SURVIVOR 崩壊の時V

SURVIVOR

崩壊の時V

エアリスは自分の接近に気付いた兵士が数人こちら側に向かってくるのを見 た。

それに連動して、手持ち無沙汰の他の兵も、釣られるようにしてやってくる。


ーーー虫けら

大量の薬物を体に注入され、エアリスの意識は半ば朦朧としていた。

僅かに残った些細な意識下では、攻撃してくるモノも、餌にまとわりつく蟻のように見えた。

ざわざわして、気分が悪い。

踏み潰してやりたい。

攻撃的な衝動が、ふとエアリスの体を駆け巡る。

《蟻》が、銃を構えるよりも早く、エアリスは、六本のナイフで、数人を刺し殺した。

死体から素早く銃をもぎ取り、戦意を喪失した生き残りの頭を容赦なく撃ち抜く。

鮮血が吹き出すその前に、近くにいた最後の一人の顎を左手に持った銃のグリップで殴り、右手
で握ったナイフで首を掻き斬った。


「ふ・・・ふふふっ」

何だろう、この血沸き肉踊るほどの喜びは。

今までこんなことなかった。

それは獣が獲物を引き裂くときに似た、本能のような喜びだった。


あいつらは虫けら。

圧倒的な力で相手をねじ伏せ、奴らより遥か高見から見下ろし、今までの自分を超越した存在に
なる。

もっと強い敵を!

エアリスは、ツォンから敵がクラウドであると聞いたとき、少なからず驚いた。

最初はとても悲しかった。でも、今は強い敵と戦えると思うだけで、体中の細胞が歓喜の悲鳴を
上げた。


エアリスの思考は、大量の薬の所為で、記憶を一つに繋げて考えることは出来なくなっていた。

クラウドはクラウド。
敵は敵。

彼への一種の愛情めいた感情は、すでにばらばらになって、頭の中で溶け消えてしまった。


エアリスの優れた聴覚が、先も見えない向こうで、聞き慣れた少年の声を捉えた。

−−見つけた!

エアリスは自分の体の隅々が昂揚するのを覚えた。

走るスピードを速めた彼女は、まだうら若い鹿のようにしなやかに、そして残像さえ散るかのよ
うに俊敏に駆けていった。

あれ(クラウド)は自分の獲物だ。だれにも渡さない。絶対に自分の手で仕留めてみせる。


−−見えた!

エアリスに見れる距離ならば、クラウドはすでに彼女の姿を捉えているはずだった。

だがどうだろう。
相手は何故だか嬉しそうに見えた。
自分を抱き留めようとでもするかのように、両腕を開いている。

エアリスも嬉しかった。

相手を捉えるその瞬間が、鮮明にイメージできた。

クラウドは未だ手を広げている。その胸部は無防備で、エアリスを誘っているように思えた。

あと少し。
もっともっと速く走れる気がして、エアリスは自分の足に回転速度を速めるよう命令する。
すると、脚は自分の一部ではなく、まるで、胴体についた機械であるかのように、彼女の命令に
いとも簡単に従った。
限界なんて無いように思える。

エアリスとクラウドの距離はいよいよ狭まった。

歓喜が−−−空虚なはずの心が偽りの光で満ちた。


エアリスはさらに加速度を付けて、吸い込まれるようにクラウドの胸元へ、ナイフを踊らせた。
時が止まったかのようだった。
クラウドの腕は包み込むようにエアリスの腰に回され、硬直した二人はまるで抱き合っているよ
うに見えた。

「う・・・」

だが次の瞬間、低い呻きを残して、クラウドの体が仰向けになって倒れた。
内蔵に損傷を受けて、口から赤い飛末が飛ぶ。
悶絶するクラウドを見下ろして、エアリスはまだ彼の服が、血に染まっていないのを見た。

沸き上がった憤怒に突き動かされて、エアリスは止めを刺そうとした。


クラウドの体にのしかかり、ナイフを振りかぶる。

防刃スーツを着ているなら首を!

しかし、彼女の望みとは裏腹に、その切っ先は固い地面に吸い込まれる。

「・・・っ!」

その瞬間、クラウドに体を蹴り上げられた。
下から突き上げるような衝撃と、腹に走る鈍痛に、エアリスは呻いた。

エアリスは吹っ飛ばされながら、くるりと体を反転させて、四つんばいになって地面に着地する。

すかさず、ばねのような両足で地を蹴り、獲物に襲い掛かる狼のように、クラウドに飛び付いた。

「エアリスっ!」




続きは配信中・・・。