Cold heart-ed Y 崩壊

Cold heart-ed

Y 崩壊









水が流れるさらさらとした音がする。

その清らかな流れは泉となり、ゆっくりと波打つ。

辺りは水に光が反射して美しい青色に染まっていた。

その湖の淵からはきらきらと白く光る階段が螺旋状に伸びていて、湖の中央に浮かぶ祭壇へと続いている。

祭壇といっても特には何もなく、唯祭壇を包み込むように水がそれを覆っていた。

エアリスは祭壇へと続く階段を上っていた。

美しいその階段のちょうど中盤に差し掛かった時、エアリスは祭壇の中央に一人の男性がひざまずいているのが目に留まった。

足をはた、と止める。

そこにいるのは威厳のある顎鬚を豊かに生やした、老年の男性だった。



「どなたですか・・・?」


エアリスはその老年の男性に話しかけた。

祈っていたのか、目を瞑っていた男性がゆっくりと瞼を上げる。
その瞳は自分と同じ、深い翡翠の瞳だった。

老年の男性はゆっくりとエアリスに向き直ると、優しい瞳でエアリスを見つめた。
そして幾分しわがれてはいるが、威厳に満ちた声で言った。


「エアリス、来なさい」

「はい」

エアリスは無意識にだが、それでも敬意を込めて応えた。

老人の傍まで足を運ぶ。

「座りなさい」

エアリスはひざを折り老人の隣に腰掛けた。

「エアリス」

「はい・・・」

「よく聞きなさい。ここはお前の先祖が眠る場所だ。」

「ご先祖様・・・?」

「うむ。そして同時に我が一族しか入ることの出来ぬ、神聖な場所でもある」

「・・・・・・」

「この場所で我らは星の声を聞き、そして人々に星からの言葉を伝えてきた」

「ここで・・・星からの声・・・を?」

老人はゆっくりと頷いた。

「ここには星についての我らの知識が眠っている。そして分からぬことは星が教えてくれよう・・・」

「私の知りたいことが・・・分かるの?」

「そうだ・・・。私はここでお前が来るのを待つ」

「私が来るのを・・・?」

「私だけではない。わが一族全てがお前が来るのを待つ」

「・・・お父さんもお母さんも・・・?」

「楽しみにしていることだろう」

「・・・本当に・・・?」

「まだ幼いお前には辛いことだろうが、これは我らの使命でもあるのだ・・・。
そして、今お前にしか出来ないのだ」


「・・・・・・・・・・・・」


老人は強い意志を感じさせる声でそう言うと、祭壇の奥にある白い石を取り出しエアリスの額に触れさせた。

瞬間、石が淡いグリーンに光る。


「・・・志をしっかりと持つのだぞ。・・・・・・星の守りがあらんことを・・・」



見送りの言葉を述べた後、老人の姿は空気に溶けて消えていった。











エアリスはゆっくりと重いまぶたを上げた。

気づくと外はすっかり暗くなっている。

「やだ、寝すぎちゃった!」

慌ててベッドから身を起す。

「ご飯作んなきゃ・・・クラウド怒ってるかな・・・」

乱れた髪を留め直し、カーディガンを羽織ってリビングまで急ぎ足で行く。






「あれ・・・、誰かいるのかな?」


リビングから若い女性の声がした。しかもかなり焦っているようだ。



「・・・説明すりゃいいんだ・・・」



同じく焦った聞きなれた男性の声がする。

この声は・・・・・・。



「ザックス、ティファ・・・?」



なんでこの二人がここにいるのだろう?
急用なのか羅列が上手くいってない。


二人が焦るなんて・・・『仕事』関係のことだろうか・・・?


なら、自分は聞いてはいけないことだ・・・。

エアリスは厄介なことになる前にそうそうと立ち去ろうとした・・・・・・が。




「・・・大昔の地層から仮死状態の・・・」




え・・・・?


ぞわり、と鳥肌が立つ。

今、ティファは何と言った?

