Cold heart-ed Y 崩壊

Cold heart-ed

Y 崩壊







73階Dブロック C−7



新羅カンパニーの最重要施設にして、最高極秘施設でもある、一角だ。

この施設に世間を沸かせた“未知の生物”が運ばれたのは今から約半年前の事だった。

体が半分しかなかった“それ”は決して完全なものではなかったが、それでも少量のエネルギー輻射を浴びると当てたエネルギーの何倍ものエネルギーを放出し た。



実に核エネルギーの2,5倍。



新羅カンパニーはこの発見を人類の、いや自らの会社を更なる発展へと導く鍵と考え、研究を推し進めた。


だが、どうしてもその生物は意識を取り戻さない。


次第に社内に不穏な雰囲気が漂い始める。

考えてみれば、核エネルギーの2,5倍ものエネルギーなど人間が所有してよいはずが無いのだ。


人類の発展を促進するどころか、確実に未来を破滅させる“だけ”の力。
あってはならない、手に入れてはならない・・・・・・。




そしてそれに気づいた科学者がいた。


科学者の名はセフィロス。

優秀な科学者であり今回のプロジェクトの最高責任者であったセフィロス博士はプロジェクトに関わっていた人々にその危険性について問い続けた。


が、新羅カンパニーの社長プレジデントを始めとする経営幹部らはセフィロス博士を邪魔な存在とみなした。

古代の人々のように目先の富に溺れていたのである。

そして彼らはセフィロス博士を幽閉した。




一次は最高責任者“不在”に伴い研究自体も停滞せざるを得なくなったのだが、新しく宝条博士という科学者がその任についたため研究は再び再開された。



宝条博士はそれこそ優秀ではあったが、その道の人には知られたマッドサイエンティストだった。


主に探究心によって行動する彼は、正常な人から見れば最高責任者という重い任に当たるには余りにも不適切な存在ではあったが、新羅カンパニーにとっては 願っても無い存在だった。


彼の異常な精神によって危険極まりなく推進される研究は、セフィロス博士のそれとは違い神羅にとって都合が良かったのだ。




そして宝条博士はとうとう嫌悪すべき挙行に出た。



それは“未知の生物”を人に移植し精神を確立するという、人体実験―――。



彼は何の嫌悪感を持つ事無くそれを遂行した。


第一サンプル“紛失”にともなう『研究の質の激減』という損失は大きかったが、彼は実験を取りやめる事無く新たなサンプルに目を付けた。



その新たなサンプルこそ、あの幽閉されたセフィロス博士その人だったのだ。


宝条博士独自の理論によれば、その生物は“サンプル”の体を媒体として自らの意思を確立するはずだった。






そして、移殖は決行された――――――。



















「サンプル番号N−165−G、こいつも違うみたいだな・・・」


ザックスが一列に並べられたサンプル用のケースを一つ一つチェックしていく。
が、一個もそれらしきものは無い。


「それよりもザックスこいつ等はすでに死んでいるみたいだ・・・。ということは、腐らせないためにホルマリン漬けにしているのか・・・」

クラウドはケースに手をついて、それらの生物が生命活動を既に放棄していることをザックスに告げる。


「あ〜やっぱり?」


ザックスが苦笑いした。


「・・にしても、こいつら一体何されたんだよ?こいつなんて・・・なんだ、まるでゴリラとトカゲでも掛け合わせたみたいじゃないか?」





そう。ホルマリン液で満たされたケースの中にいたのは、この世に自然に存在するべくも無い“物”たちだった。融合の途中で死んだものも多いのだろう、羊の ような頭を二つ持つキメラ(合成獣)がこちらを睨んでいた。



