Cold heart-ed
Z 再進
Cold heartZ
「ん・・・・・・」
夜も白々と明け始めた頃、エアリスは目覚めた。
天井のあるバギーには運転席と助手席こそあるものの、その後ろは荷台のように平らになっていて、そこにエアリスを抱いたクラウドが窮屈そうに座っていると
いう状況だった。
もっとも窮屈なのはクラウドだけで、エアリスと言えばその腕の中で、守られる様に、大変楽な姿勢で眠っていただけなのだが。
バギーの窓を流れてゆく風景は、エアリスの全く知らないものだった。
遠くの方に暗い影を宿す不気味な山脈が連なっているのが見えるが、それ以外はなにもない、味気のない風景。
何だか恐ろしくなって、エアリスはクラウドの腕の中で顔を背けるように寝返りを打った。
「起きたか」
クラウドが愛想もくそも無く言った。
「うん・・・・・・」
エアリスがもう一度寝返りを打って、クラウドを下から見上げるような形をとる。
「どうなってるの・・・?」
「・・・・・」
当然の質問をエアリスはしたつもりだったのだが、クラウドは黙ってしまった。
「ねえってば」
エアリスがクラウドの袖を引っ張って催促する。
「何があったの?」
クラウドは応えない。
代わりにエアリスの額をそっと撫でた。
「言ってくれなきゃ分からないよ」
エアリスは腕を伸ばして向こうを向いたままのクラウドの頬を捉えた。ぐいっとこちらを向かせる。
その顔を見てエアリスははっとした。
「辛いの・・・?」
そっと囁く。
エアリスの宝石のような碧の瞳に、クラウドの悲しそうな瞳が写った。
クラウドはゆっくりと自分の頬に差し伸べられている手を取ると、その甲に口付けした。
「クラウド・・・・?」
エアリスが不思議そうに呟く。
そのエアリスの瞳を捕らえたままで、クラウドは重い口を開いた。
「神羅カンパニーの中で、あいつと・・・セフィロスと会ったんだ・・・」
セフィロスのことを兄と言わないクラウドが、エアリスには何だか痛々しく見えた。
逆にその手を取り彼の掌を自分の頬に当てる。
「姿は前と変わらないんだけど、言ってる事とか、雰囲気とか・・前と全然違ってて・・・」
クラウドが再び視線を窓の外へと向けた。
「沢山・・・研究員を殺していて・・・それで・・・」
クラウドの手に少し力が入った。
「俺のこと・・覚えてなくて、殺そうとまでして・・・、俺はあいつを敵と割り切ることが出来なくて・・・」
エアリスが強張ったクラウドの指を一本一本解(ほぐ)していく。
その手をクラウドは強く握った。
「あいつを・・・セフィロスを倒すことが出来なくて・・・あいつ・・・が原発を爆発させようとしているのを、止められなかった・・・」
エアリスにしか聞き取れないような声でクラウドは言葉を紡ぎ続ける。
でも、それはどう見ても無理しているようにしか見えなくて、
多分、自分でも気づいてないんだろうけど・・・・・・。
「ぎゅって、してあげるね」
エアリスは自分を抱いたままのクラウドの体をそっと抱き寄せた。
いつか、クラウドが自分にしてくれたみたいに。
まるで聖母のように。
ちょっと、不自然な体系だったかもしれないけど。
「で、結局のところどうなってる訳?」
日がすっかり昇った頃、目覚めたティファが突然言った。
「どうもこうもな〜」
運転席にどっかり座ったザックスが、頭をぼりぼりと掻きながら一人ごちた。
「さっきクラウドが言ったとおりだし」
「だから、それじゃ分からないって言ってるのよ!」
面倒臭げなザックスにティファが噛み付いた。
「もっと、こうっ。簡潔に言ってよね!見に行った当人達が分かっても意味無いんだから!」
どうやらティファの言うことを聞いてると、クラウドもザックスも言いたいことを交互に言ってるだけで、話の核心が良く分からないらしい。
二人とも協調性が低いので、当然と言えば当然だが・・・・・・。
「だ〜か〜ら〜、俺たちが行ったのはもうセフィロスの野郎が暴走した後で、俺たちはそれで怪我したうえに、原発は爆発!神羅カンパニー本社も爆発、炎
上!!