地下から・・・仮死状態の・・・?

もしかして・・・・・・・。



エアリスは壁にもたれ掛ると、息を潜めるようにして三人の会話を聞いていた。

先程見た夢を思い出す。先程の老人が自分に託したこと・・・何なのかはよく分からないけれど・・・それでもあれが唯の夢じゃないような気がする。











―――悪い予感がする―――









話を聞いていく度に予想が確信へと変わっていく。
背筋を冷たいものが流れる・・・。




ああ、なんて事をしたのだろう・・・!!

エアリスは思った。




『あれ』を甦らしてはいけないのに・・・!
その先に待つものは闇と絶望だけだというのに・・・・!!

一体全体、何という事を・・・


エアリスの一族の末裔としての直感が、そう感じさせる。確かな証拠も無いのにそうだと分かる。もはや常識を超えた範囲内の事でだが・・・。





そして、とうとうティファが衝撃的な一言を吐く。





「それで当然のように媒体探しが始まって・・・その第一サンプルの名前がね
・ ・・エアリスっていうの」











・・・・なんですって・・・?



・・・私があれの媒体になるはずだった・・・?

・・・何てこと・・・一歩間違えれば私は・・・

・・・「あんなもの」の入れ物に・・・・・・・?




ありえないわ・・・・正気の沙汰じゃない。




新羅カンパニーの考えていることはおかしい。
あまつさえ人をあんなものの入れ物にしようとするなんて・・・。

恐怖で心臓が波打つ。

吐き気がする―――








「それが本当ならまだ、実験には使われていないさ・・・」



クラウドの声。


彼が己に信じ込ませようとしているのと同じように、エアリスもそう信じようとる。


そうよ、私は実験に使われてなんか無い・・・・・・・。










「ううん、違う違うのよクラウド。問題はこの後なのよ・・・」





ティファ・・・・?




「そう、確かにエアリスは実験前に逃げたわ。確かに逃げたのよ。でもね、サンプルが無くなったところで実験は終わらないわ。」















どくん・・・










「落ち着いて聞いてねクラウド。その研究に携わっていたある科学者がエアリスの代わりにサンプルとなったの・・・もちろん無理やりね」

















どくん・・・・










やだ、ティファ。










それ以上言わないで・・・・・・・



怖い。聞きたくない・・・・。












「それが、あなたのお兄さんよ、クラウド・・・・・・」


















――――――――――――――!!!!!!!










視界が真っ暗になる。



私の代わりにクラウドのお兄さんがサンプルになった・・・?

私が逃げたせいでクラウドのお兄さんが巻き添えを・・・?
私のせいで―――?


そんな――――




では今頃クラウドのお兄さんはどうなっているのだろう?
あれが人間に及ぼす力は計り知れない・・・それぐらい分かる。




あれを移植されて尚、人間としての自我を持ってられるか甚だ怪しい。

いや、無理だ。
あれは人々に力を与える代わりに常に人々の意識を欲した。

人が人でなくなることを望んだ。


そして「あれ」はそうして自我を失った者たちの、いわば集合体。

ならば、その意識を移殖された者が正常な心を宿すことは到底あり得ない。




クラウドのお兄さんはどうなってしまったのだろう・・・・?



いや、それよりも新羅カンパニーの科学者たちの仮説が正しければ今頃「あれ」は自我を取り戻しているに違いない。

いや正しかったのだ。
自分が今まで見てきた夢・・・先程夢に現れた老人が「使命」について語ったこと・・・。星からの救済を求める声・・・。



全てつじつまが合う。




「あれ」は見事復活を果たし、その邪悪な謀(はかりごと)を再び実行しようとしているのだ。








この地に災いを招く者、ジェノバが――――――。

























「じゃあ、行ってくる。エアリスを頼むぞティファ」

「分かったわ」




あの後、エアリスはクラウドに事の次第を全て話した。



クラウドはエアリスが言いたいことをすぐに理解したのだが、当然ザックスとティファの二人には何を言っているのか判るはずも無く、二人して長々と説明する 羽目になってしまった。


