もてるクラウドとは如何ほどな物か
モクジ

● も てるクラウドとは如何ほどな物か  ●



「ねえあなた、少しお話していかない?」

胸元を不謹慎なくらい開いた巨乳のお色気ムンムンお姉さんが、クラウドに話しかけている。

クラウドは本人自覚していないがハンサムだ。
目つきがいくら悪かろうと、それは変わらない。

そんなもんだから新しい町に入った先々で、このようなお姉さんたちに捕まるのだ。
クラウドにしてみれば、大した災難なのだが、しかし相手が女性でしかも自分の理解の範疇を超えた存在である以上、あまり手荒な扱いをするわけにもいかず。
しかしそれが逆に誘っているように見えるのか、次から次へと沸いて出てくるお姉さんたち。

それは今日も変わらなかった。



「ねえ、イイでしょ。お茶していきましょうよ」

また別のお姉さんが現れる。
クラウドは今日もだんだんと増えつづけるお姉さんたちを相手に孤立無援な戦いを続けている。



「ちっ、色男め……!あんな無愛想な奴のどこがいいんだってんだ」

「まあ、少なくともあんたよりはマシなんじゃん?」

「なんだとぉ?この砂利ガキ!」

「言ったな、このやろ!」

宿のレストランで、シドとユフィの争いが始まる。
だが他の仲間たちが慌てて止めさせようとしている中で、いつもなら一番に二人の間に割ってはいるはずのエアリスは、険しい顔で参っているクラウドを見つめ たままだった。








「ん、もう!クラウドッたらデレデレしちゃって!」

そう言って力任せに枕(クラウドを想定している)をベッドに叩きつける。
そして枕(クラウドを想定している)の上にととどめのフライングボディーアッタクをくらわせた。

だが枕(クラウドを想定している)はまるで本人のように、少しも反省しない。



「なによなによ……私のこと好きだって、そう言ったのは誰なのよぉ!」

ほんの三週間と少し前、突然のキスと共に、愛の告白がクラウドから舞い降りてきた。

それ以降二人は幸せだった……はずなのだが、エアリスは肝心なことを忘れていた。
クラウドが町のお姉さんたちに半端じゃなくもてるということを!
しかもきっぱりはっきりせず、なかなか断れないというととを!


付き合ってしまったせいだろうか。
そのクラウドの半端な行動が以前よりも三倍増しになって目に付くようになった。


正直、今に飛び出していって、お姉さんたちとクラウドを引き離してやりたいのだが、みんなが見ている手前、二人の関係を秘密にしている以上大騒ぎするわけ にもいかず。
そして何より自分ばかりがやきもきするのは、悔しかった。




はっきりと「断って」と言うのはぬるすぎる。

何かもっと、こう……過激に。


そう、今の自分と同じ気持ちにさせなくては。










「えへへ、ちょっと今日飲んできます!」

次に辿り着いた町で、エアリスは声高らかにそう宣言した。

「へー、エアリスも自分から飲みに行くことあるんだ」

「いいんじゃねえか?穣ちゃんも大人なんだし、たまには開放的に飲んでこいよ」

「基本的には、町についたら各自自由行動だし、問題無いわよ」

仲間が口々賛成してくれる中、約一名が不服そうな顔をする。そしてエアリスの計算どおり、それだけでは収まらず、賑やかなムードに水を差してきた。


「ちょっと待てよ。あんた一人で飲みに行く気か?」

「なによ、なんか不都合があるの?ティファだって各自自由行動でいい、って言ったじゃない」

「あんたが飲みに行くのはいい。でも一人で行くな、俺も行く」

ほら来た。
エアリスは心の中でにんまり笑った。
クラウドのことだから、こう言い出すに決まっているのだ。
ここまでは予定通り。ここから先は、うまくじらさなければ。


「いーや!わたし一人で飲みに行くんだから!」

「エアリス、止めとけ危険だ」

「なんで?わたしは22よ。ティファよりも二つ上なのよ。なんでティファは良くてわたしはだめなの!」

エアリスは怒っているふりを装う。
エアリスは表情を作るのが得意だ。不安や怒り、悲しみに押しつぶされそうなときでも、ごく自然に笑って見せられる。それに比べれば、怒っている表情なんて 朝飯米だった。

