Cold heart-ed [ 千人切りのティファ

Cold heart-ed

[ 千人切りのティファ





ティファが後ろへ大きく飛んだ、まさにその場所を、トカゲもどきの尻尾に付いた角が砕く。

ティファは後ろへ飛んだのち、ばく転する要領で体勢を立て直した。
砕けた地面の破片が、彼女の肌を傷つける。


「こいつ!乙女の肌に傷付けて!!」


彼女は先程から逃げ回っている。
突きや蹴りを主に、トリッキーでアクロバティックな戦い方を得意とする彼女には今回の敵は少し分が悪い。

というのも、こんなでかい敵を相手にすることは彼女にはまだ一回も無かったし、せいぜい熊ぐらいの大きさならまだしも、小型のアパートほどもある敵を相手 にしたのは恐らく彼女が初だろう。

よって、戦い方が分からない。

相手が誰であろうと剣でぶった切るだけのザックスや銃でドカンと一発のクラウドなら、今回だっていつも通りの戦い方も出来るんだろうけど、肉体勝負の彼女 はそういう訳にはいかなかった。

スパイなんかをやっていると、大型でかさ張る武器よりも、自らの体だけでどうにかしたほうがずっと効率がいいため、遠距離用の武器を彼女は何一つ持ち合わ せてなかった。


とは言っても、何も彼女は為すすべなく逃げ回っているのではない。
隙あらば、攻撃してやるつもりだし、何より、ちょこまか逃げ回ることでトカゲもどきの注意をジュノンではなく自分に向けさせようとしているのだ。


「ええい!逃げ回ってばっかじゃつまんないわ!」

ぱちん、とティファは右手に装着しているグローブからトラの爪のような物を
弾きだした。

―――彼女がタイガーファングと呼ぶ、鋭利な刃が三枚突き出しているのが特徴的な近戦格闘用のグローブである。

殴るというよりは、どちらかといと『切り裂く』のをメインとした何とも恐ろしい武器で、これをティファは人間に使っていたというのだから驚きだ。


「そのくそ分厚い皮膚、穴開けてあげる!!」

正確には穴じゃない。正しくはえぐる、だ。
が、そこは無視していただきたい。

「タイガーファングを着けた私は『千人切りのティファ』って呼ばれてるのよ!!」


ティファは押し潰すようなトカゲもどきの体当たり(?)を華麗な動きでかわすと、肩すかしを食らわされて無様につぶれているトカゲもどきの背にひらりと飛 び乗った。

「意外とのろいわね!」

ティファはトカゲもどきの一番柔らかい顎の付け根辺りに、その三枚刃をぐい、と食い込ませた。

上に向かって袈裟懸けに切り裂く!!



ぐぎゃああああああっ!!



獣の咆哮が辺りを支配する。

死に物狂いで、ティファを振り落とそうと、そのトカゲもどきは体をうねらせた。

が、しかしそうなる前にティファはトカゲの背を一蹴りすると、見るものを魅了する華麗さで体を捻らせ着地する。

タイガーファングの三枚刃からは爬虫類独特の色の血が滴り落ちていた。

「ふん、セフィロスの使い獣・・・って言うくらいだから、どんな強さのものかと思ったら、全然大した事無いじゃない。残念だけど私はそん所そこらの腰抜け とはレベルが違うのよ!!」


