SURVIVOR 刹那な時

SURVIVOR

刹那な時

SURVIVOR 刹那な時


「カイリ、何してるんだよ?もう行くぞー!」

ソラは先程からきょろきょろして落ち着かないカイリに声をかけた。
カイリは泣きそうな顔になって言う。

「お姉ちゃんがいない・・・」

お姉ちゃんとは他ならぬエアリスのことだ。隣にいたリクがため息をつく。

「エアリスはもう行っちゃったんだって。知らなかったのか?」

リクの言葉に、カイリは相当ショックを受けたらしく、めそめそ泣きだした。

カイリのエアリス病が再発したとばかりに、ソラとリクはお互いの顔を見合わせた。

「いい加減にしろって」

ソラの言葉にリクは同調して頷く。

「そんなに泣いてると、試験に落とされるぞ。そうしたらエアリスにも会えなくなるぜ」

カイリはびくりと肩を震わせる。
試験に落ちたら廃棄処分にされてしまう。そうしたら・・・お姉ちゃんに会えない。

死ぬか生きるかなど、大した問題ではない。ただ−−−会えるか、会えないか・・・。

「っ、いいもん。ソラとリクよりもいっぱいいっぱい倒すから!」

涙を振り払い、カイリはきっと二人を見据えた。
リクはやれやれと肩をすくめながら、ふと思いつく。

「そういや、新型のさー」
新しい物好きのソラが、リクの言葉にいち早く反応する。

「新型!!なにが?」

リクは苦笑する。

「新型の武器、さ。ルードが言ってた。三つあるんだって」

もしかしたら、それを貰えるのは自分達かもしれない、とふと心の中で思う。

「さ、行こうぜ。誰が一番成績いいか競争だ」




開始の合図と共に、“敵”が突っ込んできた。
リクは神経を研ぎ澄ます。すれ違うその瞬間に、ソウルイータをひらめかせ、相手の首を切り落
とす。
背後から、側面から、また別の“敵”が襲い掛かってくる。

後ろの奴がライフルで撃ちかかり、横の奴はリクの剣より長い獲物を抜き、迫る。

「数ばかりいたところで!」

−−−雑魚のくせに!!

“ソウルイータ”を水平に大きく振りかぶり、背後に投げ付ける。刄は高速で回転しながら敵に
迫り、ライフルごと体を分断する。リクはそちらには目もくれず、側面の敵に向かって走り寄る。
走りながら懐から、飛び道具用のナイフを二本取り出した。二つの刄をクロスさせ、振り下ろさ
れたサーベルを、受けとめる。すぐさま相手の剣をもぎ取り、それで丸腰の相手を斬り伏せた。

その瞬間、刻々と時を刻んでいたサイドモニターが、電子音をたてて止まった。

−−−8,53

「やはりお前かな、リク」

ほっと一息ついたところに、淡々としたルードの声が響く。リクは彼の方に振り返った。

「ついてこい」

リクは内心にやりと笑い、ルードの後に付いていった。細い通路を通り、Bブロックに入る。ルー
ドに導かれるまま、複雑に交わう廊下を進む。
すると前方に、リクが今まで一度も見たことがない、ゲートが表れた。

未知の世界に期待も高まる。ルードがカードキーを挿入すると、宝箱の扉が開けた。

「こっちだ」

導かれるままに、暗やみの中を進む。

「止まれ」

辺りを見ようとして、視神経を張り詰めていたリクは、急に止まったルードの背中にぶつかりそ
うになった。
ルードが手にしたカードキーをまたどこかにスライドさせると、真っ暗だった部屋がぱっと明る
くなった。リクは眩しさに目を細める。