「あんたは戦えないだろう」

「戦うって…。お酒飲みにいくのになんでそんなこと考えるのよ。とにかく!わたし一人で行くから!ぜったいぜーったい、ついて来ないでね!」

そう言って、エアリスはどうしようもなく怒ったかのように、踵を返して宿に戻っていってしまった。








エアリスはベッドの上に突っ伏した。


「完璧!これできっとクラウドはついて来るわね。よーし、見てなさいよ、クラウド!ばっちり懲らしめてやるんだから!」

そう言って、手足をばたばたさせて枕(クラウドを想定している)を叩き、クラウドをこてんぱんにやっつける様子を再現する。

「こうしてやるんだから!」

枕がぺっしゃンこに潰れた。
エアリスは満足して、詳細な「クラウドやっつけ作戦」のプランを立て始めた。

「えと……、まず飲みに行って、男同士で座っているお兄さんたちの傍に……」


いつもの癖でついつい口にプランが出てしまう。
無意識に行っているエアリスは気づかなかったが、部屋の外でその計画を盗み聞きしている奴が居た。


その影はプランを聞き終わったところで、にやりと笑うと、廊下の暗闇に溶けこんでいった。

窓の月明かりに金髪が揺らめく。










プラン実行開始!


「じゃあ、行ってきます!」

エアリスは息巻いて宿を飛び出した。
目的地はこの町ただ一つの居酒屋さん。


エアリスのプランとは単純明快である。

まず、居酒屋さんに行って、男同士で飲んでいる寂しい連中の傍に座って、色っぽく←(このあたりが特に重要)カクテルを飲む。
向こうが一緒に飲もうと話を持ちかけてきたところで、ちょっと迷ったりとかして思わせぶりな態度をとる。
するといらいらしたクラウドが飛び出してきて、エアリスとその人たちを引き離そうとするか、またはエアリスを連れて帰ろうとする。
そこですかさず不服そうな顔をしてクラウドに刃向かう。
その後いらいらが頂点に達したクラウドにネタばれして反省してもらう。
ついてはお姉さんたちの勧誘をきっぱり断ってもらうのが最終目標だ。



うまく作戦に乗ってくれたクラウドを想像すると思わず笑みが漏れる。
エアリスは小走りで居酒屋に向かった。



その後を金髪の影が追いかける。

エアリスの思惑に乗ったように見せかけて。








「いらっしゃい!」

威勢のいい声が聞こえて、エアリスは目的の居酒屋へと突入した。

だが入ってびっくり。
賑やかなのは想像していたが、もっと何というか、バーの近くなら落ち着いて酒が飲める……・そんなのを想像していた。
だが…・

「ひゃっひゃっひゃ!」

「おいおい、酒の追加まだかよ!」

「―ッとくら!」

「ぎゃあああああ!」

店内の喧騒は凄まじく、リミットを越えた男たちが好き勝手に飲んで、さらに暴れたりしている。
しかも女のヒトは一人も居なかった。
確かにこんな場所にくる女の子or女の子を連れてくる人がいるとは考えにくい。

そんな場所だから、一人だけ雰囲気の違うエアリスが、それもとびっきり美人で神秘的でなおかつ童女のような雰囲気を放つエアリスが入店してきたとき、あれ ほどうるさかった店内が一瞬だけ静まり返った。
さらに店内の全員の視線がエアリス一人に注がれる。



「おいおい、見ろよ。めっちゃ美人だぜ」

「うわお、いい尻してんな」

「誘ってみるか?」

「ちょっと脅してみようぜ」


男どもの頭の中は、すでにエアリスと過ごす甘い一夜にまで発展していっていた。

その様子を察知したのか、店のマスターが気を利かせてエアリスに忠告してきた。

「悪いこと言わないから今日はけぇりなお嬢ちゃん。酒飲みたいんだったら明日の昼に来るか、外で待ってな。持っててやるから」

だがエアリスはここで引き下がるわけにはいかなかった。

「いいんです!わたし、ここで飲まなきゃいけないんです!」

そう言って空いている席に腰を下ろした。
店の中は満杯で、開いている席はカウンターの中央だけ。
男たちの真中に座ったエアリスは、狼の群れの中に入った仔兎のようだった。