―――ちなみにティファにはスラムの荒くれ者三十人を相手に、拳一つで応戦、全滅させた、という燦然たる記録がある。

クラウドと並ぶスラムのツートップのはずのザックスでさえ、ティファの回転回し蹴り一発で、黙殺された。


つまりティファは強いのだ。半端じゃなく


「ザックスが来るまでもないわ」

痛みに呻くトカゲを前に、ティファはそう整然と言い放った。






「ん〜おいしい〜しあわせ〜〜〜」

「・・・・」

チョコレートがたっぷりかかったホットケーキをフォークで突きながらエアリスが幸せそうに言った。


―今二人がいるのはチョコレートを専門とした男性諸君その他諸々には何とも恐ろしいカフェだ。

つまり、チョコレートしかおいてない。

カフェ内には何とも言えない甘ったるい匂いが充満し、そのせいか男性の客は少ない。いや、一人も居ない。

正確にはクラウドだけだ。

「クラウド、食べないの?」

エアリスが一口も食べられていない、クラウドの「バニラアイスあつあつチョコレートソースがけ」の皿を覗き込んだ。

もちろん甘いもの嫌いのクラウドが頼んだわけじゃない。エアリスが頼んだのだ。クラウドが用を足している間に。

「これ・・・すごい匂いしないか・・・・?」

完璧に引きつった表情のクラウドが、さもすれば『あがってきそうな』胸を押さえて言った。

こんなに気分が悪いのは、前に仕事で乗ったヘリ以来かもしれない。
あれは最悪だった。

あの時はこれ以上に気持ち悪いのは無いと思ったが、世の中そうでもない。現に目の前にそれを超えるものがある。

「そう?とっても美味しそうな匂いがするよ??」

「じゃ、エアリスが食べてくれよ」

「太っちゃう」

じゃあ、始めからこんな所に来るな!!と心の中で絶叫しつつ、クラウドは諦めて目の前にあるもの処理に取り掛かった。

スプーンでアイスを突っついて、チョコレートソースとアイスの境目辺りをすくう。

それをそろりそろりと口元まで運ぶ・・・。

「・・・・・・う・・・」

クラウドが呻いた。
近づければ近づけるほど増す甘い匂い。

口に入る直前で手が止まる。

冷や汗だらだらだ。

これが俺の罪なのか!?(ヴィンセント調)

そしてそれをじーっと見つめるエアリス。
頼むから見ないでくれ。

「・・・っ」

そして意を決してそれを口の中に放り込んだ・・・!


・ ・・瞬間、口の中で『何か』がサンバを踊った。


まずい。不味いではなく、まずい。非常にまずい。

胃の中のものがせり上がってきそうだ。

クラウドは何食わぬ顔で、傍にあったグラスを取ると腹(なか)にあるものを一気に流し込もうとした。だが、

クラウドは自分の目に映ったものを見て愕然とした。

「(ぐ・・・グラスの色が茶色だ〜〜〜〜!!?)」

気づいたときは時既に遅し。

先程のアイスに負けず劣らず、くそが付くほど甘い液体が口の中に流れ込んできたのだ。

何とこのカフェでは、チョコレートカフェなだけに、何かを注文すると水ではなく、チョコレートをどろどろに溶かしたもの(クラウド談)がでてくるのだ!

「(な・・・・なんだと〜〜!!!)」

「クラウド頑張れ〜♪」

完全に人事のエアリス。心配するどころか、実に面白そうに眺めている。

なんて言ったって、クラウドの顔が面白い。

「あ、すいませ〜ん。お水頂けますか?」

爆笑しそうなのを必死にこらえつつ、エアリスがウエイターに水を頼む。

「あ・・はい・・・」

ウエイターもクラウドのことを見ていたのか、くすくす笑いをしながら応えた。

その間に必死になってせり上がってきた物を胃の中に戻すクラウド。
顔が赤くなっている。

「クラウド待っててね。今お水持ってきてくれるから」

「なるべく早く頼む」

苦しそうな顔をしながらクラウドは席を立った。
エアリスが不思議そうに聞く。

「どこ行くの?」

「・・・・・・便所」

「いってらっしゃ〜い」

こころなしか足元のおぼつかないクラウドをエアリスは手の平をひらひらさせて見送った。

「それにしても、無理して食べなくてもいいのに!」

そう言ってエアリスは自分の皿を再び突き始める。
自分が勝手に注文したことも忘れて。

「こんなに美味しいのに・・・・・・」

ホットケーキにチョコレートソースをたっぷりかけ、クラウドが見ているだけで吐き気を覚えたそれを口の中に放り込む。

「甘いものって本当にいくらでも入っちゃうのよね」

続いてホットチョコレートを一口、二口。

「クラウド、味覚おかしいのかしら・・・?」

甘いものは万人に受けいれられると信じているエアリス、りんごをチョコレートにドボンと漬けて口の中に押し込む。

「でも、クラウドのほんとにおいしそうっ」

備え付けのアーモンドチョコを一かじり。

「ちょっとぐらい貰ってもいいよね・・・」

クラウドのスプーンに手を伸ばすエアリス。

バニラアイスの溶けた丁度いいところを戴く。

「おいし〜い!!