だがようやく平常を取り戻しはじめた視界に、巨大なブレードを発見して、一気に眩しさも忘れ
た。

「すげえ、ミスリルの巨大ブレードだ」

目を輝かせるリクに、ルードは壁からそれを外して手渡した。

「・・・っ重」

手にしたそれが、ずしりと肩にくる。思わず取り落としそうになって、リクは慌てて腕に力を込
めた。

「お前には荷が重いか?」

その言葉にリクは思わずむっとなる。

「そんなことないさ!すぐに使い熟してみせる!」

ルードがサングラスの奥で目を細めた気がした。

「それでいい。使い方は・・・」

リクは強気でルードの話を遮った。

「そんなものはいい。ただぶった斬るだけさ」

テニスボールの直径ほどの太さのつかを掴んで、頭上でバトンのように回転させる。。

ブレードの切っ先を、馬鹿にされたお返しとばかりに、ルードの鼻先に突き付ける。

「特殊武装があるんだろう?“他の二種”も。こいつの名前は・・・?」

ルードは微動だにせず、平然と口を開く。

「“プラズマ収束刀シュナイツベール00(ゼロゼロ)”。レーザーを反射するミスリルの・・・」

「だから説明はいいって。まあ、わかりやすいけどな」

したり顔に切っ先を引っ込め、リクはきびすを帰す。

去りぎわに一度、中で“シュナイツベール”を振り下ろすと、傍にあったミスリルの金庫が、プ
ラズマで切り裂かれた。

中からぼろぼろと札束が零れ落ちてくる。
リクはそれをちらりと見ると、それ以上そちら側に目を止めず元来た道を走っていった。
ルードは薄皮の剥けた鼻を擦りながら、ため息をついた。




ソラはイリーナに連れられて、リクの時と同じ作りをした部屋にきていた。
イリーナは彼に、巨大なライフルを手渡した。それは側面から見ると、ひらべったいシールドの
ようで、先端に70oの銃口と、直上にスコープが埋め込まれている。

「ライフルかよ・・・?」

期待はずれな武器にソラはがっかりした。

新型と言うから、どんな奇抜な形をしているのかと思えば、ただの大きくて平べったいライフル。

だが大仰にため息をつくソラに、イリーナは意地悪げに笑ってみせた。

「“リガー”の最新兵器がただのライフルだと思っているの?」

意味深なイリーナの言葉に、ソラは伏せていた顔をさっとあげた。

「え・・・?」

不思議そうな顔をするソラを余所に、イリーナは手近にあったモニターに情報を映し出した。
CGで作られたデモ映像が流れる。

「近接用特殊攻撃シールド“シュパレンツァー01(ゼロワン)”」

モニターには様々な攻撃システムが矢継ぎ早に映し出されていく。ソラは目を丸くしながらその
一つ一つを追った。

「自動反撃システム“サンダーパルス”。高出力“プラズマライフル”。高速射出ブレード“ア
ポカリプス”。四連射突撃槍“グランプスニードル”。ミスリルブレード“エナジークロイツェ
ル”。・・・一つの楯に、様々な攻撃オプション、奇襲オプションを追加し、近距離戦を考慮し
て、防御面にも特化した武器。気に入らない?」

ソラの気持ちを理解した上で、イリーナはからかう様に微笑む。

「これを・・・おれが?」
半信半疑で呟くと、ソラはそっと“シュパレンツァー01”を右腕に装着した。自分のために作ら
れた−−−と言っても過言ではないほど、フィットする。右肩から指先までを覆う巨大なシール
ドの割に軽いのは、ミスリルだからだろうか。

「リクは・・・?カイリも新しい武器、もらっているのか?」

期待で瞳をいっぱいにして、ソラはイリーナを見上げた。イリーナは含み笑いをして頷く。

「おれ、リクとカイリと見せっこしてくる!」

ソラは一度二度、嬉しそうに“シュパレンツァー”を振ったのち、駆け足で出ていった。




カイリはミサイルランチャーを左肩に乗せ、右手でそっとトリガーを引き絞った。連結したラン
チャー砲のポッドが一斉に開き、幾つもの筋を描きながら、ミサイルが飛来する。
ミサイルがすべての目標に着弾するのを見ながら、レノはこれだけのターゲットを一度にロック
するカイリの能力に驚き入る。
超強度の防弾ガラス一枚隔てたところで、残弾数が空になった小型のランチャーをカイリが投げ
捨てた。