結果、クラウドきっての要望もあってクラウドとザックスの二人が新羅カンパニーに潜入することになったのだ。




「危なくなったらすぐに帰ってきなさいよ」

「分かってるって、心配するなティファ、帰ってくるから!」



そう言って、ザックスがティファの頬にちゅっとキスをした。



新婚さん的やりとりにエアリスがぼっ、と赤くなる。


「も、もう!二人ともそういう事は家でやってよ〜〜〜!」

「何言ってんだエアリス?どうせクラウドもよくやるんだろ??」

「おい・・・」

「や・・・・やってないもん、そんな・・・事!!」

エアリスが真っ赤になって言い返す。

「エアリス隠したって無駄よ!その白〜い首筋にある赤い痕はどうやって説明するのかしら・・・?」


ティファがびしい!!とエアリスの首元を指さす。





『『「え・・・・・・?」』』






クラウド、エアリス、ザックスの三人が一斉に首元を見る。




確かにエアリスの首筋にはほんのり赤い痕が・・・。





「うわっ!!すげぇ!?クラウドお前やるときゃしっかりやるんだな!?」

「きゃ〜〜!何言ってるのザックス!?これはさっき・・・・・・・はっ!」


言い訳しようと思ったがしっかり墓穴を掘ったエアリス。

ザックスとティファの野次馬根性丸出しの瞳がエアリスを凝視する。

「エアリス今なんつった・・・?」

「な・・・何にも言って無いもん・・!」

「嘘ついちゃいけないわよ。さっき・・・・・・なに?」

「・・・・・・・・・・・・・・・(泣)」

『さあ(言え)!!』




「・・・いい加減にしろ。あんまり人のプライバシーに手を出すな」


「クラウド〜〜(ほっ)」

『クラウド・・・(ちぃっ!)』

「ザックス、警戒態勢(セキュリティ)が厳しくなる前にさっさと行くぞ」


クラウドの放った冷たい一言(?)に急に全員が静まり返る。
クラウドは恥ずかしくないのだろうか?