「人の、何してるんだ?」

「きゃっ!!」

背後からいきなり声をかけられエアリスの心臓が飛び跳ねた。

「く・・・クラウド、いつからいたの??」

「アイスすくってる辺りから」

クラウドが憮然と言い放つ。

「もう、いるならいるって言ってくれれば良かったのに!」

「こそこそ食べてたくせに・・・・・・」

「ちょっと、もらっただけよ」

「へぇ。じゃ、せっかくだから食べてくれるか?全部」

「言ったでしょ、肥っちゃう」

盗み食いしたことには脇において何食わぬ顔でエアリスは答えた。

「ンなこと言われても、さすがにちょっとこれはきついんだが・・・」

「注文したんだから責任取らなきゃ」

「あんたが頼んだんだろ・・・」

はぁ・・・と溜息をつくクラウド。
エアリスからスプーンを取り返して再びアイスを突つきだした。

それを見てエアリスが面白そうに言う。

「それ全部食べられたらチューしてあげよっか?」

「口に?」

「ほっぺに!」








「くそっ!じゃまだ!!どけぇ〜〜〜っ!!!」

非難エリアへと急ぐ人波をかきわけかきわけ一人の男が正面ゲートへと足を速めていた。

しかし何十人ふっ飛ばしても臆する事無く次から次へと目の前に人が立ちふさがる。

「だぁあ〜〜〜!じゃまだつってんだろ!!トカゲごときに何怯えてんだよ!」

もの凄い形相で近づいてくるザックスに恐れをなしたのか一人の男が道を譲った。
すかさずその隙間に突進、割り込むザックス。

「サンキューー!・・・と、おっ!見えてきたぜ正面ゲート!」

「あっ・・・あの、お客様!?こちらは・・・」

「うるせ〜!つべこべ言わずにどきやがれ!」

「は・・・はいっ」

「どこだティファ〜〜!!」

ティファが携帯で正面ゲートだ、と言ったのは覚えているのだが、少なくともティファはもうこの辺りにはいないようだ。

「だとすると、もう少し奥の方か!?待ってろよティファ!」

それだけ言うとザックスは剣の柄に手をかけティファの元へと走り出した。






「クラウド、大丈夫?」

「ああ」

ホテルで、先程のアイスクリームを何とか完食したクラウドの背中をエアリスはさすって言った。

クラウドは気だるさでがんがんする頭を押さえて、本当に気分が悪そうだ。

「ちょっと、眠ったほうがいいんじゃないかな?」

「ああ、そうする・・・」

「じゃあ、少し横になってて。お絞り、持ってきてあげる」

エアリスが出て行った後の部屋で、クラウドはごろんとベッドに横になると大きく溜息をついた。


―――あんなもの、意地でも食べるんじゃなかった


最盛期よりは幾分気分が良くなったものの、まだ胸はムカムカしていていつでも吐ける、みたいな状況だ。

最後のチョコレートが悪かった。
水だと思ってがぶ飲みしたのが悪かった。

あれさえなければ、今だってこんなに苦しい思いをしないで済んだはずだ。

もう遅いけど。

「クラウド、お絞り持ってきたよ〜」

「ん?ああ・・・・・・」

エアリスが濡れたお絞り片手に戻ってきた。

しかしそのお絞りはクラウドの差し出された右手をスルーして、直接クラウドの冷や汗をかいた額にあてられた。

そのままゆっくりとエアリスがクラウドの額を拭き始める。

「エアリス・・・?」

「ん・・・眠ってていいよ・・・お絞りぬるくなったらまた取り替えるから」

汗をかいた体にお絞りよりもエアリスの冷たい手の感触が心地よかった。

「ごめんね。クラウド甘いものそんなに苦手だなんて思わなかったから・・・」

「別に・・・」

「あ、そうだ!全部食べれたら、ちゅうしてあげる約束だったね」

「口に・・・」

「違います!」

そこまで言うとエアリスはクラウドの額にちゅっとキスをした。
お絞りを額にかける。

「じゃあね、クラウドおとなしく寝てるんだよ?」

そう言って部屋を後にしようとするエアリス。

が、クラウドがそこで簡単に返してくれるわけが無い。

「どこいくんだ、エアリス?」

「どこって・・・・・・自分の部屋に・・・」

「俺が気分が悪いのはあんたのせいだからな。面倒見てくれるんだろ?当然」

「えっ?きゃあ!!」