・ ・・つ〜ことだ、分かった?」
ザックスが面倒くさげに言った。いつも陽気な彼も、今回のことには何かしら思うところが有るらしい。
「さらりと言わないでよ!それって、めちゃくちゃ大変なことじゃない!?」
とっさにザックスの襟首を掴み、ティファが噛み付くように言った。
「そりゃそうだろ。電機はストップしちまったし、ホストコンピューターがやられちまったせいでガスも水道も止まってる!修復するにも時間がかかる・・・」
そして、そこでザックスは言葉を飲み込んだ。
起きた事柄が余りにも悲しいものだったから。
「それに・・・、放射能が・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ティファがうなだれる様にザックスの襟首を掴んでいた手を離した。
その結果を理解してしまい、堪らず顔を手で覆う。
「そんな・・・・ことって・・・っ・・・・・・皆・・」
搾り出すように言葉をつむぐ。
そんなティファの背中をザックスはあやす様に撫でた。
「わりぃ・・・。何にもできなかった・・・俺・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
慰めるかのように、寄り添う二人をクラウドとエアリスは遠巻きに見ていた。
「ね、クラウド。私たち少し外に行かない?」
この場は二人きっりにさせておいたほうが良いと、エアリスが囁くような小声でクラウドに提案した。
「そうするか・・・」
その提案にクラウドは便乗する。
二人は出来るだけ静かにバギーを降りた。
近くにあった木の根元に座る。
「ねえ、クラウド聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
少しの沈黙の後、エアリスが何の前触れも無く言った。
「ザックスが言ってた、原発爆発・・・・。ティファは泣いてたけど、皆どうなっちゃうの?」
エアリスが不安そうな瞳で問うた。
クラウドは少しだけ躊躇したが、それでも諦めたのか落ち着いた声で話し出す。
「原発の仕組みは少しなら知ってるよな?原発が爆発すると放射能が撒き散らされるだろ。強い放射能を浴びると、細胞が汚染されて電子レンジに入れられたみ
たいに丸焦げになるから、酷いと即死なんてのもありうる・・・・・・」
「・・・・」
エアリスの瞳が怯えたそれになった。
「それでなくても放射能が体内に入った場合にはガンになる可能性が高くなる。原爆症になったら治る可能性は万に一つも無い・・・絶望的だな」
淡々と喋るクラウドの声が震えている様に聞こえるのは気のせいではないだろう。
エアリスはぞくりとする感覚に身を震わせた。
「みんな・・・死んじゃうの・・・・?」
ティファのように搾り出すように言う。
「ああ・・・」
「そんな・・・・・・・!」
自分でもビックリするぐらいエアリスは大きな声で叫んだ。
自分の見た、あの不思議な白い光がそんな恐ろしい光だったなんて、思いもしなかった。
あの時覚えた嫌な予感は正しかったのだ。
そしてこれが星の予告した未来――――――――?
それでは――――――
「スラム・・・は?カームは?」
「・・・・・・・・・」
諦めるようにクラウドが首を横に振った。
それがエアリスには余りにも残酷的に思えた。
それと同時に、『止められなかった』と言うクラウドやザックスの内心の苦悩も垣間見た気持ちになる。
彼らだって、十分辛いに違いない。
例え何の義理も無くとも、守れなかったものは余りにも大きすぎるからだ。
自分のせいではないとは知りつつも、生まれた罪悪感は到底ぬぐえる様な物ではない。
謝って済むような簡単なものでもない。
「これが・・・この星の未来・・・?」
エアリスは愕然とした気持ちのままで力なく呟いた。
「こんな・・・こんな酷いことが?星が、私に知らせたかったこと・・・止めてほしいと願ったこと・・・これ・・・が・・?」
そして、泣き崩れた。
「私は・・・・・・守れなかった・・・・っ!!!!」
掌に顔をうずめて、泣きながら身を焼き尽くすような罪悪感と無力感にエアリスは必死に耐える。
クラウドから聞いた事実が彼女には余りにも受け入れがたかった。
全てを忘れ、あれは悪い夢だったのだと、そう信じたくなるぐらい辛かった。
星の後継者という肩書きがこれ程までに醜く思えたことは無かった。
しかも、まだ終わらない、星の災厄・・・・・・・・。
その気持ちを読み取ったかのように、クラウドはエアリスの華奢な体をそっと抱き寄せた。
そして安心させるかの様に優しい声色で囁く。
「あんたが悪いんじゃない」
「でもっ!!」
ありきたりな言葉を嫌悪するように、エアリスがクラウドの言葉に噛み付いた。
しかし、なだめる様にクラウドは言葉を紡ぎ続ける。
「でも・・・使命を果たせなかった・・・?」
「うん・・・」
エアリスは自己嫌悪でいっぱいの胸を抑えた。
「私は・・・何にも・・・・・っ」
小さな小さな言葉が、やがて何の意味もなさない嗚咽へと変わった。
「まだ、あんたの言う星の災厄・・・セフィロスが生きている限り終わらない・・・」
