S.D.R

S.D.R






PM11:00、埠頭。

とある港の古びた倉庫の前で、男二人がしゃがみこんであるものの到着を待っていた。

 

金色の腕時計に光を当て、時間を確認するのは先輩格のクラウド。

クラウドが胸ポケットからタバコを取り出すと、後輩のティーダはライターを取り出して火をつける。

 

 

「・・・そろそろだな。」

「いったい、何の取引なんすか?クラウド先輩。」

「俺がこれから始める、壮大な快楽主義計画のための取引だ。」

「・・・こんな怪しいところでそんなことしなくてもさぁ〜・・・。

 合コンやりましょうぜ、合コン!手軽に快楽を味わえますよぉ?俺がセッティングしますって!」

「バカか、ティーダ。そんな低次元の快楽なんかに浸って満足できるかっ。

 合コン程度のものだったら、俺がわざわざお前をこんな場所に誘ったりはしない。」

 

 

クラウドの求める快楽。

合コンで女と酒を飲みながらお気に入りの子を探して、

そのまま持ち帰れたらいいな・・・というレベルのものではない。

 

もっともっと、動物的欲望に満たされた空間・・・。

クラウドの求めるものは、S.D.R.の世界。

過激な刺激を、身体が欲しがっているのだ。

 

 

11時を少し回ったときだろうか。

埠頭にその存在を隠すようにして入ってきた一隻のクルーザー。

クラウドの取引とは、クルーザーの購入交渉のことだった。

 

 

「遅かったな、ヴィンセント。」

「・・・・・・誰にも気づかれずにここまで来るのはかなりの難しい注文だ。

 多少の遅刻は許容範囲としておいてくれよ、クラウド。

 さて、お前の計画に付き合うんだが・・・このクルーザーで、よかったか?」

「ああ・・・中古の割にはなかなか程度がいいじゃねえか。」

「当たり前だ。破産業者の社長の財産を差し押さえてきたんだよ。

 たったの数回しか使われてない極上品だ。」

「さすだがな・・・礼はたっぷりとやろうか?」

「たっぷりでなくてもいい・・・お前がこの大きな計画に成功し、闇の世界で

 生きていく術を見つけることができたら、俺はそれでいいんだ。」

「生きていく術・・・か。よし、あとは客寄せをよろしく頼むぞ。」

「任せろよ。そのでかいクルーザーに乗せる客も、必要だってわけだからな。」

「なるべく、多く集めるんだ。あと、あの船との連絡も取れているだろうな。」

「それも大丈夫だ。しかし、お前もあの頃に比べると相当変わったな・・・。」

「俺は何も変わりはしない。さ、時間がない。さっさと準備にとりかかれ!」

「そうだな・・・楽しいショータイムになることを、期待しているぞ。」

 

 

ヴィンセントが再び闇の中へ消えたのを見送った後で、クラウドは

クルーザーの中を念入りに点検をし始めた。

闇取引ゆえに、ヴィンセントを信頼してはいるが何が起きるかわからない。

爆弾や盗聴器など、怪しいものが仕掛けられてないかどうかを見るのだ。

 

 

クラウドと一緒にクルーザーに乗り込んだティーダ。

なぜクラウドが景気のいいときでもないのにこんなものを手に入れたのか、にわかに理解できない。

 

 

「なんすかぁ?これ。」

「これでパーティーを開いて、女とともに豪華クルージングを楽しむのさ。」

「はぁ〜〜〜〜〜・・・・・・バブルのはじけた今、そんなもの流行らないっすよ。

 やっぱ合コンっすよ合コン!俺、もうつきあってらんないっす。」

「・・・じゃ、ここまででいい。この先の領域は、お前じゃ味わえないだろうからな。」

「・・・わかんねーよ、もう!!ああ、俺じゃわからない味だろうさ!

 てゆーかさ、そんなに一人の女との別れが悲しいのかぁ!?

 あれから悪魔のように頭が狂ってしまってるぞ!?」

「うるせぇっ!!お前にあいつと俺の仲の何がわかるっていうんだ!!」

 

 

・・・一人の女との別れ。

クラウドには、数年前に生き別れてしまった女がいた。

自分にとっては、これが最初で最後の、最高の女だと今でも思っている。

清楚で美しく、綺麗な面もありながらどこか子供っぽさも兼ねていた人だった。

 

互いに、永遠の愛まで誓い合った。

でも、その人は・・・・・・。

突然連絡がつかなくなり、姿も消してしまったのだ。

行方不明になったことを知ったクラウドは、失意のあまり港で飛び込み自殺をはかったのだ。

 

その自殺を止めたのが、闇の使者・・・ヴィンセント。

取引中だったヴィンセントは生きる希望を失ったクラウドに、最高の快楽を提供することを約束したのだ。

 

 

「クラウドっていうのか・・・たかが女一人くらいで自殺をすることはない。

 いいか、空を見ろ・・・。」

「空ぁ!?」

「綺麗な星空だろ?この辺は暗いから、星空も綺麗に見えるってもんだ。

 なぁ、女なんてのは、あの星の数ほどいるってわけだぞ。

 良くあるセリフだが、本当のことだ。」

「バカかよ、お前。星の数ほど女はいらねえよ。俺に合う女は一人しかいねえんだ。」

「フッ・・・この俺にバカとはなかなか言ってくれるじゃねえか。

 でもまぁ、その様子なら俺の世界でも生きていけそうだな。」

「・・・お前の世界?」

「世の中には、もう一つの世界が存在する。最高の快楽に浸りながら生きていく世界だ。」

「どんな世界だ?」

「・・・S.D.R.な世界だ。」

「エス・ディー・アール?」

「動物的欲求のままに動き、欲望の中でひたすら快楽を味わい続ける天国の世界。

 そんな一人の女に自分の人生を引きずりまわされてきた過去にもさようならさ。」

 

 

エス・ディー・アール。

何のことだかさっぱりわからなかったが、心の中に大きな穴の開いたクラウドには、

それがきっとその穴をふさいでくれるだろうと期待をし、ヴィンセントの世界に溶け込むことにした。

最高の快楽に浸り続ける世界・・・そんな世界を求めて。

 

 

それからクラウドは闇取引の番人として大きな役割を果たすことになる。

取引のトラブルも、クラウドの拳でたいていは収まる。

クラウドの腕力は人間離れしていて、ひとたびその拳を食らわせば

普通の人間なら一発であの世へ葬ることもできる。

 