「分かったって、クラウド。そうかりかりすんなよ」

「いってらっしゃい2人とも!!ちゃんとエアリスから聞き出しておくから心配しなくて良いわよ!」

「頼むぜティファ!」

「おい・・・!」






そうしてクラウドはザックスの首根っこを掴むようにして家を出て行った。













「ねえティファ、2人とも大丈夫かな・・・?」


急に静まりかえったリビングで二人はエアリスの作った夕食を食べていた。


「ん・・・?そうねぇ・・・2人とも強いから大丈夫じゃない?」

「そっか・・・そうならいいんだけど・・・でも・・・」

「クラウドに何かあったら心配・・・?」

「うん・・・」

「馬鹿」

「えっ!そんな・・・ティファはザックスが心配じゃないの!?」

「心配よ、いつだって・・・。でもね私はザックスのこと信じてる、
絶対帰ってきてくれるってね・・・。」

「え・・・?」

「軽そうだけど、ああ見えてあいつ一度も約束破ったこと無いのよ?そりゃ、小さなことなら何度も裏切るけど・・・でも、帰ってくるって言ったら絶対帰って くる」

「ティファ・・・」

「ね、だからエアリスも元気出して。クラウドのほうがザックスより信頼できると思わない?」

「そんな・・・事無いけど・・・でも、そうだね・・・クラウドは絶対帰ってくるって信じてあげなくちゃ、だよね」

「そっ!くよくよしたって仕様が無い!それよりもっと楽しい話をしましょう!」

「楽しい話・・・?な〜んか嫌な予感が・・・」

「その通り!!さっ、ザックスもクラウドもいないこの間に全部話してもらうわよ〜〜!」

「え〜〜〜!?」

「絶対喋んないから!」

「本当に〜ぃ?」

「本当よ、本当!私のスパイ人生に賭けて約束するわ!!」

「・・・(ティファってスパイだったんだ・・・)ん・・・まあいいけど・・・」

「っで!?で、どこまでいったの!?」

「どこって・・・キスだけ・・・」

「キスぅ!?ばっか言ってんじゃないわよ!その痕、どう見たってそれ以上いってる・・・」

「きゃ〜!!恥ずかしいなあ、もう!本当にキスだけなんだから!」

「うそ!」

「うそじゃないもん!これはクラウドの未遂だったんだから!」

「未遂って・・・エアリス襲われたわけ〜っ!?」

「う・・・うん」

「へ〜ほ〜ふ〜ん・・・。でもクラウドを落とすなんてエアリス、やるわね!」

「やるって・・・・」

「本当よ?クラウドの女嫌いはこの辺りで有名だったんだから!」

「有名・・・」

「それこそ言い寄ってくる女は徹底的に無視し、しつこい女は・・・・・・」

「しつこい女は・・・・・・?」

「帰ってこなかった・・・」

「ええ!?もしかして、殺しちゃったとか!?」

「まさか・・・・・・せいぜい永久追放程度じゃないの?なんったてほら、クラウドはザックスと並ぶこの辺りのツートップだし、怒らせると怖いのよね〜」

「怖い範囲を超えているような気がするんですけど・・・」

「そう?ま、何にしろエアリスあなたはすごいわ!」

「すごいって・・・・・・別に嬉しくないんだけど・・・・・・」


























「おいクラウド、あと何階だ・・・?」

「知らん」




二人は協議の末、裏口の階段から本社へと侵入することになった。

が、ことにこの階段がやたら長い。



「もう、三十分ぐらい上ってる気がするんだけど・・・・」

「正面から突っ込んで警備に引っかかったほうが良かったのか?」

「まさか!!」



ちなみに二人は走って階段を上っている。化け物じみた体力のような気がするがあまり気にしないで貰いたい。




やがて、螺旋の遥か上のほうに避難用と思しきドアが見えてきた。
出口である。





「おっ!出口が見えてきたぜクラウド!!」

「たしかここから上はセキュリティ・5の厳重区域だ。上の通気孔からいくぞ・・・!」

「分かってるって、・・・よっと!」



ザックスは通気孔のふたをぐいっと引っ張ると、格子に手を掛け反動をつけて狭い通気孔の入り口に体を滑り込ませた。

クラウドも続いて中に入る。



「クラウド、赤外線スコープつけろよ。レーザーに引っかかったらこっちまで迷惑かかるんだからな!」

「それは、こっちのセリフだザックス。・・・それにしても入り組んでるな・・・」



通気孔の中は狭い上に複雑な造りになっていた。

もともと彼らのような潜入者のことも考慮した上で造られたものなのだろうか。意味も無いほど道が枝分かれして、まるで「のび○と不思議の迷宮」の地下迷路 だ。



「研究施設はどこだか分かっているのか?」