抱き締めたままでクラウドが確かめるような、そんな口調で言う。
「倒すことは愚か、止めることだって難しい。でも諦めるな。俺もいく」
エアリスが驚いて顔を見上げた。
「クラウド・・・・?」
見上げたクラウドの顔は真っ赤だった。
目を合わせないようにそっぽを向いているものの、それでも顔から火を吹きそうなぐらい、赤かった。
本当に変な人・・・とエアリスは思った。
だれを殺したって、なんとも思わないような人なのに、何故だか優しいところがある。
しかも、以外にシャイで、すぐに真っ赤になる。
実は傷付きやすかったりする。
そんなクラウドの胸にエアリスは顔をうずめた。
「エアリス・・・・」
少し戸惑ったようなクラウドに、エアリスは顔をうずめたままで言った。
「・・・・ありがと・・・・・・・一緒に行こうね・・・・約束だよ」
クラウドは不器用な手つきでエアリスの腰に腕を回す。
「ああ・・・」
そしてクラウドはエアリスのあごを捉えた。
エアリスがそっと瞼を下ろしたのを確認すると、顔を近づけ―――――――
「はい、そこまで!お楽しみの時間中悪いんだけど、私たちのこと忘れないでくれるぅ〜〜?」
「ティファ!」
突如二人の真ん中にティファが割り込んできた。
ザックスがそのまま二人を引っぺがす。
「続きは宿でやってくれってね!」
「ザックス!」
エアリスが恥ずかしさの余り再び顔を掌で覆う(隠す?)。
「それより!あなたたち、何勝手に二人で行きます、みたいなこと言ってるのよ!」
「そうだ!俺たちだってセフィロスにここまでやられて黙ってる訳にはいかない
ぜっ!?」
「ザックス・・・ティファ・・・?」
突然現れ、好き勝手言い始める二人についていけないエアリスが間の抜けた声を出す。
それにじれったそうにザックスが答えた。
「だから、俺たちも行くって言ってんだよ!」
「まずエアリスの服、どうにかしなくちゃねぇ?」
先程の場所から、またまた4時間ぐらい走ったところにある『ジュノン』で一行は宿を取ることになった。
ジュノンはその昔、重要な軍事要塞として名を馳せた場所だった。
神羅カンパニーの軍事事業が最盛期にあったころ、この地は戦火の真っ只中にあった。
戦争は激しさを増して行き、どうしても前線との仲介場所が必要になった。
そして建設されたのがこの『ジュノン』だ。
当時の軍事要塞の外観をそのままに、今では世界でも有数のショッピング『要塞』として、当時の頃よりずいぶんと賑やかになってはいる。
四人はつい先程、この『要塞』に着いた。
入るときにはエアリスのポイゾナを体中に念入りにかけ、所持品にもエアリスが精神力を振り絞って消毒したので放射能による汚染の心配は無い。
『要塞』に着いてすぐにした事は宿探しだった。
世界各国から客が来るため、ジュノンには当然のごとく宿泊関係の施設も多い。
その中で自分たちの現在状況にそぐう宿を見つけるのは、以外に難しかったりする。
しかも、寝るところにやたらにうるさいのが二人もいるのだ。
結局、男共が一番懸念していた今どきのお洒落なホテルに落ち着き、さてこれからどうしようかと考えていたところで先程のティファのセリフに続く訳である。
「こんな格好じゃ、まともに動けないわ」
ティファがエアリスのロングスカートの裾を引っ張りながら言った。
エアリスの現在の格好は、ノースリーブのブラウスに、七分袖のピンクのフィット感のあるカーディガンを羽織り、更にオフホワイトのプリーツのロングスカー
ト、そして5aほどの高さの白いヒールを履く・・・といった、どこかの庭園にいそうなお嬢様的服装なのだ。
とてもじゃないが戦えない。
「そうだな。じゃ、ティファ。エアリスの服一緒に買いに行ってくれ」
『俺は自分の部屋で待っている』と言いながら、クラウドがベッドに寝転んだ。
が、いつもなら喜んで買い物に行くティファが何故だか乗り気じゃない。
「どうした?」
「クラウド、あなたがいきなさい」
「は?」
思ってもいなかったセリフにクラウドが間の抜けた声を出した。
「だから、あなたが行くの!色々あったんだし、エアリスと久しぶりにデートしてきなさい!」
「いや・・・俺は・・・・・」
「嫌?エアリスはそのほうがいいわよね!」
「え?」
突然話を振られたエアリスがどぎまぎしつつも恥ずかしそうに口を開く。
「う・・・うん。クラウドとデート・・・したいかも・・・・・」
もじもじしながら言うエアリス。その言葉にティファが便乗する。
「ほ〜ら!さっきはキスしようとしていたところを邪魔して悪かったけど、今度は二人でラブラブいちゃいちゃしてきなさいっ!!」
そう言って、クラウドの背中をドンと押すティファ。
勢いでクラウドが前へつんのめりそうになる。
「・・・・・・っ、行くぞエアリス」
照れ隠しで顔を伏せながらエアリスの手を取るクラウド。そのまま引っ張って部屋を後にしようとする。
ドアが閉じられる瞬間、ティファがエアリスに向かってウインクした。
それにエアリスは笑って応じる。