 

ヴィンセントのからの報酬は、現金と白い粉だった。

大麻、覚せい剤・・・それらを含んだら、気分が凄く高揚して、何でもできそうな気分になれた。

ヴィンセントはそのとき、これがS.D.R.の世界の、ほんの玄関程度のものだと教えてくれた。

 

 

ヴィンセントとの信頼を深めたクラウド。

そのヴィンセントが今回、クラウドの欲望を満たそうと動き出したのだ。

クラウドにS.D.R.の世界を見せてやる・・・最高の快楽を見せてやると。

 

 

「そろそろ、お前に天国の世界を見せてやらないとな。

 クラウド、お前の欲望は、どんな感じのものだ?」

「ああ・・・俺はこれこそS.D.R.の世界だというものを探しあてた。

 その世界に飛び込むのに、ヴィンセント・・・お前の力が必要だ。」

 

 

そしてクラウドはヴィンセントに、自分の考えている一つの計画を持ちかけた。

・・・その内容は、とても普通の人間のすることではなかった。

でも、これこそ最高の快楽の境地。金にも困らない。

クラウドの立てた計画に、ヴィンセントは最大限の協力を約束した。

 

 

「・・・そうさ、ここから先は、常人じゃ味わえない・・・その味もわからない

 最高の快楽があるからさ・・・。今の俺なら、それができる。

 S.D.R.の世界の玄関をくぐった俺は、あとは階段をかけ上がって頂上まで上るのみ!」

 

 

クラウドの言動に恐ろしさを感じたティーダは、逃げるようにクルーザーを降りて

そのまま闇の中へと走り去っていった。

クラウドはしばらくティーダの逃げ去っていった方を見ていたが、

不気味な微笑とともに再び点検作業を続けた。

 

 

それから十数分たち、遠くのほうから車の排気音が聞こえてきた。

先頭はヴィンセントの車で、後ろに5台ほどついてきている。

 

 

「来たか、お前ら。」

 

 

ヴィンセントが引き連れてきたのは、普段一緒に取引活動をしている仲間たちだ。

ざっと10人程度・・・降りてきた男達は皆ホストのような格好をしている。

 

 

「待たせたな、クラウド。」

「ああ・・・しかし、肝心の客がこないじゃないか。」

「客もこの後ちゃんと現れるから安心しろ。この場所にな。」

「こんな光の当たらない場所に集まるのか?」

「運び屋がいるんだ。そのうちワゴンでここまで拉致ってくるよ。」

「・・・そうか。なるべく、多く詰め込んでこいよ。

 S.D.R.の世界を堪能するためにもな。」

「ああ、最高の快楽の世界・・・性と薬に満ちた世界をな。

 さあ、出航準備だ・・・客を詰め込んだ瞬間、即船出だ!」

 

 

そうさ、俺達の言うS.D.R.な世界は、最高の快楽の世界。

 

Sex, Drug, Rock 'n' roll...

 

性欲と薬のロックンロールで、踊り続ける世界なのさ・・・。

 

 

遠くから、またまた車の排気音が聞こえてくる。

今度は派手な装飾を施したミニバンが2台。

運び屋が、今回のS.D.R.な快楽世界を提供してくれる女達を連れてきた。

 

 

この女達は、汚れた金で釣り上げて、豪華クルーザーで極上の酒を堪能しながら

男達と甘い一時を過ごさないか?という誘いにまんまと乗ってきた奴らだ。

これから得られる最高の快楽と多額の金に比べりゃ、この程度の金と酒なんて

あまりに安すぎる餌に過ぎない。

 

・・・そう、このクルーザーはある船までの運搬船のようなもの。

ある船とは・・・人身売買を行う女性専用の奴隷船だ。

 

 

いまどき人身売買なんて・・・と思うかもしれない。

確かに数こそ最近では監視も厳しくなって減ってきてはいる。

しかし、こういった闇の世界というのはどんなに周りが厳しくなっても

廃れることはなく、周りの目をすり抜ける技術を磨いて活動を続けるのだ。

 

そしてクラウドはクルーザーから奴隷船に乗り込み、ほとんどの時間を船上で過ごす計画だ。

運搬船が人身売買のために日々運んでくる女を選別しながら、

外国へ行ってその女達を奴隷として売り飛ばす。

当然、綺麗な女ほどその価格は上がるものだ・・・。

 

だから、運搬船から女が運ばれてくる限り、金に困ることはない。

運ばれた女は奴隷として売られて、与えられる職業はどうせ性の道具としての水商売。

女を選別するついでに、自分もその女達を食ってしまえばいいのだ。

 

 

奴隷を売って得た金は、麻薬などの取引に使う。

そして、また新たな女を手に入れる資金にも使う。

薬で快楽を味わい、女で快楽を味わう・・・これこそS.D.R.の刺激、欲望に満たされた最高の世界。

その世界へ今、クラウドは船出を始める・・・。

 

 

「出航するぞぉ、ヴィンセント!!」

 

 

クルーザーは埠頭を離れ、外海へと向かって航海し始めた。

ヴィンセントはレーダーと無線を使いながら、海上に浮かぶ奴隷船との連絡を取る。

 

 

一方、ホスト軍団は連れてきた女の相手をする。

その中でもトップクラスの腕前を誇るのが、レノだ。

これまでもヴィンセントとの取引でも、サポート役として彼の存在は欠かせなかった。

 

操縦室でヴィンセントと今後の計画について議論するクラウドのもとに、

そのレノが作戦発動の許可をとりにきた。

 

 

「クラウド、そろそろはじめるぞ・・・と。」

「・・・そう、するか?ヴィンセント、連絡は取れたのか?」

「ばっちりだ。明日の夜には合流できる。」

「・・・よし、はじめよう。お前達も、S.D.R.の世界にどっぷりと浸るがいいぞ!」

 

 

ヴィンセントは作戦発動ということで、船を全速力で飛ばす。

クラウドはレノと一緒にホスト軍団を呼び寄せ、すぐにホストから本来の姿・・・

闇の人間へと姿を変えて女達の集う部屋へと入り込んだ。

 

甘い雰囲気と最高のお酒に酔いしれていた女達も、

クラウドたちの姿の豹変ぶりに一気に酔いがさめてしまった。

あわててその場から逃げ出そうとする彼女達にクラウドたちは銃を向けて、脅しながら壁際まで追い詰めた。

 