案の定、エアリスはクラウドに手首をつかまれ硬く拘束された。
ばたばたと暴れて抵抗するも、あっという間にベッドに引き込まれていく。

「やっ・・・。クラウド、気分が悪いんじゃ・・・」

「治ってきた」

吐き気よりも本能←死っ! が勝ったクラウドがエアリスにちょっかいを出し始める。

横抱きにしたエアリスの、ばたばたと窮屈そうに暴れる足を、自分の足で挟んで動きを封じる。

「クラウド!どこ触ってるの!」

「さあ・・・」

とか何とか言って、どさくさに紛れてエアリスの艶かしい肌を堪能していたりするクラウド。

この辺の手の早さや、タッチの上手さはクラウドがスラムのボスだったときに培われたものである。


「ひぃやぁあ・・・」

我ながら気抜けする声が漏れてエアリスは咄嗟に口を手の平で覆った。

恥ずかしさのあまり、自分から罠に掛かりに行くようなものだとは知りつつも、クラウドの厚い胸板に顔を埋めてしまう。

―――クラウドがにやりと笑ったのが判ったような気がした。

「ね、クラウド・・・」

「なんだ」

「え・・・と、その・・・ね・・・あんまり・・・」

「大丈夫だ」

何が大丈夫なのかよく分からないが、とりあえずは理性は保ってくれるという意味だろう。

でも胸にちゃっかり手を回しているくせに言うセリフじゃない。
少なくともエアリスにはそう感じられた。

「だからやめ・・・・・・あっ!」

クラウドがエアリスの白い首筋に吸い付きエアリスが小さな悲鳴を上げた。
クラウドがエアリスのワンピースの方紐を落として、鎖骨に唇を寄せる。

クラウドにとってはじゃれているつもりでも、エアリスには刺激が強すぎたらしくエアリスの瞳にはうっすらと涙がたまっていた。



以前触れたこともあるが、エアリスはそれこそ自然に反するかのような美しさと愛らしさをかね揃えている。

それでいて、華奢で儚げで・・・・・・。

そんなエアリスだから、クラウドは時たまエアリスを独り占めしたくなるときがある。

例えば今みたいなこんな時。

エアリスが腕の中にいてくれている時は、エアリスが自分だけのものでいるかのような錯覚を覚える。

だけどエアリスは誰に対しても平等に愛らしく、そして優しく接するわけだからなんだか面白くない。

だから自分の一挙一動でエアリスが真っ赤になったりして動揺すると、何だかまるでエアリスの優位に立ったようなそんな気分になって、独占欲や支配欲が満た されたりする。

だから少しばかり刺激の有るちょっかいする。

それはクラウドのエゴであったり、一種の愛情表現でもあったりするわけだが・・・。



「あ・・・あんまりやるとクラウドのこと・・・嫌いになるから!!」

こんなことを言われるとそれこそ面白くない。

「・・・・・・・・・・やっ・・・」

必死に抵抗するエアリスも疲れてきたのかおとなしくなってきた。
恨みがましそうな瞳でクラウドを見上げてくる。

そんな仕草が可愛くてクラウドはエアリスの唇に自分のそれを押し当てた。
舌で唇を突き、エアリスに求める。

「・・・・・・あ・・・」

今度は大して抵抗はせず、エアリスはクラウドの唇と舌を素直に受け入れた。

激しく絡ませてくるクラウドとは対照的に、慣れていないエアリスはとまどいながらもクラウドの真似をして、小さな舌を絡ませる。

それに応えてクラウドは更に深く激しくエアリスを欲していく。

エアリスは愚か慣れているはずのクラウドでさえ、心臓が激しく鼓動し、破裂してしまいそうだった。

生まれて始めて誰かを求める自分。
絡ませる舌は痺れてしまってもう感覚なんか無いのに、それでも思いは溢れて行為を止めさせない。

高ぶる感情を抑えきれずにクラウドはエアリスのワンピースに手を掛けた。

エアリスは気付かない。




だが、クラウドの手はそこで止まることになる。







































次の瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響いたから。






















                                続く