やっぱりエアリスのことを一番分かっているのは、ティファなのかもしれない。
「ね、クラウド」
「なんだ?」
「腕、見せて」
渡り廊下で、渋るクラウドの腕をエアリスが引っ張った。咄嗟に、ナイフが刺さったときの傷が疼いてクラウドはわずかに顔をしかめた。
それをエアリスが怪訝そうな目つきで見る。
「怪我、してるでしょ」
「なんてこと無い」
「うそ!さっきから動きが変だもの。痛いんでしょ?」
エアリスが少し怒ったように言って、強引にクラウドのトレンチコートを脱がせた。
トレンチコート自体は新調してあるので、穴も染みもなかったが、その左腕の関節辺りにまだ乾かぬ血が滲んだ包帯が巻き付けてあった。
それを見てエアリスが不満そうに唸る。
「何で言ってくれないの?」
「別に・・・。こんな事しょっちゅうだし、唾付けときゃ治る」
自分の体を大事にしないクラウドをエアリスが睨んだ。
「何言ってるの!私が治してあげる」
言うが早く、エアリスは巻きつけられた包帯を外しにかかった。
現れた傷口のひどさに僅かに顔をしかめるも、すぐに『ケアル』の詠唱に取り掛かった。
―――魔法はライフストリームの力を借りて行われる。
魔法、魔法と言っても結局は魔法ではないのは前にも説明した通りだが、そのシステムはと言うと、何とも複雑な仕組みになっていたりするのである。
魔法を発動させるにはまず「星読み」と言って、星と対話することが必要になる。
この「星読み」の能力は遠い昔、全ての人にあったのだが、人々が自らの発展のために星の守護から離れたため、今ではエアリスしかできない。
エアリスはこの『星読み』によって、文字どおり星と意識を通わせることが出来る。
正しくは同調させることが出来るようになるのだ。
そしてライフストリームにはライフストリーム自体が創り出した、獣や人の形をかたどった、『守護者』がいる。
それらの『守護者』には属性があって、炎なら、『イフリート』。氷なら『シヴァ』・・・というように、それぞれの『守護者』に語りかけ、力を借りることに
よって、魔法が発動するようになっているのだ。
ただし、ケアル等の回復魔法やその他一部の魔法(強力な魔法が多い)は例外で、これらは『守護者』の途中介入無しに、ダイレクトに星の力を引き出す魔法で
ある。
―――エアリスが胸の前で手を組んだ。
まるで祈るかの様なそのポーズは、何か不思議な儀式が執り行われているようで、見慣れない内は少しひけたりする。
やがて星読みを終えたエアリスが掌をゆっくりと開くと、それに合わせて手の中にグリーンのぼんやりとした光が現れ、徐々に大きくなる。
「ケアル」
エアリスが小さく呟き、その光をそおっとクラウドの傷口に当てた。
見る間に傷口が塞がれて行く。
その間ずっとクラウドは何かしらの暖かい物が体に流れ込んでくるのを感じてた。
不思議なことに、いつもだったらとっさに拒絶反応を起すであろうそれが、何故だか今回は心地よい。
まるで何かに包まれ、守られているような不思議な安堵感がある。
しだいにふわふわしてきて、足元がおぼつかない様な感じになり、クラウドは自分が夢でも見ているのではないかと思い始めた。
が、しかしエアリスが「終わった!」と告げ、はっ、と現実に引き戻される。
「えへへへ、どう?気分は?」
エアリスもこの不思議な気分はすでに体験していたらしく、自信たっぷりに胸をドンと拳で叩いた。
クラウドは数回肘を曲げたり、掌を握ったり開いたりしていたが、やがて何にも支障が無いことを確認すると、『大丈夫』とうなずいて見せた。
エアリスはそれを見て満足そうに笑う。
「ね?大丈夫でしょ。怪我したら遠慮なく私に見せて頂戴!」
そして、そこまで言ってどこにつまずいたのか、『キャッ』という悲鳴を残してコケッとこけた。
咄嗟にクラウドが治ったばかりの左腕を差し出してエアリスの体を受け止めたので事無きを得たものの、あのまま転んでいたら目の前にある階段から転がり落ち
ていただろう。
エアリスの治癒力に心の中で感嘆していたクラウドだが、褒めるのはまだまだ早いとこっそり思った。
「はぁ〜、何とか二人とも行ったわね!」
二人が出て行った部屋でティファはベッドに豪快に転がった。
「まったくも〜、誰かが後押ししてあげないとまともにデートにも行けないのかしら?」
「ま、しょうがねえだろ。クラウドには誘うかいしょもねえだろうし、エアリスも積極的なタイプかと言えばそうじゃねえし・・・」
ザックスがやれやれ・・・と言うように肩をすくめた。
二人ともクラウドとエアリスの仲がなかなか進展しないのがじれったいと思っているらしい。
「でもまあ、二人きっりになればクラウドも何かアクション起すでしょう!」
「だよな!クラウドも意外と手が早いかも」
「ムラムラ注意報?」
「帰って来た時のために、部屋をツインにしといてやろうか!」
「そこまでやったら、クラウドにぶっ飛ばされるわよ?」
「あっ、そっか。あいつのゼロ距離アッパーわりと痛いんだよな!アハハハ!!」
こんなところで色々とはた迷惑な会話がなされてることにクラウドとエアリスは気づくのだろうか?