 

「動くな。動くとこの銃をぶっ放してお前達を漆黒の海へ沈めるぞ。」

「・・・な、なんなのよぉ!!」

「お前達をこれから、外国へ売り込んでやる。

 俺達の言うとおりに動けば、命は保障してやるぜ・・・大事な商品だからな。

 しかし、ちょっとでも逆らったら問答無用でぶっ殺す。

 まぁ、せいぜい殺されたくなけりゃご奉仕に精を出すことだな。」

「誰がそんなことを!」

 

 

女達のうちの誰かが食いかかろうとしてきた。

クラウドはその女に向けて銃を撃ち放ち、銃弾が女の右肩に当たった。

 

 

「言ったはずだ。死にたくなけりゃ俺たちの言うとおりにしろと。

 生きるも死ぬも・・・すべてはお前達自身が握ってるんだよ。」

 

 

クラウドはこの場をレノたちに任せて、再び操縦室へと戻った。

24時間後には奴隷船と合流する・・・。

この後の計画ではクラウドとレノが奴隷船に乗って、奴隷船の船員を統率して

人身売買などの取引活動を行う・・・というものなのだが。

 

 

「ヴィンセント・・・俺は奴隷船に乗り込んで・・・奴隷船を仕切ることはできるのか?」

「奴隷船のうちの一つが、船長を欲しがっている。

 俺はその奴隷船とコンタクトを取って、そこに向かっているのさ。

 大丈夫・・・俺に任せろ。必ずS.D.R.の世界を見せてやるからな。

 ただ・・・一つ気をつけておいて欲しいことがある。」

「・・・気をつけること?」

「国際警察の存在だ。奴隷船の監視は今、スコール・レオンハートを中心に行われている。

 あいつは凄腕のガンブレードの使い手だ。」

「ガンブレードって、銃と剣が一体化したあの武器か!?」

「そうだ・・・銃剣の進化形だ。そいつの動きには注意しておけよ。

 さ、奴隷船に合流するまで時間がある。ゆっくりと休んだらどうだ?」

「その前に俺は、早速あの女たちを物色することにするぜ。」

「ははっ・・・その勢いなら奴隷船の船長も任せられるな。お前なら大丈夫だ。」

 

 

夜はこれから・・・休むのは朝になってからでいい。

クラウドは夜明けまで暇つぶしもかねて奴隷となる女で弄ぼうとパーティールームに降りた。

 

すると、すでに生気の抜けたように女達が全裸であちこちに転がっていた。

さらに辺りを見回すと、一人の女相手に男が2〜3人でかかっていた。

クラウドはその様子に苦笑しながらも、こんな惨劇の館の中で過ごすのも悪くないなと思った。

そう、奴隷船に乗ってからは、これが毎日の日常になるからだ・・・。

 

 

朝に眠ったクラウドは、起きたらもう昼過ぎだった。

あと数時間後に合流できるということで、計画も最後の大詰めに入った。

 

 

「そろそろ見えてくる頃だ。さぁ・・・クラウド。お前の待っていた最高の世界がやってくるぞ。」

「・・・S.D.R.だな。」

「そうだ。そしてその世界を仲間とともに共有しあうんだ。

 自分の欲望のままに動くがいい・・・その世界では、お前の欲望はすべて確実に満たされる。

 さ、全速力で飛ばした甲斐もあって、日が沈んだ頃に奴隷船に合流できるぞ。

 交渉の準備に、とりかかろうじゃないか。」

 

 

奴隷船に合流できたのは、予定より早く7時ちょっと前だった。

その奴隷船はクラウドが思っていたより大きく、何百人もの人が乗っているだろう。

 

 

奴隷船にクルーザーを横付けして、ヴィンセントとクラウドは

先に奴隷船に乗り込んで人身売買の交渉に入った。

さらに、ヴィンセントはクラウドをこの船の船長にする交渉をも同時に行った。

船長となる者を欲しがっていた船員達は、クラウドがこの奴隷船を引っ張るということに皆賛成した。

 

 

実は、クラウドは闇の世界でもかなり名前が知れ渡ってきている。

取引中の隙を狙って相手の命を奪おうとたくらんだときも、拳一発で一掃してしまうほどの腕前。

そんな彼が人身売買を通じて最高の快楽の境地・・・S.D.R.な世界をもたらしてくれるというのだ。

彼を船長にしない手はない。

 

 

「クラウド・・・お前のお望みどおり、この船の船長としての活動を許されたぞ。」

「・・・そうか。」

「さ、後は思う存分暴れるがいい。俺はこのクルーザーで時々、またお前と取引をするよ。

 そして、俺の仲間達も次々と人身売買の取引を持ちかけてくる。

 ま、しっかり選別して好みの女を手にいれ、たっぷりこの世界の快楽に浸ってくれ。」

 

 

こうして奴隷船での生活が始まったクラウド。

相方としてレノを乗せて、船員を統率する。

ほとんどの取引に立会い、奴隷や薬物などを仕入れたり捌いたりしている。

 

それにしても、奴隷船の一日は忙しい。

海上にいる間は、ひっきりなしに小船が現れて売買が行われる。

クラウドは自分の欲望のままに女を仕入れ、特に気に入ったものには高値をつける。

 

 

そんな中、とある取引相手がこんな話を持ちかけてきた。

 

 

「クラウド様、うちの仲間が高値確実の女を拉致ったらしいです。

 取引先を探してるらしいですが、その女、そっちに回しましょうか?」

「どんな女だ。」

「とある資産家の娘とか。まだ17〜8だ。」

「・・・気になるな。よおし、こっちに連れて来い。到着は何時間後だ?」

「4〜5時間で合流できます。」

「わかった。楽しみに待っているぞ。」

 

 

高値確実の資産家の娘・・・一度見てみる価値はある。

気にいらなければ取引を断るだけの話・・・自分の好きなままに動けばいいのだ。

 

 

「てことは、箱入り娘系か?美しい生娘は大歓迎だ。

 売り飛ばされて水商売するようになっても困らないよう、俺が調教してやらないとな。」

 

 

下手に慣れている女を相手にするよりも、経験の少ない女を調教するのも

また楽しい・・・ということを、クラウドは知っている。

そして男に尽くす奉仕のやり方を叩き込めば、確実に高値がつく。

 