「こんな姿になって、死んで、それでも土に戻れないのか・・・哀れなもんだな」


クラウドが静かにそう言った。だが悠長に冥福を祈っている訳にもいかない。今はセフィロスを探すほうが先なのだ。

クラウドは合成獣から目を逸らすと研究室の奥へと足を運んだ。


しかし、あるものを見つけて足を止める。


床を這うように通路の奥へと進む赤い液体。
だが、それは既に乾燥し黒く変色して床にこびり付いていた。


「血か・・・・・・」



クラウドが目をやると赤黒い痕は通路が見えなくなるところまで続いていた。
が、しかし痕はクラウドの右手側にある壁から伸びている。

クラウドは壁に手を掛けると、ゆっくりと押した。



ぎぃっ、という音を立てて壁の一部が扉型にくり抜かれた。







「ザックス」

「ん、どうしたクラウド?」

「見ろ。隠し扉だ・・・・・・」














「うへぇ、こりゃ暗いな・・・」


ザックスが扉の奥を見て呟いた。

扉側は光が届いてかろうじて足場が見えるものの、その先は闇に溶け込んで真っ暗だった。


「これで、あの暗いところが階段の途切れ目だったりしたら、俺たち笑いもんだぜ?」

「安心しろ。落ちて生きていたら笑いもんだが、この高さから落ちてそれはない。落ちたらその場であの世行き、俺たちが恥ずかしがる必要は何処にもないだ ろ。それともここまで来ておめおめと帰るつもりか?」

「まさかっ!」



ザックスが丸めた紙に火をつけて風を切るように向こうに放った。
階段は思ったよりも短く、それは通路に落ちて赤々と燃え出した。酸素が有る証拠だ。


階段と通路と赤い痕がぼんやりと照らされる。





「じゃ、俺が先に行くぜ。何かあったら後方援助よろしく!」

「ああ」



かちり、と音を立て『ワルサーPPK』の安全装置がはずされた。


二人はゆっくりと階段を下りていく。

やがて通路の先に扉が見え始めた。
扉はすでに半分開き、その隙間から赤い筋が幾本も延びていた。


「どうやらここが“始め”らしいな」

「ああ、じゃ、行くぜ!」




がしゃあああん!