「お見事さん、と」

床に広がる赤い泌抹。
肉や骨片をちらりと見て、レノはたたずむカイリに声をかける。

「ねえ、わたしはリクとソラより速かった?」

実は三人のなかで一番の負けず嫌いなのがカイリだ。施設に入ったときから、競争と名の付くも
のには人一倍敏感だった。

「あー、カイリが一番速かったぞ、と」

確かめもしないレノがてきとうに放った言葉を信じて、カイリは喜ぶ。レノは誤魔化すように言っ
た。

「実はそんなカイリにプレゼントがあるぞ、と」

「プレゼント!お菓子くれるの?」

ご褒美はいつも、ほんのときたま貰えるお菓子。
だがレノが、いや、“リガー”が手渡す物は、そんな物ではないのだ。

カイリは何も知らぬまま、レノの後に付いていった。
今まで来たことのなかった格納庫に、ようやく、貰えるのがお菓子ではないことに気付く。
不安げにレノを見上げると、レノが少しだけ口の端を釣り上げて笑った気がした。

一、二分しただろうか、迷路のような通路はどこもかしこも真っ黒で、カイリは自分の方向感覚
がおかしくなっていることを知った。
頭を一度二度ふって、霞みはじめた視界をクリアにする。

「ほら、カイリ着いたぞ、と」

カイリははっとして顔を上げた。
目の前に鉄の扉が立ちふさがる。

カイリの目の前で、重い扉が開き始める。

重厚な入り口の割に、中の格納庫は小さかった。レノと、自分と・・・そして目の前にある、大
人ほど大きな皮袋だけで、部屋はいっぱいだった。

皮袋の中には、何か大きな円柱状のものが入っているように見えた。

レノが壁に立て掛けられていたそれを、自分の目の前に差し出した。

「・・・近距離対応高出力エネルギーランチャー“ダルダス02”。カイリの新しい武器だぞ、と」

カイリは目を輝かせた。
新しい武器。なんて素敵な言葉だろう!
これが自分の物になるなんて。

カイリの小さな体には大きすぎるように見えるランチャー。
それをカイリは肩にゆっくりと担いだ。
ミスリルをフレームに採用しているとは言え、数十キロに及ぶ重みが、カイリにのしかかる。

腰と足が悲鳴を上げるが、それに反してカイリの心は昂揚する。

持っただけで分かる。
これは最高の武器だ。
わたしの“ダルダス”は。

滑らかなフレームから、この“子”の気持ちが分かる。どうやって使えば良いか。どういう風に
この“子”が使ってほしいと望んでいるか。

「わたしは、きみが望んでいること、叶えてあげられるよ」



「“リガー”に内部抗争が起きる・・・か」

マントを羽織り、凛とした雰囲気を漂わせる女性が、デスクの上に書類を投げ出した。
デスクの向かいに立った薄汚れたジャケットに、カーキのバンダナの男−−シアーズ−−が口元
に薄ら笑いを浮かべる。

「攻めやすい、ってもんだな」

今あの施設には、責任者二人が不在。
経営者二人まで対立しており、お互い援護できず・・・。

「お前が交戦したという“ニムロデ”二体はどうした?」

女性は鋭い視線をシアーズに向ける。

「相変わらず、動きゼロ、だ」

「お互い、腹の内を探りあってでもいるのか」

今仕掛ければ、どちらが先に動きだすか・・・。

否、崩れるか。

それにしても、とシアーズは考える。
できれば、もう一度戦ってみたかったものだが。
クラウドとエアリスと言う、二体の“ニムロデ”と。

「闘いたかったか?そいつらと」

表情に出てしまったのだろうか。目の前の女性に聞かれ、シアーズは仕方なく答える。

「まあな。あいつらは他の“ニムロデ”とは違う。エルフェも会ってみれば感じる。あの独特の
感覚を・・・。あいつらは“ゴリアテ”だからな」

「なにッ!?」

エルフェと呼ばれた女性は勢いづいて椅子から立ち上がった。その端正な顔に憎悪の光が灯る。

「“ゴリアテ”。旧約聖書に出てくる、巨大なフィリステア人の怪物・・・。神を侮った“ニム
ロデ”よりも遥かに強大、か。“リガー”め、その二体が初の完成体かっ」

エルフェは憎々しげに吐き捨てる。そうしてすぐにシアーズに命令を下した。

「“施設”を崩すぞ。準備を皆にさせろ!」





“ゴリアテ”。それは“ニムロデ”の遥か高みに位置する存在。

−−−子供たちはまだ、なにも知らなかった。



SURVIVOR−刹那な時 終