「おうよ!73階DブッロクC−7!マイハニー、ティファの情報に間違いは無いぜ!」

「どうやって行くのかも分かるのか?」

「まかせとけって!」




本人が断言するとおり、二人は迷う事無く通気孔の中を進んでゆく。
途中何度か通気孔からエレベーター天井まで抜け出し、エレベーターの「うえ」に乗って73階を目指す。

そして・・・。








「ここか・・・・・・」





73階―――――――――。

シークレット・レベル8。セキュリティ・レベル9の新羅カンパニー最重要施設――――――。





ここに、セフィロスがいる・・・・・・・・・。













「おい、クラウド見ろよ」


ザックスが肩越しに言った。


「どうした?」

「俺の前。こんなとこ(通気孔内部)にもセンサー張り巡らしてやがる」

「なに・・・」



確かにザックスの肩越しに目をやれば、通気孔内部に縦横無尽にセンサーが張り巡らされているのが分かる。


「こりゃ、ちょっとでも触れれば一発で俺たちあの世行きだぜ?」


ザックスが冗談めかして言う。何処か楽しんでもいるようなそんな口調で。


「でも、ここ通らなきゃDブロックいけね〜し・・・・・・・・・・・・って、おっ!」


ザックスが通気孔の隙間から何か見つけたらしく、クラウドに手招きする。

「どうした?」

「ほらあそこ、あの角っこの所にセキュリティ・システム作動装置がある。」

「どこだ?」

「あそこだって」


ザックスが指差す方向に目を凝らしてみれば50数メートルほど離れた、角の所に赤いカバーで覆われたスイッチらしきものが有る。

恐らくはザックスの言う通りセキュリティ稼動システムのスイッチだろう。






「狙えるか、あれ?」




スイッチを顎でしゃくるザックス。



「・・・・・・・・・・・・」



クラウドは前髪をファサっとかきあげると、トレンチコートの裏から『M−16E2ライフル』を無言で取り出した。


「ライフルなら」


あっさりと言い放つ。


「そりゃ結構」

ザックスが面白そうににやりと笑った。


クラウドが通気孔のふたをほんの少しだけ音も無くずらす。その隙間から『M−16E2ライフル』の銃口をあてがった。


目標は遥か彼方の制御スイッチ。
壁からほんの一aほどせり出しているボタン部分を狙う。

少しでも首を動かせば小さなボタンはいとも容易く死角に隠れてしまう。

クラウドは鷹のように鋭い瞳で照準を合わせた・・・。




目標と、ライフルのスコープと、クラウドの瞳が一直線に重なった、


刹那―――――――――。







大気が揺れた。

圧縮された空気が頬をかすめ、わずかな消炎の香りが鼻を突く。





ぱじゅっ




焼けるような音がして対人センサーのスイッチがOFFになった。
スコープ越しに赤く映るレーザーが一本また一本と消えていく。






「やったぜクラウド!さすが人間スコープ!」

ザックスが嬉々として言った。


「それじゃ、この先がDブロックだ。セキュリティが厳しくなるぞ、いくぜ!」

















「きゃ〜可愛い!」

「でしょ!?私もいろいろ考えたんだけどどうしてもこの一枚だけは捨てられなかったのよ!!」



エアリスとティファの二人は一枚の写真を囲んでわいわい騒いでいた。



写真に写っているのは一人の男の子。

首の後ろの辺りだけを伸ばした金髪の髪。
空のように青い大きな瞳を持ち、肌は透き通るように白い。
目を疑うほどの美少年・・・・・・・・・・・。



「クラウド可愛い〜〜〜!!」


そう、写真に写っている美少年は正真正銘の子供クラウドだ。

要所要所に今の面影が残るものの、頼りないぐらい細いところや大きな瞳、屈託の無い笑顔が今の彼とは明らかに違う。

それこそ抱き締めたくなるほど可愛いのだ。



「クラウドにもこんなに可愛い時期があったんだ〜。でもなんであんな性格破綻者になっちゃったかなぁ・・・・・・」


残念そうにエアリスが言った。

「まあ確かに、ごつくなっちゃったのは頂けないわね・・・・・・・」

「うんうん。だってこんなに腕細いのに今じゃあれだもの・・・」

エアリスはクラウドのたくましい腕を思い出して言う。

まあ、たくましいクラウドは男らしくて格好いいのだが、このときの愛らしさ(?)
が無くなってしまったのはある意味悲しい。


「ま、しょうがないけどね。さて、この写真をエアリスちゃんに挙げましょうか?」

「え、いいの!?」

「うん、欲しかったらあげる〜、でもその代わりにねぇ・・・」

「代わりに・・・?」