ザックスが扉を蹴り開けた。
そして、そのまま背の大剣を抜いて中に飛び込む。

クラウドは飛び込まず、壁に沿うように中の様子を伺う。
もちろん、何かあればいつでも援助できるように『ワルサーPPK』は構えたままで。



が、まてどもザックスから合図はこない。クラウドは物陰に隠れるようにして中を覗いた。








「・・・・・・・・・・っ」




その光景にクラウドさえ絶句した。


中央にあるのは一際巨大な強化ガラスでできたケース。
その制御システムは木っ端微塵に破壊され、四散した強化ガラスが壁に突き刺さっていた。

その部屋自体も外からは死角になり分からなかったが、爆風で壁が焼け焦げている。


そして何より、むせ返るような血の臭い。


クラウドの足元にも自らの血潮を浴びた白衣、いやそれも既に焦げていたが、確かに人と分かるものが転がっていた。


頭と右足が無かった。






「ひでーな・・・こっちにも二体転がってら」


ザックスの声がケースの裏側でした。

腕を取ったら炭化していてボロリと崩れた。
目を瞑って暫し、とむらう。



だが、すぐに目を見開くとクラウドをチラリと一瞥した。

その瞳はいつも陽気な彼の物ではなかった。鋭く、冷たく、まるで捕食者のような、そんな瞳。



クラウドは知っている。この表情こそ彼の、真の姿・・・・・・。
いつもふざけている様に取り繕うのは上辺だけ。

その下には酷く好戦的で、冷徹な素顔が隠されている。

いや、どちらも彼には間違いないのだ。優しい彼も、好戦的な彼も・・・・。




だが今は-----------------。




「いくぞ、クラウド。“大魔神様”の顔拝ませてもらおうじゃん」

「ザックス。切れるのは勝手だが、あまり派手に暴れるなよ」

「分かてるって。さ、早く行かねえとあわれな子羊ちゃんが増えちまうぜ」






二人は階段を駆け上がると血のあとを追った。


その先にセフィロスがいるのは間違いなかった。
一刻も早く追いつこうと歩調を速める。


しかし辿っても辿っても目指す先は見えてこない。


次第にあせり始める二人をあざ笑うかの様に通路という通路には貫かれたような痕のある死体が幾つも転がっていた。




「ちきしょ、一体何人殺っちまったんだよ!!」

ザックスが悪態をつく。

「さあな、だがこの様子では研究施設にいた奴は全員殺されている可能性が高い。おまけにこの方向。・・・・・・・不味いな」

クラウドが渋い顔をした。



この先にはL−1646Cエリア。神羅の所有する原子力発電機が13体設置されている。
この発電機の供給する電気が世界の必要の7割を支えているのだ。



これらの装置に何かあれば、電気の供給が事実上ストップするのはもちろん、この辺り一帯に強烈な放射能が降り注ぐ。


そうなれば・・・・・・・どうなるかは言わなくとも分かるだろう。





「くそっ何がやりたいんだよ!」

ザックスがクラウドが、血溜りを蹴飛ばして進む方向は正に破滅へのカウントダウン。



「やりたいこと?そんなもの、分かってる!!」

「やらせねえ!んなことしたら皆死んじまうじゃねえか!」



『セフィロス!!』


二人の考えていることは同じだった。
セフィロスを止める、何としてでも。

そうしなければその先に未来は無いのだ・・・。









「―――――――――――――――――!!」


二人は目の前の光景にしばし絶句した。


「ぅう・・・・・・ぐっ・・・う・・・・??」

発電機しかない、唯っ広い部屋に重力に逆らうかのようにして警備員と思しき男が浮いていた。

普通に浮いているのではない。その腹からまるで刃のように突き出す一本の腕によって支えられているのだった。

「・・・・がっ・・・?」

自分の身に何が起きているか、それさえも分かっていないのか男が困惑した表情で自分の背後を見つめている。

が、自分の腹に感じる激痛の原因を理解した途端、血を吐いてそれっきり動かなくなった。


そしてその奥にいたのは――――――。



「セフィロス―――――!」



端正な顔を血に染め、豊かな銀髪を爆炎にたなびかせ、妖しい笑みをその唇に浮かばせ、その男は燃え盛る炎の中に立っていた。

禍々しいまでに美しく佇むその男の名をクラウドはもう一度呼んだ。



「セフィロス・・・」


「セフィロス・・・・・・!」


叫びにも、悲鳴にも似た、繋ぎ止めるかのような声だった。

炎に包まれたその空間が、彼が応えるまでのその一瞬一瞬が、嫌に神秘的に思えた。


しかし――――――。


「くっくっく・・・黒マテリア・・・」

セフィロスの口から意味不明な言葉が紡ぎ出された。

「くっくっく。南・・・へ・・・」

「セフィロス!?」


自分ではなく遥かかなたを見つめる兄に向かって、クラウドは手を伸ばした。
その肩に触れようとする・・・・・・が、


「誰に触れていると思っているのだ?」

「!」


がたぁああん!


腕に感じたわずかな衝撃にクラウドはもろに吹っ飛ばされた。
そのまま五メートルほど宙を舞い、発電機にしたたかに背を打つ。

「ぐぅ・・・・!?」

背中に激痛が走った。
肺が圧迫されて思うように息が出来ない。



「クラウド!!」


がぎいぃぃん!


いまだ自力では動けないクラウドに、とどめを刺そうとしたセフィロスの手刀をザックスが背にした大剣で受け止めた。


「クラウド、気持ちは分からねえでもないが、ぼおっと突っ立てられたら邪魔だ!戦かわねえんなら下がってろ!!」


ザックスが痛烈に言い放った。

しかし彼の言うことはもっともだった。戦う意思の無いものは単なる足手まといに過ぎない。そのような者がこの様な修羅場にいても邪魔になるだけだ。

自分の身を自分で守れないのなら元から居ないほうがましなのだ。




「すまない。ザックス」

クラウドはうつろな表情をした、かつて自分の兄だった者を今一度眺めた。

目を瞑り惨劇の数々を思い起こす。
あの者たちは何を思い、何を考えて死んでいったのだろうか?
生きたいと、死にたくないと・・・・・・・そう?