 

「クラウド船長!!来ましたぜ!!」

「よおし、そいつらをこっちへ案内しろぉ!!!」

 

 

取引の相手がその女を連れて、クラウドのいる部屋に入ってきた。

その女の顔を見た瞬間、クラウドは一瞬驚きの表情を見せ、

そしてすぐに高らかと笑いながら上機嫌そうな態度に変わった。

 

 

「クラウド様、例の女を連れてまいりました。この男も一緒でした。」

「・・・これはこれは、どこの女かと思えばあの巨大IT企業を経営する資産家の娘、ユウナじゃないか。」

「・・・!」

「そして、その女の付き添いがこの前まで俺の下で動いていたティーダとは、なんて最高な話なんだ!!」

 

 

ユウナは父が国内で1、2を争うIT関連の企業の経営者とあって、お金持ちの娘だ。

顔は幼く見え、雰囲気からするとまだ男女関係の経験は薄そうだ。

 

 

ユウナがここに連れてこられたのは、ユウナとティーダが湾岸でデートをし、

ティーダが暗い場所へ誘ったところに闇の集団に取り囲まれて袋叩きにあい、

拉致られてここまで来たのだという。

 

 

奴隷船の船長が、クラウド。

ティーダがクルーザー取引のときにクラウドに感じていた怖さが、現実のものとなった。

 

 

「クックッ・・・・・・こいつをすぐ外へ売ってしまうにはまったくもって惜しい女だな。

 しばらくは、この奴隷船の専属慰安婦として働いてもらうぞ。」

「・・・くそっ、お前・・・クラウドぉ!!!!そこまで腐りやがったかぁ!!ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

ティーダの罵声に反応したクラウドは、すぐさまに銃をティーダに向けた。

そして、壁を狙って引き金を引き、銃弾を撃ちはなった。

 

 

「うおっ!」

「・・・そんなに死に急ぎたいか?」

「くっ・・・ユウナを、ユウナをどうするつもりだっ・・・!!」

「これからは、俺がユウナと遊んでやるよ。

 レノ、銃をこいつに向けろ。ちょっとでも不審な動きをしたら撃ち殺せ。」

「了解したぞ・・・と。」

 

 

レノに銃を向けられたティーダは、その場からぴくりとも動かなくなった。

それを見たクラウドは笑いながら、ユウナにゆっくりと近づいた。

 

 

「これからお前が従うべき者は、この俺だ。

 なぜなら、俺がお前の命を握っているんだからな・・・?」

「・・・私を、どこへ売り飛ばすつもりなの!!??」

「それは、俺が味見をするうちに考えるさっ・・・。

 さあ、まずは着ているその服を脱げ。」

「貴様ぁ!!もう絶対許せねぇ!!」

 

 

ティーダがクラウドにそう叫んだ瞬間、レノは銃の引き金を引いてティーダの右腕を撃ち抜いた。

ティーダの右腕から、真っ赤な血が噴水のように噴き出した。

 

 

「きゃぁっ!!ティーダ!!」

「・・・大丈夫さ・・・ユウナ。」

「ユウナ、俺の言うとおりにしなければ、この男がどうなるか・・・わかるな?」

「ああっ・・・。」

「俺のことはかまうな!!ユウナ・・・そいつの指示は・・・!」

「だめっ・・・私が刃向かってあなたが死ぬところ・・・見たくないっ!!」

 

 

ユウナはクラウドに言われたとおり、着ている服を脱いだ。

ユウナの胸は見た目以上に豊満で、それがクラウドに更なる楽しみを与えた。

ティーダが殺されるのを目の前で見たくないというユウナは、もう必死になっていた。

 

 

「やはり、すぐさま売り飛ばすにはもったいないな・・・。

 その幼い顔にその胸・・・味見のしがいがあるってものだ。

 さ、次は俺に対してご奉仕するんだな。刃向かえばどうなるか・・・わかってるな?」

「・・・。」

「さぁ、その口でご奉仕だよ。こいつを咥えて、嘗め尽くすんだよ!!」

 

 

クラウドは着ている服を脱ぎ捨て、ユウナに対して自分のものを突き出した。

ユウナはあまりの怖さと気持ち悪さに、クラウドのものから顔を背けた。

 

 

「そうか・・・口がダメなら、俺のほうからお前の鍵穴をこじ開けるだけだ!!」

「いやぁっ!!!!」

「お前・・・やめろぉ、この野郎!!」

 

 

ユウナの身体に飛びついたクラウド。

我慢の限度がきたティーダはクラウドに左腕で殴りかかろうと駆け出したが、

レノがティーダの腹に強烈なパンチを食らわせてその場に沈めてしまった。

 

 

「ぐぉっ!!・・・・・・げほっ・・・。」

「・・・ん、まだ俺にたてつくつもりかい?ティーダ。」

 

 

クラウドは不敵に笑うと、持っていた銃をユウナの股間に突っ込んだ。

ユウナの顔が一気に引きつり、恐ろしさで身体全体が固まったかのように動かなくなった。

 

 

「いいんだぜ、ティーダ。殴りたけりゃ俺を殴るがいいさ。

 その代わり、ユウナの子宮をこれでぶち飛ばすだけだからな。」

「ふ・・・・・・ふざけるなぁ!!やれるものならやって・・・」

 

 

ティーダがそういいきる前に、クラウドは銃の引き金を引いた。

大きく乾いた音がして、ティーダの身体が硬直してぴたりと止まってしまった。

クラウドはにやりと笑いながら、銃をユウナの股間から抜いて弾を補充した。

 

 

「今のは空砲だ。でも、もう一度お前が突っかかってきたら、今度は実弾を撃つぞ?

 子宮を貫き、心臓を突き破って銃弾が飛んでいく様を見てみるかい??」

「うあっ・・・。」

 

 

ユウナが殺されるのを恐れたティーダは、それ以上は前に進めなくなった。

クラウドは不気味に微笑みながら、自分のものをユウナの股間へと挿入した。

 

中が乾いている・・・ほんの少し憤りを感じたが、すぐにクラウドは

腰を振り出して子宮の壁を衝き続ける。

 

 

「さぁ・・・今日からお前を支配するのは、この俺だ。

 あの男はただ立って見ていられるだけのクズに過ぎない。

 感じろ・・・俺の支配力を感じろぉ!!」

「うぅっ・・・・んっ・・・!!!」

「どうだぁっ、どんな気持ちだ!!答えろぉ!!」

「ああっ・・・・・・気持ち・・・いいですっ!!」

「気持ちいいのはわかってるんだ!濡れてきているんだ!!