「私これがいいなぁ〜〜」
「だめだ」
こんなやりとりが先程から小一時間ほど続いている。
この春の新作ワンピース。旅に出るなら動きやすい服装が良い・・・と言うのは世間一般の常識だろう。それはクラウドとて同じでクラウドはエアリスに動きや
すい実用的なデザインの服を薦めているのだが、やれ可愛くない、やれださい、などとどうにも受け入れてくれない。
しかも欲しがっているのは、間違っても戦闘にはむかないであろうピンクのワンピース。
エアリスはこの店に入った途端、このワンピースに一目惚れしてしまい、どうにも譲らないのである。
クラウドは今更ながらにこの店に入ったことを後悔している。もう遅いのだが。
「だから、さっきから言っているだろう。あんたに武器を振り回して戦ってもらうつもりは無いが、これじゃあ逃げるときに不便だ」
クラウドがワンピースの裾を引っ張りながらエアリスを何とか説得しようと試みる。
動きにくい、とか何とか言っているが、実際のところクラウドが最も懸念している点は、このワンピースが肩紐タイプなところにある。
両肩、腕はもちろんのこと、背中も結構大きく開けてあるので、彼女の白い滑らかな肌が丸見えになるのだ。しかも胸の谷間まではっきりと。
これはクラウドにとっては由々しき事態である。本音を言えば、自分だって見たいのだが、そこはそこ。それはそれである。何としてでも阻止しなければいけな
い。
「じゃあ、こうすればいいじゃない」
クラウドの気持ちはエアリスに届く事無く、エアリスはワンピースのボタンを下から膝の付け根の辺りまで外した。
「ね、こうすれば走れるよ!だから、大丈夫」
余りにも愛らしい笑みを向けられてクラウドは僅かに沈黙した。が、はっと我に返ると首を横に振る。しかし納得のいかないエアリスが噛み付いてきた。
「なんでっ!?走れればいいんでしょう!」
エアリスの言うことはもっともである。先程のクラウドの言葉によると走れればいいと言う事になるのだが、走りやすいようにボタンを開けてしまっては、更に
露出度はUPしてしまう。
しかしそうとは言うことができず、クラウドはしぶしぶジャケットを上に羽織ることを条件にワンピースの購入を許可した。
「わぁい!ありがとうクラウド!」
ワンピースが買えて大はしゃぎのエアリスは嬉々としながらワンピースとジャケットを持ってレジに向かった。
その様子を呆れながらクラウドは見ていた。
エアリスの融通の利かなさと自分の甘さに。
どうしても彼女のペースに乗せられてしまうのだ。
まあ、エアリスも幾分子供っぽいところがあって、それは年齢から見ても当然と言えることなのだが、当然なだけに性質が悪い。
余り直しようが無いのだ。こればっかりは。
彼女が成長してくれるよりは打開策が無い。
しかも、それが自分の好きな人だったりすると更に性質が悪い。
最初からそうだった。彼女に限って甘く接してしまう、自分でも呆れるくらいに。
だから今の振り回される自分がいるのだ・・・・・・とそうクラウドは思った。
三歳も離れていると色々大変なのだ。
「クラウド〜!当たったよ〜〜!」
会計を終えたエアリスが、こちらに向かって腕をブンブンと振っている。
「どうした?」
近づいてみるとエアリスの手には一枚のチケットが握られていた。
「なんだ、それは?」
「これね、向こうのほうにある大観覧車のチケット!人気がすご〜くあって、チケットがないと乗れないんだって!」
そのチケットを光にかざして嬉しそうに見つめるエアリス。
たかが観覧車ごときでここまで喜ぶエアリスをまたまた呆れた目で見ていたクラウドだが、次のエアリスの一声には我を忘れて突っ込まずに入られなかった。
「私、一回も本物の観覧車見た事無いんだ〜!わ〜楽しみ!!」
・ ・・は・・・?