「りんごの赤ワイン煮がもう一個食べた〜い!」


















「着いたぜクラウド」

ザックスが肩越しに手を出して静止した。

「DブロックC−7エリア。ここにいるはずだぜ・・・!」



ティファからの情報によると、「未知の生物」を移植されたセフィロスはここに幽閉され、研究、観察されているらしい。

一説によると色々とえぐい研究もされたらしいが、本当かどうかは定かではない。





「じゃ、侵入するとしますか?」



ザックスが通気孔のふたを開けするりと通路へ降りる。

クラウドも同様に物音一つたてずに飛び降り通路へと着地する。



「この分厚いドアの向こうが研究施設だ。ドアには関係者しか所持していないカードキーを差し込まないと開かないように、特殊な仕掛けがしてある。まっ、俺 たちからしてみれば気休め程度だけどな!」


そう言って、ザックスは何もロゴの入っていないシンプルなカードキーを取り出した。


「ティファが盗ってきたのか・・・?」

「まさか、偽造だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さ、いくぞ!」



ザックスがカードキーを溝に引っ掛けた。



ぴ―――――――――。



独特のアラームが鳴る。


「認識番号194857890・・・照合中です。・・・・・・・・・一級社員と確認しました」



流ちょうなコンピューター音声が流れた後、思いドアがゆっくりと開く。


「な?気休め程度だろ」


ザックスが肩をすくめて言う。しょうもないとでも言いたげに。



「集中を怠るな。大変な目に遭うぞ」

へらへらしているザックスに向かってクラウドが注意を促す。
仮にもここは新羅カンパニーだ。ザックスの言うとおり本当にお粗末な仕掛けなのかもしれないが・・・・・・。

「分かってますって」


それでもザックスはひょうきんな態度を崩さない。


「さ、中に入るとしますか・・・?」

「慎重に入れよザックス」

「分かってるって!」






そう言ってザックスがエリア内に足を一歩入れた―――――――――――刹那。




「――――――――――――――――――――!?」



ザックスが横に大きく飛んだ。




ぱじゅうっ!!



派手な音を立て、ザックスが先程まで立っていた床にレーザーが当たって反射する。


床が焦げた独特の臭い。


「対人レーザーか!?」



ザックスの声が研究ルームに木霊する。



「うわっと!!」

ザックスが床に手を着き転がるように反転した。
瞬間、その場所を対人レーザーの二射目が薙ぐ。

反射したレーザーがザックスの髪を数本焼き切った。



「う・・・すでにロックオンされているのか・・!?」


取り合う間も無く、対人レーザーがキチキチと嫌な音を立ててロックオンした目標―――ザックス―――に三射目の照準を合わせる。



「ちっ!」


今度ばかりは避けきれないと判断したザックスが、プロテクターの着いた両腕をクロスさせ防御姿勢をとった。

もしかしたら腕の一本二本、持ってかれるかもしれないが、死ぬよりはましである。










キュインと、こちらを「見つめる」無表情な黒いレンズに自分の顔が映った。発射口が赤く光る・・・・・・・・・








じゅぶわっ!!






「――――――――――――――――――――――――!!?」







腕に直撃するはずだったレーザーが「何か」に接触して蒸発した。



「動くなザックスっ!!」

「クラウド!?」




ひゅぶわゎ!!




頬を一筋の風が駆け抜けた。

薄皮が一枚はがれる。






刹那。






がしゃあぁぁん!








厚いレンズが割れ破片が飛び散る。
貫通した弾は勢いをとどめる事無く電源ケーブルを数本引きちぎり、壁に接触して中にめり込んだ。




最後のあがきの様に、壊れた対人レーザーがばちばちと放電する。



引きちぎった電源ケーブルの中に、セキュリティ・システムに送電しているものが有ったらしく、監視カメラや他の警備システムが独特の機械音を立てて停止し た。




クラウドが冷ややかな瞳でザックスを見る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・」

「誰が分かってるって・・・?」


痛烈に言う。



それに応えてザックスは参りました、とでも言うかの様に自嘲気味に笑った。
























「油断は禁物だよなぁ?」














続く