 どうなんだ!?そこの男がやるのと比べて、どっちがいいんだ!?」

「あっ・・・あっ・・・・・・それはっ、あなたですっ!!」

「本当かぁ?そうなんだな!?」

「はいっ・・・ああっ・・・このまま、壊して・・・。」

 

 

クラウドはユウナと性交を続けているうち、本当にユウナが感じてきているのだとわかった。

どんなに嫌がってみせても、圧倒的な力の前にはいつかは屈する。

それが支配されているという気持ちになり、理性では否定してみせても身体は正直に反応する。

 

現に、クラウドが要求していないのにユウナから大きく股を開いたりしてくれる。

これが、大きな支配力の前に女が跪いた瞬間だ。

セックスの快感と相乗して、クラウドに大きな快楽を与えてくれる・・・。

 

 

「ティーダ君、どうだい?お前の目の前でお前の女が他の男に尽くしているところを

 何もできずに傍目で見るその感想は?」

「・・・最低の男だ、クラウド!!獣以下の存在だ!」

「ふっ・・・何もできずに突っ立っている男と、どっちが獣以下かね?

 お前なんか、まるでお預けを食らったみたいな犬と一緒じゃないか!あっははははは!!!」

「くそっ・・・・・・お前って奴はぁ!!」

「さあ、レノ。目障りなこいつを消し飛ばしてくれ。

 負け犬の遠吠えは、もううんざりだからなっ。」

 

 

レノは持っていた銃の引き金を引き、ティーダの胸を一発で撃ち抜いた。

ティーダの断末魔の叫びと、ユウナの悲痛な叫びが室内に響き渡った。

 

 

「そうさ!この船に乗せられた者の命や人生なんてものは、この俺が全部握ってるんだよ!

 ユウナ、お前も殺されたくなければ精一杯尽くすことだな。」

 

 

クラウドは腰を振るスピードを速めて、ユウナの中で果てた。

しかし、余韻に浸るまでもなくそのまま次の取引のために部屋を出て甲板へと出た。

今度は大麻の取引だ・・・。

 

 

人身売買で得た金を使って、クラウドは大麻を購入した。

常に最高の気分にしてくれる薬・・・もはや手放せない。

 

 

ドラッグが欲しければ、いくらでも取引の話が持ち上がってくる。

そして性欲を満たしたければ、部屋に入るといくらでも女がいる。

強姦、輪姦・・・すべてが自分の思いのまま。

そしてそのまま殺すも、捨てるも、売り払うのもまた思いのまま。

これほど最高の世界が、他にあるのだろうか。

 

 

何もしなくて待っていても、薬は手に入る。

何もしなくて待っていても、女はやってくる。

性欲と薬のロックンロールは、いつもノンストップだ・・・。

行く日も行く日も、欲望に溺れながら一日を楽しむのだ。

 

 

そして今回もまた、女の売買を持ちかける取引相手が現れた。

自分の欲望を満たしてくれる女を、クラウドはさがすのだ・・・。

 

 

「クラウド様、この女を格安で売りましょう。」

「これか?・・・・・・あまり気はそそらないな。」

「彼女には隠れた魅力がある。見た目以上のものがあるぞ・・・。」

 

 

彼女の身体は細く、顔は綺麗だが性的な魅力には薄かった。

しかし、クラウドはこの女を見るのは初めてではないような気がした。

取引を断ろうとしたが、この女に妙な因縁を感じたのだ。

 

 

「・・・何か引っかかるな。いや、見た目普通の女なんだが・・・。

 まぁ、値段はかなりの格安だ・・・買っておいても損にはならないだろう。

 売れなければ、使い捨てにしてしまえばいいだけの話だからな。」

 

 

クラウドはこの女をユウナの10分の1の値段で買いとり、

奴隷の女達で埋まっている大部屋へとひとまず突っ込んだ。

そのままいつも飢えている船員達の餌食となり、そのままどこかへ売られれば十分だ・・・。

その程度の女だと、クラウドは低い評価をした。

 

 

・・・しかし、やはり妙な因縁めいた感覚が頭から離れない。

どこかで見たことのある、どこかで出会ったことのある感覚。

このまま放っておくのも、なんだかすっきりしなくて気持ち悪い。

 

 

クラウドは夜になったのを見計らい、大部屋へと入った。

他の女達はほぼ四六時中男達の相手をしているため、

いちいち服を脱ぐのも面倒で皆全裸状態だ。

これが当たり前となった奴隷船での世界に、恥ずかしさは微塵も感じていないのだ。

いや・・・精神的に皆おかしくなっている、と言ったほうがいいだろう。

 

 

どんな精神の強い女でも、この空間で寝る暇もないほどに

あらゆる男から強引に犯されては、頭がおかしくならないはずがない。

そのうちに発狂し、それが過ぎると魂が抜けたかのように何も考えることができなくなる。

 

そうなった女は、本当に単なる性の道具でしかなくなる。

男が男根を突き出せば、条件反射的に口でご奉仕を始める。

支配力に屈し、抵抗する気も起こらなくなった瞬間だ。

 

 

奴隷船で生きていくには、女はそうならざるを得ないのだ・・・・・・。

 

 

そんな中、どこかで出会ったことのある女・・・。

この女だけはワンピースを着て座っていた。

他の男が手を出さなかったのか?それとも強情に拒んできたのか?