「って、どこに住んでたんだよ!?」
「どこって・・・ヴァルキリー村」
「(聞いたこと無いし)」
「今何か思ったでしょ。でもとっても綺麗な村だったんだから!」
「文明の利器が採用されていない村ならさぞかし綺麗なんだろうな」
「いぢわるっ!」
エアリスが頬をぷぅっと膨らませて、ぽかぽかとクラウドの背を叩きだした。
それをクラウドは苦笑しながら軽くあしらう。
はた目から見れば二人はどこにでもいる仲の良いカップルに見えた。
この先に待つのは恐らくは辛い運命。
でも二人なら、もしかしたら乗り越ええていけるかもしれない。
どちらからともなく、そう思って、二人は顔を見合わせて微笑みあった。
「こ・・・・これが観覧車・・・」
エアリスが遥か上空を見上げ、感嘆の声を漏らす。
クラウドが呆れた声で言った。
「何だと思ってたんだ」
「観覧『車』って言うぐらいだから、てっきり車なのかと・・・・・・」
どうやらエアリスは観覧車の写真も見たことがないらしい。
世界で一番遅れた村なのではないかと、クラウドはぼんやり思った。
そこへ二人の順番がやってきて、係員が大観覧車の説明をしだした。
「この観覧車には何と、一番頂上でお願い事をすると叶うというジンクスがあるんです!お二人とも、頂上に着くまでに何かお願いごとを考えて置いてください
ね!!」
何とも言えず、ありがちなジンクスである。
しかし、こういうものの方がうけるらしい。特にカップルには。
それはエアリスにも同じことで―――
「きゃっ、すごい!何をお願いしようかな・・・。いっぱいありすぎて迷っちゃう!」
と、無邪気にはしゃいでる。
しかし、大概こういうものは客寄せのための宣伝文句の一つに過ぎないのだ。
本当にジンクスなんてあるわけない。
そしてクラウドはそもそもそういった類のものを信じていない。
・ ・・でも――――――・・・
クラウドは嬉しそうなエアリスの横顔をチラリと見た。
自分らしくない気持ちに内心でドギマギしながら思う。
エアリスが喜んでくれるならそれはそれでいいかもしれない・・・・・・。
と・・・・・・。
―――そのときザックスは一人でベッドに寝転びながら、窓の外の風景をぼんやりと眺めていた。
見渡す限りの大海原。
ジュノンはその昔軍事要塞だったために、ドックに潜水艦が何隻か置かれていた。
潜水艦はドックから直接ハッチを通して出撃するようになっているため、そのためにジュノンは海と隣接した造りになっている。
この海を越えていけば、南国のリゾート地、コスタ・デル・ソルがあるのだ。
一年中暖かいあちらとは違って、海を挟んだこちら側はまだ薄寒い。
ザックスはこの前ティファとコスタ・デル・ソルに行く約束をしたことを思い出した。
いつも忙しいうえに、なかなか二人のスケジュールがあわなくて、やっと休みが取れたというのに・・・・・・。
なのに結局延期だ。
しかもまた当分行けそうにもない。
はぁ、とザックスは溜息をついた。
明るくてタフなのが売りのザックスも今回ばかりは随分と気持ちが滅入っていた。
セフィロスのこと、原発事故のこと、そして―――
先程入ってきた情報によると、原発爆発事故に伴い、汚染地域は完全封鎖となったそうだ。中に入ることはもちろんの事、外に出ることさえ許されない。
一見当然とも思えることだが、ではその領域に住んでいた人たちは・・・・?
今まで普通の生活をしてきていた人たちは、どうなるのだろう??
汚染の酷い地域に七日間も滞在すると、100%ガンで死ぬといわれている。
それでは・・・?
「見殺しじゃねーか・・・・・」
ザックスはぽつりと呟いた。
放射能に汚染された人々を閉じ込めるための『完全封鎖』という名の檻。
何の解決策も、何の手助けも与えず、死に絶えるのを待ち、そして時が全てを解決してくれるのを待つ。
それはつまり、見殺し。
現実を直視したくがないがための、暴挙。
死と言うその瞬間。
そのときを迎えるまで、人々は死の影を恐れ、怯えなくてはならない。
見捨てられ、唯死を待つだけという彼らに何の存在意義があるというのだろうか?
