SURVIVOR プロローグ

SURVIVOR

プロローグ

SURVIVORプロローグ

“ニムロデ”。

それは類い稀なる戦闘力を身につけた子供たちの総称である。

様々な勢力が争いあうこの混沌とした世界。

攻め、また攻め取られ、力なくば守ることもできず、やがては強国に飲み込まれ、総ては焦土と
化して何も残らない。

求めるのは力。

異種多様な兵器が開発され、何度も改良され、人々は殺しあった。

やがて資源は底をつき、大型戦闘機・兵器の製造は否応無しに中止され、それでも止まぬ戦闘は、
白兵戦ともつれ込む。


そのため必然的に求められたのは、僅かな武器でも最高の成果をあげられる優秀な人材だった。

しかし神経系はごく幼い頃に完全に形成されるため、成人兵を鍛えるのは難しく、十分な成果を
得ることはできなかった。

白羽の矢がたったのが、まだ言葉もうまく話せぬ子供たちだったのは、至極当然のことであった。

人道など、平和だからこそ叫べる綺麗事にすぎない。

その需要が高まる中、この新しいタイプの“兵器”に開発・生産に着手したのが、先の資源不足
により一気に窮境に陥っていた武器製造会社“リガー”であった。

数えきれないほどの薬物投与を代表する人体実験、“サンプル”の比較対照実験を経て、リガー
はほぼ完全なプロトタイプを作成することに成功した。

十体のそれは試験的に配属された戦闘において輝かしい戦歴を残し、ニューウエポンズの性能を
実証した。
リガーは膨大な資料を徹底的に機密として隠し、莫大な資金と技術が必要とされるこの新たなビ
ジネスを実質自らの専売とした。

ニューウエポンズの生産が始まり、その“原材料”となったのが、この時勢には腐るほどいた戦
争孤児だったのもまた、至極当然のことだった。



“イベリア”−−−古代都市の様相を今に残す美しい国は、ほんの数日前にその長い歴史に終わ
りを告げた。
数少ない貴重な鉱物資源を未採掘のまま保有する豊潤な国土。

それを狙う軍事国家“バベル”はこの数少ない温和な国に、到底受け入れることのできない要求
を押しつけ、それが飲まれないと見るや、これを攻め取った。

国の命運をかけたイベリア攻防戦は、圧倒的な軍事力の差により、僅か一週間で幕を閉じた。バ
ベルは総倒戦と称し、市街地に攻め入り、虐殺と略奪の限りを尽くした。


ありとあらゆるものは砲弾を打ち込まれて崩れ落ち、美しい外観の影すらない。しらみを一掃す
るかのように放たれた火は瞬く間に業火となって、全てを容赦なく焼き払った。


以前までメインストリートだったその道の瓦礫を少年の小さな足が踏みしめる。
少年は地獄を見た。

砲弾があたって砕ける瓦礫の下敷きになる者。
放たれた火が体に灯り、耳をつんざくような悲鳴と共に火だるまになった者。

少年は地獄の中で様々な死を見た。必死で握っていた母と父の手はいつのまにか無くなっていた。


少年は泣くことさえ叶わず、その小さな足で瓦礫に覆われたメインストリートを歩いていた。

疲弊しきった表情は、三、四歳の子供のそれとは思えない。

極限状態を知った少年は、両親を求めることもせず、自らの生にのみ思考を向ける。ぎりぎりの
精神状態の中、さもすれば狂乱しそうな意識をその小さな体に抱えて少年は歩き続けた。

ふと少年は足を止めた。
どこかで見た風景。跡形もなく破壊された世界の中で、その場所だけが浮き彫りにされたように
目についた。
壊れた滑り台。焼けたブランコの鎖。

それが毎日のように遊んだ公園だと理解した途端、体を突き破りそうなほどの悲しみが全身を満
たす。

深い絶望が襲い、恐ろしいほどにクリアだった視界が曇る。

涙がはらはらと頬を伝い、零れ落ちて乾いた地面に吸い込まれる。ぼろぼろ泣きながら少年は呻
いた。

「う・・・ああ・・・」

喉が軋む。体全体が痙攣する。焼き払われ草一本無い大地を乾いた風がゆく。

少年は助けを求めて叫んだ。
「だれか・・・!だれかいないの!」

この場所からどうか助けて、連れ出して。

悪い夢だと言って。


嗚咽だけが響く公園に、少年は取り残された。心も体も共に。

たがしかし、そのとき彼の耳に、瓦礫を踏む小さな足音が聞こえた。

幼い少年は、わらをも掴む思いで辺りを見回した。

「あ・・・」


栗色の髪の同じぐらいの歳の少女が、大きな目に涙を溜めて、こちらへ歩いてくる。

それは彼が求めた守ってくれる大人ではなかったが、それでも心を勇気づけるには十分だった。

少年は少女に無言で手を差し出した。
少女もまた言葉一つもらさず、その手を堅く握る。

「行こう」

どこに行くのか、それさえわからない。



プロローグ終