いずれにせよ、他の女達とは雰囲気が明らかに違っていた。

 

 

奴隷船にいる女には見えない、清楚な雰囲気。

スタイルでは劣っても、顔は綺麗で、どこか童女のような雰囲気も兼ね備えていた。

 

 

そう・・・その女は、クラウドがよく知っているはずの女だった・・。

 

 

「お前・・・名前はなんていう?」

「・・・エアリス。」

「エアリス?ほぉ・・・そいつは奇遇だ。行方不明になって、俺が探している女と一緒だ。」

 

 

クラウドがよく知っている女・・・彼女はエアリスだった。

しかし、エアリス、と聞いても、クラウドにはその女=エアリスという式が成り立たなかった。

それは年月がそうさせたのではなく、クラウドが完全にS.D.R.の世界に入り込んでしまっているからだ。

 

 

「忘れたの?その女が私なのよ!?」

「何を言うか。俺のエアリスはもっと全身から綺麗な女だった・・・。

 話しぶりももっと、優しくてな・・・一緒にいるだけで癒される、そんな存在だった。

 お前なんかとは、天と地の差があるさ。」

「・・・私の知ってるクラウドも、もっと心の綺麗な人だったよっ・・・。

 あなたは今、薬と性欲に溺れてる・・・すさんだようにしか目の前のものを見ることができないのよ!」

「うるせぇっ、偽者ぉ!!」

「・・・!」

 

 

クラウドはエアリスの顔を蹴り飛ばし、エアリスの上から潰すように圧しかかった。

そのままエアリスのワンピースに手をかけたが、エアリスは力いっぱいクラウドに抵抗した。

強情な女だ・・・と思いながらも、こういう女を自分の前に跪かせるのも気持ちいいもの。

向こうが意地を張るなら、強引にでも犯すつもりだ。

 

 

「さあ、命が惜しけりゃ俺に精一杯のご奉仕をするんだな。」

「嫌よ。いくら私の好きだったクラウドでも、腐りきった今のあなたに私の身体はあげられないわ!」

「強がるのもいい加減にしろぉ!!!それにお前はエアリスなんかじゃない!!」

「いやぁっ!!」

 

 

抵抗するエアリスを強引に押し込み、エアリスの着ていたワンピースを力いっぱい引き裂く。

強情な女は、こうして力を見せつけてやればいい。

一度扉をこじ開けて、その中にあるもっとも感じる場所へ向かって衝いてやれば、

どんなに相手を拒もうとしても、身体は正直に反応するものなのだ。

 

 

しかし、クラウドに思わぬ来客が舞い込んできた。

取引の相手ではない・・・そして、船員でもない。

何も怖いもののない最高の快楽の世界、S.D.R.の世界で

唯一これだけは気をつけねばならない来客だった・・・。

 

 

「国際警察だ!・・・そこまでだ、クラウド!!」

「・・・国際警察というと・・・お前は・・・スコール!!??」

 

 

ヴィンセントがこれだけは気をつけろといわれた国際警察の存在。

それなりに警戒はしていたが、今の今まで気づくことができなかった。

スコールとともに、数十人の武装した警官が船に乗り込んできたのだ。

 

 

「スコールじゃない・・・レオンと呼べ。」

「・・・ならばレオン、なぜここがわかった!?しかも俺達に知られることなく!」

「・・・そこの女・・・エアリスに発信機をつけて、囮となって人身売買の取引をした。

 小船に乗ってエアリスを連れてきた船員もすべて、俺の仲間さ。

 お前の船の座標がいつでもわかるようになった段階で計画を発動し、お前の周りを取り囲んだってわけさ。

 見てみろよ・・・もうお前は逃げられないぞ。」

 

 

クラウドの周りは、数十人の国際警察員で取り囲まれていた。

空を見上げると戦闘機が数台旋回飛行している。

誰もが見て明らかにチェックメイト・・・しかし、クラウドは最後まで抵抗することを試みた。

ここはS.D.R.な世界。今の自分なら、何だってできる。

 

 

「くっ・・・こんなことならこの女を買うんじゃなかったな。

 いつもの俺ならこんな女は買わないんだが・・・。」

「お前、本当にそこの女に覚えはないのか?」

「・・・覚えないね。そしてこんな頑固な女には興味ない。

 さぁ、国際警察だかなんだか知らないが、今すぐそこから去ることをおすすめする。

 さもなきゃそこの女をお前と一緒に海の底へ沈めてやるぞ。」

「できるものならやってみな、クラウド。周りの状況を見ればわかるだろ?」

「S.D.R.な世界に入った俺に、不可能なことはない。

 そのガンブレードで、俺と勝負しろよ。俺はこのでっかい剣だけで、お前の首を跳ね飛ばす。」

 

 

クラウドはそういうと、普段は使わない背中に背負った大きな剣を引き抜いた。

剣が銃に勝てるわけがない・・・のだが、薬物で頭がトリップしているクラウドに、怖いものはない。

 

 

「仕方ない・・・お前をこの場で射殺する。」

「その前に、お前を殺す。撃てるものなら撃ってみろぉ!!」

 

 

スコールに向かって、クラウドは剣を前に構えながらダッシュで斬りかかった。

スコールはクラウドをひきつけ、冷静にクラウドの心臓めがけてガンブレードから銃弾を放った。

 

 

・・・しかし、薬物によって人間離れした境地に立っているクラウドは、

スコールの狙いを察知してすかさず盾がわりに大きな剣を胸の前に構えた。

銃弾は剣に吸収され、貫通することなく止まった。

 

 

「な、なんだその剣は!!??」

「終わりだぁ、スコール!!!!!!!!!」

 

 

首を狙って斬りかかったクラウドにあわててガンブレードを振り回して対応しようとしたものの、

クラウドの腕力は拳一発で相手を葬り去ることのできるほど人間離れしている。

ガンブレードは空中に吹っ飛び、そのままクラウドの剣がスコールの首をとらえた。

 

 

スコールの首が、血を吹きながら真横に吹っ飛んでいった。

 

 

「きゃぁっ!!!レオン!!」

 

 

エアリスの悲痛な叫びとともに、スコールの身体はその場に崩れ落ち、

スコールの首は転がりながら海の中へと消えていった。

 

 

「・・・さぁ、次は誰だ!!」

「もうやめて・・・もうやめてよ!!」

「うるせぇっ!!お前もぶっ殺してやる!!」

「・・・やめろクラウド!!お前をこの場で射殺する!」

「・・・なんだとぉ!!??」

 

 

スコールが殺されたことで、エアリスの命に危機が迫っていると

あわてて飛び出してきた国際警察の仲間達。

 

・・・が、ここでクラウドの薬が切れかけてきた。

禁断症状が、徐々に現れ始めてくる。

自分に近づいてくる人間が、すべて悪魔のように見える。

快楽の世界から一転して、恐怖の世界に堕とされたような感覚だ。

 

そんな世界からクラウドは逃げるように、まるで鬼神のように

スコールのガンブレードで襲い掛かってくる輩を撃ち抜き、切り裂いていく。

 

 

「やめてっ、クラウド!!もうこれ以上罪を犯さないで!!」

「みんな俺の敵だぁ!!全員まとめて皆殺しにしてやる!!