では一体何故、彼らは生きていかなくてはならないのだろうか・・・・・・
ザックスは思い悩む。
生を望むことと、死の、その相反する気持ちの矛盾の中で、唯自分は彼らの冥福を祈ることしか出来ないのだ。
もし悔やみ、泣き叫ぶことで時が戻せるのなら・・・自分は喜んでそうしたことだろう。
しかし時は無常にも流れてゆくのだ。多くの涙と無数の叫びを乗せて。
「必ず止めてやる・・・セフィロス。それが俺に出来る唯一の償いだ!」
拳を宙に掲げて、彼は自分自身と、そして守れなかった『全て』に誓った。
「すごいすごい!動いてるよ〜〜っ」
エアリスは相変わらずの大はしゃぎだった。
窓に手をつき、らんらんとした瞳で(いつもそうなのだが)外の風景を眺めている。
「海だ〜!真っ青〜〜!!いいないいな〜〜、泳ぎたい!」
「この時期じゃ、まだ早い」
はしゃぎにはしゃぎまくるエアリスをクラウドがちょっぴり現実に戻してやる。
このままだと彼女は頭の中だけ海に飛んでいきそうだ。
「いつ頃になったら泳げる?」
「さあな。あと少なくとも三ヶ月は・・・・・・」
「じゃ、三ヵ月後になったら一緒に行こうね、海!!」
嬉しそうに話すエアリス。どうせ泳いだことないくせに・・・・・・と思いながらクラウドは言った。
「いいのか?もうすぐ頂上だぞ」
その言葉にはっと我に返るエアリス。
「あ〜!お願い事考えてなかった!!」
慌ててお願い事を考え始めるも、何故だかこういうときに限ってお願い事というものは思いつかばない。
あ〜でもない、こ〜でもないとエアリスが悩んでいるうちに頂上を過ぎてしま・・・・・・・・・・・・・わなかった。
「クラウドと三ヵ月後一緒に海に行けますように!」
ぎりぎりのところでエアリスがそう叫んだのだ。
ほぅっと息をつくエアリス。クラウドを見てにっこりと笑う。
「いいお願い事でしょ?」
三ヵ月後、クラウドと海に行くには、星の災厄を終わらせなければいけない。
そして何より・・・二人は生きていなければいけない。
そう考えたエアリスのお願い事。的を得た願い事だった。
「だな・・・・・」
クラウドは頷く。そうなればいいと思って。
「クラウドは何かお願い事した?」
「エアリスのだけで十分さ」
がたんっ
その時突如強風が吹いて、観覧車が揺れた。
「きゃあっ!」
窓に手をついて中腰の体勢になっていたエアリスが、バランスを崩してこけた。
それをクラウドが抱きとめる。
前にもあったシチュエーションだ。
「しっかり座ってろ」
クラウドが呆れた声で言う。
「う・・・うん」
エアリスは内心とっても恥ずかしいと思いながらも、自分の席に戻ろうと腰を起す。
が、
「あの・・・・ね、クラウド」
「どうした?」
「手、離して」
エアリスが自分の腰をちらちら見ながら、言った。
今、エアリスの腰にはクラウドのたくましい腕が巻きつけられてあって離してくれない、立ち上がろうにも立ち上がれない状況なのだ。
にぶいエアリスもクラウドが何を考えているのかは聞かなくても分かる。
クラウドは奥手のように見えて、意外にエッチ(おいっ!)なのではないか・・・とエアリスは密かに思っていたりする。
しかも、クラウドはあんまりこっちの言うことは聞いてくれない。
笑いもせず真剣にこっちを見てくるのが正直恐い。
その時観覧車のスピーカーを通して、アナウンスが聞こえた。
「お客様には大変申し訳ございませんが、ただ今当観覧車は強風のため運転を停止させていただきました。運転再開まで暫くお待ちください」
「ええっ!?」
エアリスにとっては何とも絶望的なアナウンスだった。
このままちょっぴり発情気味(!)のクラウドと運転再開までここに居ろと!?
「そんなぁ〜・・・・・・・むぐっ」
エアリスがちょっぴり泣きかけたのと同時だった。クラウドが強引に少女の唇を塞いだのは。
「むぐぐ〜〜〜っ」
後頭部に回った手が、離れることを許してくれない。
それでも息苦しくなったところでやっとクラウドはエアリスを離してくれた。
それと同時に腰を捕らえていた腕も開放する。
「気をつけろよ」
そう言ってにやりと笑う。
「もう、クラウドのばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかば・・・」
エアリスがクラウドの胸を再びぽかぽか叩き出した。顔を真っ赤にさせながら。
「もうやだっ!絶対キスなんかしてあげないんだから!」
そう言ってそっぽを向くエアリス。が、クラウドが『へぇ』と言って再び顔を近づけてきた。
クラウドの顔を掌で押し返そうとするエアリス。
でも、いつだってクラウドには敵わない。その精悍な顔を近づけられたら、いとも簡単に甘美な誘惑に負けてしまう。
エアリスは真っ赤になりながら再び瞼をそっと下ろした。
その一瞬までが無限の時のように思えて、エアリスは目を開けてしまうのが恐かった。
更に強く、目をぎゅっと瞑る。
ややあって、訪れる至福のとき。
角度を変えながら、二人は観覧車が再び動き出すそのときまで、唇を重ねあっていた。
ティファはその頃、一人でブティックを訪れていた。
