセントだ。これは前提だ、確定条件だ」
「・・・(使い方が間違っているぞ)」
「しかしその男は父ではなかった。つまりヴィンセントでは無かったのだ」
な・・・なるほど
「問い詰めてみると、どうやら若いころは女をとっかえひっかえ騙しては、子供ができるようなことをし続け、金だけふんだくって逃げる、ということをしてい
た奴のようだ」
だから、急に『父さん』と言われて、驚いたが病院に付き合ったわけか。
「だがその男はヴィンセントの特徴といえる長い黒髪を持っていた」
黒髪だからってヴィンセントだと思うなよ。
「その時だった。私たちの間を看板も吹っ飛ぶ強風が通り過ぎていった。瞬間、私の視界は黒一色に染まった」
・ ・・
「驚いて顔に手をやってみると、なにかごわごわしたものが私の顔に乗っているようだった。私はそれを手に取った・・・」
・ ・・・・・・
「・・・かつらだった・・・」
眠くなってきた・・・
「そこには見るも無残なバーコード禿があった。あれは一種の公害だった」
「もういい」
馬鹿だ、こいつ。
一週間後
「だ・・・大丈夫ティファちゃん?ちゃんと向こう付いたらお電話頂戴ね。拾い食いは駄目だよ。おトイレ行きたくなったらーーーーー」
「あー、もう良いわよ!お姉ちゃん!お姉ちゃんこそ大丈夫なの?」
エアリスは隣に立つクラウドを少し仰ぎ見た。
目が合って、クラウドが少しだけ笑いかけてきたように思えた。
「う・・・ん・・クラウドさんが面倒見てくれるって・・・」
ティファはクラウドをじろりと見て、それから隣に立つザックスに振り返った。
「ま、大丈夫っしょ。さ、行こうぜティファ。飛行機出るぞ」
「うん!じゃあお姉ちゃんも向こうで元気でね!!」
ティファは大手を振りながら、スーツケースを手にザックスと一緒に消えていった。
その後姿をエアリスは見えなくなるまで見つめていた。
だがやがてその肩にぽんと手が乗せられる。
「俺たちも行くぞ」
「は・・はい」
エアリスもキャリーバックを手に、クラウドとまた別のゲートに向かう。
「・・・とりあず、母さんに会ってくれ。懐かしがっているから、さ。それから後のことをいろいろ考えよう」
この二人も、新たな出発点に立ったところだった。
付き合ってもいないが、取りあえず、エアリスはドイツに行くことになった。
そこで二人で黒い森に行くのだ。
「はい!」
エアリスは少しの緊張を滲ませながら、嬉しそうに応えた。
・ ・・・
ティファは、その後、ザックスと結婚。
強烈なセックスアピールと、類まれな身体能力で、リノアを脅かす『セクシー女優』且つ『格闘派女優』になったそうだ。
この世界のアンジ○リーナになったらしい。
その彼女の最近の出演作は、愛する夫ザックスとともに、敵対するチームの暗殺エージャントとして共演することが話題になった、
『Mr&Mrs スズキ』
だそうだ。
FIN