「よ…よし、えと、チェリー・ブルームください!」

暫く待っていると、諦めたような顔をしたマスターが桜色のカクテルを出してくれた。
それを持ってきゅーっと一気に飲む。

三つ指そろえて美しい手のラインや、反り返る真っ白な首元を強調する。
男たちがごくりと生唾を飲み込む。


「ふう…・美味しかった…。く…クラウドいるよね」

そう言ってきょろきょろすると、店内の入り口に金髪の青年が見えた。

―――やった!

エアリスはこれで勝利を確信した。
これできっと誰かが声をかけてきて、クラウドはすごく怒るに違いない。

でも、

でもクラウドが自分に分かる位置にいるなんて変だ。絶対来ないでと言ったのだから、隠れているはずなのに。


「ま、いっか……」


「ねえ、あんたこっちコイよ。一緒に飲もうぜ」


エアリスが気を取り直した瞬間、待っていた声がかけられた。

「えー、どうしようかなぁ」

「おごってやるよ、楽しもうぜ」

「でもぉ」

エアリスは思わせぶりな態度を取る。
それで相手の男たちはますます付け上がる。
クラウドの場合も似たようなものなのだ。本人がうまく断れないから、向こうも諦めずにどんどん誘ってくる。できるだけ似たような環境を作るのがベストだ。

「ほらほら、じゃあ酒のほかに好きな食いもん頼んでいいぜ」

「んー、でも今日はお酒のみに来たの。一人で飲みたいなーって」


そう言ってエアリスはクラウドを横目でちらりと見た。
計算上では今ごろクラウドのこめかみに怒りの筋が浮き出始めるころだ…・・が。

(ええええええッ!)

エアリスは心の中で絶叫した。

そんな!なんで…。

クラウドは一番端っこのカウンターに座ってマスターに酒を注文していた。エアリスのことなんか少しも気にしていない様子で。

クラウドが助けてくれると信じていたからこんな大胆な行動が取れたのに。
このままでは……。


エアリスの計画の中には、実際に男たちと酒を飲むことになることは含まれていなかった。

つまりこれは、



予想外の事態。



「え……や……っぱだめだよ。帰る!」

「ちょっと待てよ」

慌て居酒屋から逃げようとしたところで腕を強く引っ張られる。
そのまま引っ張られた先は男たちの輪の中だった。

冷や汗が流れる。


「おいおい、まさか本気で帰れると思ってるんじゃないだろうな?」

「さーて、どこまで付き合ってもらおうかな」
「全員楽しませてもらうぞ」

「と言うわけだ。わかったらさっさと座りな」


大ピンチ、である。

酒を飲むと言ってもそれだけで終わらないのはエアリスでも分かる。
しかももうエアリスの体に触れてくる奴が出てきた。

エアリスはヒップに伸びてくる破廉恥な手を叩き落しながら、いろんなところを触ろうとする男たちに囲まれて、パニックに陥ってしまった。

「え、やだ、ちょ……止めて!」

しかし男たちがそんなことを聞いてくれるわけも無く、ますますやばい状況に転がり落ちていく。


どうしようもなくなって、更には当初の目的も忘れて、エアリスはクラウドを仰ぎ見た。助けを求めて。


そのクラウドは飲み干したグラスをエアリスに見せ付けるように揺らしながら、薄く笑ってこちらを見ていた。

その唇が意味深げに動く。


読唇術の学はないが、エアリスにはその時クラウドが何を言いたいか良く分かった。


“助けてほしいか”