誰かと一緒に行くのも楽しいのだが、たまには一人でゆっくり見回るのも悪くは無い。
「あ、これいいな〜。ザックスに買って貰おうかしら?」
さすがジュノンなだけあって、品ぞろいは抜群、品質も文句なしだ。
唯、ここも神羅カンパニーがその昔建設した軍事要塞が元となり、置かれている品物も神羅カンパニーが提供していることを考えれば、何とも言えず、皮肉なこ
とだ。
もうすでに、その会社は無いのだから。
ジュノンが廃れる日もそう早くは無いかもしれない。
「あ〜、それにしてもお腹が空いたな〜。カフェにでも行こうかしら?」
そんな事を考えながら、ティファはブティックを出た。
ふと、頭上にある巨大モニターを見上げる。
この巨大モニターはジュノンのいたるところに設置してあって、いわゆるインフォメーションにいちやくかっている。
イベント情報、ショップ情報、更には迷子情報までがこの巨大モニターを通じて知ることが出来るのだ。
丁度昼どきなために、お勧めレストラン情報が今流れている。
ティファは何か軽食の取れるレストランが無いかと先を行く人々に混じって、モニターを見上げた。
「あ、あそこ美味しそう!」
ティファが目を付けたのは、オムライス専門店。以前から自分でも美味しいオムライスが作りたかったティファは、研究もかねて腹ごしらえに行こうかとモニ
ターに背を向けた。
その時だった。
レストラン情報を流していたモニター画面がぱっと切り替わった。
突如、聞こえ始める悲鳴。
巨大な画面に堂々と映されたのは一体の巨大なトカゲだった。
恐らくは自然には発生しないであろう異形のトカゲ。
「なに、あれ・・・?」
ティファは呆然と呟いた。
どこかで中継されているであろう、そのニュースは続く。
「ただ今、ジュノンに向かって巨大な生物が休息に接近しております。お客様は非難エリアに退去し、一歩も外へは出ないでください」
インフォメーションが終わった瞬間、ぷっつりとざわざわとした声がなくなった。そして誰かが非難エリアへ行こうとしたのをかわぎりに、まるで連鎖反応の様
に人々は我先にと非難エリアへ退去しようとする。
その喧騒の中で、ティファは相変わらず呆然としていた。人の波にもまれながらも、彼女の頭の中には一人の人物の名が浮き彫りにされた。
「セフィ・・・ロ・・・ス?」
あの生物がなんであろうと、こんなまねが出来るのはセフィロス以外いない。そう彼女は思った。
でもなんで?
ティファは人の本流が作る流れに逆らって、もと来た道を疾走しだした。
係員が止める声も聞かず、逆に吹っ飛ばす勢いで正面ゲートを抜ける。
モニターに映った風景には見覚えがあった。恐らくは、ここに来る途中に彼らが通ったところだろう。
ならあの生物がここにたどり着くまで、幾ばくも時間が無い。
ティファは携帯電話を取り出してザックスに連絡を取った。
「あ、ザックス!?」
「ティファか?どうしたんだよ。息切れてんぞ」
「大変なのよ!どうなってるのか良く分からないけど、ジュノンに向かって変なトカゲのでっかいのが向かって来てんのよ!」
「はぁ?なんだそれ!?でっかいトカゲだぁ??」
「トカゲよ!なんであんなにでかいのか知らないけど、このまま突っ込んでこられたら大変なことになるし、それに何となくセフィロスが絡んでる気がするの
よ!」
「セフィロスぅ!!?」
「そうよ!怪現象はセフィロスを怪しめってとこかしら!?」
「分かった!で、おまえ今どこにいるんだ!?」
「え〜と、正面ゲートを抜けたとこ!」
「じゃ、俺もすぐに行くからな!それまで死ぬんじゃねーぞ!!」
「そうなる前に早く着てよね!!」
そこまで言ってティファは言葉を止めた。
突如、目の前が暗くなったのだ。
嫌な予感に身を振るわせつつも正面を見る。
「・・・・・あっ・・・・」
ひゅっと、息を呑む。
いつの間にたどり着いたのか、いつの間に防護壁を突破したのか、そしてそれもセフィロスの力ゆえなのか。
目の前には巨大なトカゲがいた。
正確にはトカゲもどきが正しいだろう。
強靭な皮膚。鋭い牙。全長が5mはあるであろうそれはトカゲというよりは、小型のドラゴンのようだった。
腕や背はまるで鶏冠の様に皮膚が盛り上がり、尻尾にも大昔の恐竜を思わせる2本の角が生えていた。
あの尻尾を振り回されたら堪らない。
しかもその顎から滴り落ちる唾液がそれが飢えていることをにわかに告げ知らせてくれる。
ティファは背筋に冷たいものが流れたのを感じた。
相手の力量がわからない。
なにせ相手は動物だ。ティファが慣れっこの生きている人間ではない。
しかもその変貌の背後にセフィロスがいるのはほぼ間違いない。
だから余計に油断は出来ない。ザックスが着てくれるまで自分は持ちこたえられるだろうか?
電話の向こうでザックスが何があったんだと聞いてくる。
しかしこの時のティファに相手の質問に答える余裕は無かった。
「早く着てね」
それだけ彼女はポツリと言い、驚くほどゆったりとした仕草で携帯の電源を切った。
まるでそうすればザックスがすぐにでも飛んできてくれるかのように。
そしてティファはゆっくりと『それ』に向き直った。
続く