それは自分が今までに殺してきた奴もそう思ってはずだ。
何もそこらへんで転がっている奴らの仇を打とうとは思わない。

だが、それでも意味の無い殺戮は好きではない。



そしてそれよりも―――――――――


クラウドの脳裏に愛らしく微笑む少女の姿が浮かんだ。


―――俺はあいつを死なせるわけにはいかない

そう、絶対に。

抱き締めながら彼女を必ず守ると心に誓ったのだから・・・・・・。

ならば目の前にいる狂気じみた男の暴挙をこれ以上許すことは出来ない。彼女を守りたいのなら。


―――あいつはもう俺の知っている兄じゃない


そして迷いを断ち切るかのように首を横に大きく振った。
そして再び顔を前へと向けたとき――――――

もはや彼の瞳からは燦然たる殺意以外の何物をも感じ取ることは出来なかった。









「っぉおお!!」

ザックスの咆哮を合図に戦闘は始まった。

背から大剣を抜きセフィロスに向かって真っ直ぐ突っ込む。そのまま正面から斬り込んだ。


がぎいいぃいいいいん!!


ザックスの正面攻撃をセフィロスの刀、正宗が容易く受け止めた。
刃がこぼれんばかりの力で暫し、押し合う。

が、セフィロスが互いに重なり合った刃を横に流し、体勢をわずかに崩したザックスのわき腹を返す刀で斬りつける。

その一撃をザックスはナイフの刃で受け止め、流した。

交じり合った刃先に力を込め、ザックスは正宗を弾き返す。弾かれ、セフィロスの腕が横に大きく流れたその一瞬の隙をザックスは尽き、体を捻りながらセフィ ロスの胸へと飛び込んだ。


その胸に大剣を叩き込むものの、垂直に構えたセフィロスの正宗が、それを許さない。
細い刀身は押し潰すような力にも耐えることが出来る。

ザックスはすぐさま両腕で支えていた柄からナイフを持った左手を離すと、セフィロスの首筋めがけてナイフを一閃させた。

が、しかしセフィロスの右拳の甲がザックスの手首を叩き、首を掻き裂く寸前の所で刃が止まる。互いに組み合ったままで寸分足りとも動かない。

力を込めて押し合う二人の動きは疲弊した。

フィールドを作り出すかのようにパチパチと燃える炎が二人の顔を赤々と照らした。





「ザックス、下がれ!」

「!」



ぎいいいんっ!


サイレンサー付きのクラウドのライフルが火を放った。
鋭い金属音が鳴り響く。

ザックスが横に大きく飛んだ瞬間、唸る弾丸がセフィロスの正宗を捕らえ、刃を容易くへし折ったのだ。



「・・・・・・っ!」


へし折った刃が宙を舞い、セフィロスの肩を深く裂いた。
その瞬間を見逃さず、クラウドの二射目が容赦なくセフィロスの傷ついた肩を狙い、打ち抜く。


彼が人間の体を所有していることを示す血が、赤く赤く、吹き出した。


「今だ!」


ザックスが手首を捻りナイフを放った。
それはセフィロスの太腿を深々と刺し通した。


「よし!」

クラウドがライフルを構え、セフィロスの額を狙う。
赤いレーザーがセフィロスの額の中心を捕らえた。トリガーを引く!

しかし、セフィロスが刃の落ちた正宗を目にも留まらぬ速さで一閃させ、叩き割る鈍い音と共に弾丸を叩き落した。

「ちっ!」

クラウドが間髪入れず、再び額を狙い撃つ。
が、



ぱぁああああああん!!


