MY ONLY KNIGHT

MY ONLY KNIGHT



〜MY ONLY KNIGHT〜 



漆黒の闇の中、ただ警備用のライトが高い城壁の上で微かな光を称えていた。


刺す様な寒さの中、空気はまるで鋭利な刃物のように透き通り、空気中の細かな氷がライトに反射して、闇の中に淡く見える白い道筋を作っていた。

しかし、濃いばかりの闇は光をその先で飲み込み、あたりは依然として恐ろしげな雰囲気をかもし出しているままだった。その闇に紛れて、ひとりの青年が城壁 に沿って一際目立つ搭を目指して走っていく。

光が溢れるような金髪は、幸いなことに新月のため目立たなかった。だがしかし、それでも彼は上を照らすライトの光が向きを変えてちらつく度に、城壁にもた れかかり息を殺していた。
そして、ライトの焦点が定まった頃、身を翻しまた一目散に駆けて行く。その度に彼のまとう濃紺のマントが優雅に風にはためき、王家の紋章が鈍く光るのだっ た。

王家の紋章入りのマント、それはつまり騎士団、その中でも特に優れた五人のみで形成される王家直属の騎士団で彼があることを指していた。そして、そのマン トは濃紺。


・・・蒼の騎士―――――。


 





搭の前には一人の厳つい中年兵士が立っていた。彼は暫くタバコをふかして空を見上げていたが、向こうからやってくる人影を目にして立ち上がった。

「来たか、色男」

からかうようなニュアンスでその人影に話しかける。やがて、しっかりとその姿を現した人影はまさしく蒼の騎士のものであった。

「通してれ・・・頼む」

蒼の騎士は、静かに、それでいて確固たる決意を持った声で兵士に言った。
夜明けまで幾ばくも時間が無い。―――どうしても。

兵士は諦めたように溜息を付いてから瞼を硬く閉じ、どっかりと座り込んだ。

「いけよ、俺は何もみてねーからよ」

「!・・・すまない」

そしてお礼もそこそこに蒼の騎士は搭の扉を乱暴に開けて、永い階段を駆け上っていった。

―――愛する人のもとに。早く会いたいがために、ただそれだけの思いで。

残された兵士は騎士の足音が遠のいたことを確認すると、回りに誰もいないことを確かめてから、扉を閉めた。そして、こそばゆそうに頭を掻く。

「かー!若いな、あいつも!恋人のためなら、命も惜しまないってか?」

そう、それが例え自分が忠誠を誓った、一国の姫君だったとしても・・・。





「エアリス!」

蒼の騎士は部屋に飛び込んだ。
愛しい人は天蓋付きベッドで拗ねた様に寝転がっていた。いや、完璧に拗ねている。

「すまない。抜け出せなかったんだ」

機嫌をとるために近寄ればぷい、と顔を背けて愛らしい顔を見せてはくれない。騎士は溜息を付いてエアリス―姫―の傍らに腰掛けた。

「怒らないでくれ。これでも、急いできたんだ」

そう言って、綺麗な巻き毛を指に絡ませる。しかし、エアリスは相変わらず拗ねたままだった。それでも、やがておずおずと口を開き始める。

「・・・遅いから、嫌われたのかと思っちゃった」

そう言って、抱きかかえたクッションに顔を埋めた。声が震えているのは、今まで泣いていたからだろうか。

「嫌いになんか・・・・・・」

そこまで言いかけて、騎士は自分の無思慮な口を悔やむ。彼女は自分をそこまで恋しく思ってくれているのだ。なのに、なんで自分はもっと早く来て、彼女を抱 き締めてあげられなかったのだろうか。



一ヶ月に一度しかあえないような、自分たちだから・・・・・。



「・・・今度はもっと早く来てくれなきゃ、嫌いなっちゃうからね、・・・・・・クラウド」


姫の叱責に、クラウドと呼ばれた騎士は頷いた。






何度も何度も口づけをした。角度を変えて、そしてその度に深く、深く・・・・・。一糸纏わぬ愛しい人の体を何度も何度もなぞって、重ねて、愛に酔う。

「エアリス、愛している」

そう言ってまた口付けた。

「エアリス、エアリス、エアリス・・・・・・」

幸せの極致にたどり着くまでも、何度も何度も彼女の名を呼んだ。離したくない、絶対に。・・・きっと国家を敵に回しても。

悲鳴を上げた彼女がたてた爪あとが、背中に残る。それも、全て全て彼女との愛の刻印と・・・・・・・。 

「愛している」

「うん、分かってるよ」

「愛してるよ」

「分かっているさ」


―――夜よ、このまま二度と明けないで・・・・・・。そう願ってしまうほどに、甘美な逢瀬の夜。 


  そして、いよいよ離れがたくなったときに、無情にも夜は明けてしまうのだ。  




クラウドの羽織るマントは忠誠の証。それをシーツに包まりながらエアリスは徐に引っ張った。クラウドが振り返る。

「どうしたんだ?」

「もう帰っちゃうの・・・?」

悲しそうな声を出せばクラウドは困った顔をして、言った。

「また、来るから」

「ぜったい?」

「必ず」

もう一度言う。

「あんたに会うためなら、どんな危険だって犯してやる」

照れくさそうに言えば、エアリスは打って変わって明るく笑った。

「クラウドってたまに乙女心を掴むようなこと言うよね」

冗談めかして言えば、クラウドはふてくされたように顔をしかめてみせる。

「悪かったな」

「悪くないよ、モット言ってほしいぐらいだもん」

「絶対、言わない」

「ひどいな〜」

そんなやり取りの後、お互いの身体を強く抱き締める。 

 「じゃあな」 

 そう言って、クラウドは一礼をして、・・・まるで何事も無かったかのように・・・搭を出て行った。


エアリスは搭の窓から愛する人の後姿をどこまでも見送ったのだった。

「じゃあね、クラウド。また、会える日まで」


FIN