 殺さなきゃ、俺が捕まって殺されるだけなんだぁ!!」

「今はそれで逃れられても、罪からは逃れられないわよ!!

 そのまま死んだら、あなたは絶対地獄行きだからねっ!!」

「うるせぇっ!!偽者は消えろぉ!!

 くそぉ、俺のエアリスはもっと優しかったんだ!!

 お前なんか外国に売るまでもない!!やるだけやって、殺して海に捨ててやる!!」

「・・・!!」

 

その場にいた国際警察の輩を一通り殺して一掃し、クラウドは大きな力で

その場にエアリスを押し倒した。

すでに引き裂かれているワンピースを剥ぎ取り、下着をすべて引き裂いて全裸にした。

 

 

その瞬間、一瞬だけクラウドの手が止まった。

エアリスの乳房を握り、そのまま犯そうと思ったとき・・・なぜかクラウドの欲望の回路に

初めて「ストップ」の指示がかかったのだ。

 

 

クラウドの目から伝わった情報が、少しずつ正確に「エアリス」と脳に伝わっていく。

そしてエアリスの身体に触れたとき、その手から伝わった情報が「エアリス」と脳に伝わる。

 

 

自分が犯そうとしている目の前の女は、数年前に生き別れたエアリス。

そう思った瞬間、クラウドははっとして手を止めたのだ・・・。

 

 

「・・・エアリス?」

「やめてっ・・・・・・もう、あんたなんか・・・大っ嫌いよぉっ!!!!!!!!」

 

 

大きく鈍い音が、あたりを支配した。

何が起きたのか、クラウドもエアリスも一瞬わからずにいた。

気がついたらエアリスは自分の拳で、思いっきりクラウドの顔を殴り飛ばしていたのだった・・・。

 

 

「げほっ・・・・・・・え、エアリスっ。」

「あ・・・・・・クラウドっ!!」

 

 

クラウドが、エアリスを名前で呼んでくれた・・・。

エアリスの拳で目が覚めたクラウド・・・禁断症状から解放され、薬の効果も不思議と消えていた。

 

 

「・・・俺は・・・?」

「クラウド!!目を覚まして!!」

「・・・エアリス?エアリスだよな??」

「そう、私!!目が覚めたの?」

 

 

クラウドの身体をずっと蝕んでいた薬物の効果が、切れてしまったのだ。

闇の世界・・・最高の快楽の世界、S.D.R.から現実の世界へと引き戻されたのだ。

 

 

現実の世界に戻った瞬間、クラウドの頭に次々と自分の犯した罪が浮き上がってきた。

そして、罪を犯したという恐怖がクラウドの頭を取り巻いてきた。

 

 

「お・・・俺、取り返しのつかないことしちまったよ!!

 あらゆる奴をこの手で殺し、たくさんの女を強姦して外国へ飛ばして・・・。」

「・・・気がついたのね、自分の犯した罪の大きさに。」

「そうさ・・・この罪は大きすぎる!どうせこのまま自首して捕まっても、

 俺に待っているのは死刑しかあり得ない!!

 ・・・だったら、今すぐここで死んでやる!!」

 

 

クラウドはそういうと、銃を手にとって自分の頭に向けた。

しかし、エアリスはすぐにクラウドの手をはたいて、銃を海へと捨てた。

 

 

「・・・死んで、どうするつもり?それで罪が償えるって思ってるの??」

「・・・そうするしか、他に償えないだろ!!」

「だめっ・・・・・・私、そんなんじゃ一生あなたを許すことはしないわ。」

「でも、捕まったって死刑が待ってるだけだぜ!?どのみち・・・。」

 

 

そう、このまま捕まるのを待っても、その後死刑になるのは目に見えている。

しかし、そんなことはエアリスも避けたいと思っていた。

これだけの罪を犯したのなら死んで罪を償うのが掟なのだが、

エアリスは何とか、クラウドに生きてもらいながら罪を償わせる方法を考えようとした。

 

クラウドが生きていて欲しい・・・これは単なるエアリスのエゴかもしれない。

でも、せっかくクラウドに出会えたのに、クラウドが狂ってしまったばかりに

今度は死に別れをしなければならないなんて、あまりにやりきれない話だ。

 

 

「クラウド・・・もう自分の国には帰れないけど、あなたの罪を償う

 最善の方法があるから・・・私についてきてくれる!?」

「俺の・・・罪を?いったい何を!?」

「・・・とりあえず、私と一緒に外国へ逃げるの。

 私も罪になっちゃうけど・・・でも、あなたをその罪から救うには、それしかないわ。

 私を信じて、ついてきて・・・。」

「ああ・・・もう、君にすがるしか俺の生きる道なんてないだろうからな。」

 

 

スコールの乗ってきた船に、クラウドを乗せたエアリス。

ちらりと空を見上げたエアリスは、緊急事態に戦闘機が一旦引き上げているのを確認し、

誰にも見つからないように船を全速力で走らせた。

 

 

丸一日船を進ませて、着いた先はとある小さな町の港。

右も左もわからないクラウド・・・そして国も違うので言葉もわからない。

しかし、エアリスは少しの迷いもなくクラウドの手を引っ張ると、丘の方へと足を向けた。

 

 

エアリスに引っ張られて連れてこられた場所は、町外れのとある小さな教会だった。

港から少し離れた、丘の上の静かな場所に建っていた。

 

 

「・・・エアリス、この場所を知っているのか?」

「うん・・・。クラウド・・・あなたに会えた今だから言えるけど、私が突然あなたの元から消えた理由・・・。

 実は、私も奴隷船に乗せられていたのよ・・・。」

「な、なんだって!!??」

「突然知らない男達に囲まれて、小船に押し込まれて、私を外国へ売り飛ばすんだって。

 奴隷船の中での生活はもう・・・最悪よ。毎日かわるがわる、知らない男の相手をしなくちゃいけないし。

 それで、外国に売り飛ばされて、言葉もわからない土地で水商売・・・。

 途中でもう精神的におかしくなってきて・・・ある日街を飛び出して当てもなくさまよって、

 行き倒れになりかけてた私を助けてくれたのが、ここの教会の牧師さんだったの。」

 

 