エアリスは大きく頷いた。
とにかく頼れるにはクラウドだけだった。

クラウドだったら助けてくれる。
エアリスは今までの経験から絶対的な信頼をクラウドに抱いていた。
その気持ちそっくり込めて叫ぶ。


「助けて、クラウド!」









―――終わった。

全てが。

エアリスの計画も、男たちの企みも。


クラウドが暴れて店内はめちゃくちゃ。
男たちはぼろぼろ。放心状態になって「ゼノギアス」とか呟いている奴もいる。それほどクラウドは悪鬼のようだった。

その屍(殺すな)の中央にクラウドが立っている。
静かに、そして禍禍しく。


さすがに一般人相手に剣や魔法を振るうことはないが、それでも普通の人にはクラウドの拳一発もきつすぎる。


「クラウド…こんなに暴れるなんて……変だよ、どうしたの?」

店内はハリケーンが過ぎていった後のようだった。
男たちが一斉にクラウドにかかってきたものの、その服すら触れることはできず。
それどころか強烈な拳一発でみんな沈黙していった。

グローブにこびりつく血。クラウドのグローブは茶色なのでどす黒く見えるのがぞおーっとする。

いつものクラウドなら、目立つことを好まないので、一人や二人を圧倒的な力でねじ伏せて、みんなが怯えたところで、さっさとその場から去る。

だが今回は……。



「そのにーちゃん、きっと酔ってるよ」

カウンターの奥に避難していたマスターがこわごわエアリスに言った。

「一番きついの頼むと言うからめん玉飛び出るほどの、渡したんだ。そしたら……グラスでくれって言うんだぜ」

普通は小さなキャップのようなものにごく少量を飲むものなのだが……。

「たいていの奴なら普通の量でも、めん玉ひん剥いて気絶するんだが、この兄ちゃん一気に飲みやがった」

おそろしやおそろしやと両手を合わすマスター。


「あれ、お嬢ちゃんの彼氏だろ?ほんとうに悪いことは言わねぇ……。あいつの言うことは聞いとけ」

そう言ってぶるぶる震えながらカウンターの奥に消えていくマスターを、エアリスは冷や汗をかきながら見送った。






「クラウド、酔ってるでしょ」

「だれが酔ってるって?」

帰り、二人で並んで宿へと向かう。

何を話していいか迷うエアリス。プランが失敗した以上、クラウドに怒られるのは避けようが無かった。

しかし


「悪かったな」

「ふえ?」

怒られるとばかり思っていたのに急に誤られて、エアリスはおろおろした。

「いや、なんであんたがこんなことしたのか、わかったから」

「ばれてたんだ…・・」

「あんな大きな声で喋ってたらな。まる聞こえだった」

エアリスはしょんぼりする。これじゃあ失敗だ。クラウドに自分の気持ち分かってもらおうと思ったのに。

「俺も次回からきっぱり断るさ。演技だと分かっていても、あんたが他の奴に誘われるの、面白くなかったし」

……失敗でもないらしい。


だが……

クラウドがそんな台詞を赤面しないで言えるとはおかしい。
やはり。…・・


「クラウド、酔ってるでしょ」

「あんたもしつこいな、酔ってない」

その時体がふわりと軽くなった。

何が起こっているのか良くわからず目を白黒させるエアリス。
だがすぐに自分がクラウドの肩の上にいるのがわかった。

「ひゃ……、クラウド!」

「明日は早いからさっさと帰るぞ」

そう言うクラウドは気持ち良く酔って気分がよさそうだ。

ソルジャーになると、刺激に鈍感になるから、他の人の数倍はきついものを食べなくちゃいけないのかもしれない。そう言えば、ザックスもピザにはタバスコを じゃんじゃんかけ、寿司にはわざわざパックでわさびを頂戴し、周りの人がぎょっとするほど乗せて食べていた。

もしかして、味覚オンチ?



「クラウド、酔ってるでしょ」

「酔ってない」





FIN








白星さん、お待たせしました。
リクエスト小説が完了いたしました。
どうでしょうか、リクエストにお答えできたでしょうか?いままで皆さんからのリクエストにはぜんぜん答えられていなかったので、心配です。クラウドに一泡 ふかせる……わたしもかなり萌えるシチュエーションです。わたし個人の話になりますが、好きなネタは計画失敗してクラウドにいじめられるエアリス。がらの 悪い男たちに囲まれ馬鹿にされるも、本気を出して一撃壊滅?するクラウド。など、あらためて考えるとクラ攻め、エア受けに準じているのかもしれません。
それでは、リクエストありがとうございました。これからも当サイトをよろしくお願いします。そして引き続きクラエアを愛でていきましょう!!

モクジ