エアリスとクラウドは、その小さな教会の門を開いて中に入った。

この時間は、誰もいないようだ・・・。

 

 

「ここで1年くらい過ごしたのかな・・・で、ある日レオンって人がここに来てね・・・。

 奴隷船の調査をしたいから、協力してくれって。

 それで、一緒になって調査しているうちに、ある1グループの乗った奴隷船の船長が

 クラウドになったっていうから、私は驚いてレオンに、クラウドに会わせて!って頼んだの。

 レオンは、もうお前の知ってるクラウドじゃないぞって言われたけど・・・。」

「・・・そうだったのか・・・。」

 

 

エアリスは祭壇へと進み、祭壇の前で跪いた。

そして、目を閉じて手を合わせ、祈りをささげる。

ここを出るまでは毎日の日課だったらしく、慣れた雰囲気だった。

 

そのエアリスの隣に、クラウドも膝をついて座った。

エアリスが祈っているのを見真似て、同じように祈りをささげてみた。

 

 

・・・不思議と、心が落ち着いていく。

犯した罪の多さにドロドロに汚れきった心・・・いや、魂が祈りで

浄化されていくような、そんな感覚だった。

S.D.R.の世界で味わったあの気持ちよさとは、まったく別次元のものだった。

 

 

欲望のために動き、欲望を満たすのだけが快楽を得る手段ではない。

人のために祈り、人のために尽くして人に喜ばれるのも、

また自分にとって快楽を得る手段であるのだ。

 

そのことに気がついたクラウド。

祈り終わったエアリスに、一つの決心を打ち明けた。

 

 

「・・・俺、やり直してみるよ。」

「クラウド・・・?」

「ここで地元の人と触れ合いながら・・・自分の犯した罪を償うために、そして

 俺みたいに闇の世界に染まっていく人間が増えていかないように・・・祈るんだ。

 俺が息絶えてこの世を去るまで・・・毎日欠かさずにな・・・。」

「・・・本当に?」

「ああ・・・・・・そうすれば、あの世にいったときに少しは救われるかな。」

「うん・・・毎日、人のために祈って、人のために奉仕をするの。

 心が洗われていくみたいで、身体の芯から気持ちよくなれるよ。

 だから、ここの人にお願いして・・・一緒にそういう生活、しようよっ。」

 

 

腐るところまで腐りきって、あとは罪の清算として死を待つだけだったクラウド。

クラウドに救いの手をのばしてくれたのは・・・数年ぶりに再会したエアリスだった。

もう一度、やり直せるチャンスが訪れた。

・・・今度こそ、エアリスと一緒に幸せな生活を送るんだ。

そして、一生かかっても拭いきれない罪を清算するために、祈りと奉仕を忘れずに

毎日人のために生きていくんだ。

 

 

 

・・・。

 

 

 

それから何年かの月日が流れたある日のことだった。

エアリスは水道のホースを片手に、教会の庭で水をまいていた。

庭には一面の花・・・エアリスがこの数年で育て上げた花畑なのだ。

 

 

遠くから、数人の小さな男の子たちが走ってきた。

真夏の日差しの中、水着姿で丘を登ってきたのだ。

 

 

「あ、おね〜〜〜ちゃ〜〜〜ん!」

「おっはよ〜。夏休みなのぉ?」

「うん!これから川へ行くんだ!!」

「それでみーんな水着なのねっ。」

「おねーちゃんもいこーよ!!水であそぼ〜〜〜!」

「もうちょっと後でね〜。」

「水鉄砲、はっしゃ〜〜〜〜〜!」

「きゃっ!あ〜っ、やったわねぇ!!おかえしよっ♪」

「わ〜〜〜、逃げろ〜〜っ!!」

 

 

子供たちにホースの水を向けるエアリス。

はしゃぎながら手を振って走り去っていく子供たちに、エアリスも微笑みながら手を振っていた。

 

 

「いいなーっ・・・子供って本当無邪気で、罪がなくてかわいくて・・・。」

 

 

エアリスがホースの水を止めて、元栓をしめようと戻ったとき、

クラウドが教会の門をあけて外に出てきた。

 

 

「あ、エアリスっ。」

「クラウド、準備はできたの?」

「ああ・・・明日、人生で最高の瞬間にしないとな。」

「・・・結婚式ねっ。」

「俺みたいに闇の世界に漬かりきってしまった人間が、こうして地元の人に認められて

 俺が一番好きな君と結ばれることができるなんて・・・本当、幸せものだな。」

 

 

そう、あれだけの罪を犯しながらも、クラウドがずっと心の修行を積んできたおかげで

エアリスとの結婚も許されたのだ。

 

あのままエアリスに出会うことなく奴隷船生活を続けていたら、腐りきったまま一生を終えることになっただろう。

エアリスに出会えたから、彼女が救いの手をのばしてくれたから、

こうして今、第2の人生を送ることができるんだ。

 

S.D.R.の世界が、人間にとって幸福に満ちた最高の快楽の世界ではない。

こうして今、人のために、社会のために尽くして皆から喜ばれることで幸せを得る。

特別なことじゃないけど、これが本当に、人間にとって最高の幸せな世界なのだ。

 

 

「ねっ、クラウド!暑くなってきたし・・・川へ行って水浴びでもしようよっ。

 私、子供たちに呼ばれてるし。」

「いいね!じゃ、君は水着に・・・。」

「えーっ・・・恥ずかしいよぉ。川遊びだし、Tシャツじゃダメなの?」

「男の子達も喜ぶぜっ、きっと。」

「喜ぶのはあなただけでしょっ!

 じゃ、ちょっと着替えてくるから・・・クラウドは戸締りとかよろしくねっ。」

 

 

 

++++

 

 

 

真夏の日差しの中、子供たちと一緒になって川で水遊びしてはしゃぐクラウドとエアリス。

Tシャツを脱いで、水着姿でたくさんの子供と戯れながら遊ぶエアリスの姿は、

まるで自分も子供の中の一人じゃないかってくらいに楽しそうだった。

 

 

明日は結婚式。

いつまでも、幸せな二人でいたい。

そして、これから先も自分は、拭いきれない罪を清算するために

日々神様に祈りをささげ、人のために、社会のために奉仕活動を続けるつもりだ。

 

 

 

この世の中全体が、欲望に満ちた闇の世界に染まることのないように・・・。

 




fin