「なに!?」

真っ直ぐに飛んだ弾丸をセフィロスは刀の腹で弾き返した。

それは速度を落とす事無く制御室に繋がる窓を突き破り、コントロール・パネルを直撃する!

ばちばちとプラズマを放出して、パネルが爆発した!


「・・・・・なっ!?」


クラウドが驚愕の声を漏らす。



―――発電機の管理システムが・・・!

セフィロスは闇雲に弾丸を弾いた訳ではなかったのだ。
すべては管理システムを破壊するための十分に計算された行動だったのだ。

それを理解した途端怒りが込上げる。







「セフィロスぅう!!」


サバイバルナイフを取り出したクラウドがセフィロスに向かって突進した。

懐に飛び込むようにナイフを一閃させるが、セフィロスの正宗がそれを難なく受け止める。
クラウドはすぐさま体を捻りその場を離脱すると、軽くステップしてセフィロスの背後に回った。

ありったけの力でセフィロスの背中を蹴り上げる!!


が、

「無駄だ」

「!?」


どごぉおう!!


「ぐはっ!」


先程背をやられた影響が残っていたのか、クラウドが蹴り上げるよりも早く、素早く振り返ったセフィロスの膝がクラウドの胸を捉えた。


ずしゃぁああああ!


胸のうちを駆け巡るような衝撃がクラウドを襲った。危うく悶絶しかける。
そしてそのまま蹴られた勢いで床を転がる。



「!」

突如、左手を焼け付くような痛みが走った。
転がったがために左腕を炎の中に突っ込んでいたのだ。

慌てて炎の中から左腕を取り出す。皮膚が焼け爛れていた。


「ちぃ!」


クラウドは急いで体勢を立て直した。
だが、遅い。セフィロスが自らの太腿に突き刺さったナイフを投げ、それがクラウドの左腕を刺し通した。



「・・・っう」

「ふん、人間とは脆い物だな・・・お前も・・この“体”も・・・」

呻くクラウドにセフィロスが勝ち誇ったように言った。

「なにをっ!」

「強くても所詮は人間。この私に勝てるとでも思ったのか?」

「!」



突如、セフィロスの掌に光球が生まれた。

「力なきものよ、滅びるがよい!」

セフィロスの声がクラウドの頭の中に朗々と響き渡った。
その言葉の中に人間らしさを感じ取ることは出来なかった。


クラウドは絶望した。どうしようもない虚脱感が体全体を包み込み、抵抗しようとは毛頭にも思わなかった。

同時に“兄”の健在を期待していた自分の甘さを悔やんだ。
それも今となってはもう、遅いのだが――――。


敗北感よりも虚しさが込上げて、目も眩む様な光が迫るのを唯呆然と見つめるしかなかった。




が、



「ブレイバー!!」


ばじゅうううううううっっ!!



自分の体を塵一つ無く焼き尽くすはずだった光球が目の前で四散した。

爆風が駆ける。

そして自分を庇うかのように佇む男―――――。
その男の持つ大剣は赤く光っていた。


「ザックス・・・・・・?」

「おいおいクラウド。しっかりしてくれよな!」

ザックスが呆然としたクラウドを見てにっかり笑った。

「今の・・・お前が叩き割ったのか・・・?」

「おうよ!俺以外に誰がいるってんだ!?」

確かにこの場に人間はクラウドとザックスの二人しかいない。以前人だったものなら目の前に一人と、その辺にも幾つか転がっているが・・・・・・。

だがしかし、今の光球をザックスが・・・嫌、人間が防いだということは信じ難い。なす術も無く突っ立ていたクラウドにも、あの光球の威力は見ただけでわ かった。

なのに、なのに、確かに目の前の男は大剣一本でその光球を叩き割ったのだ。

そんな事が有り得るのだろうか―――?



「へへっ、クラウド良く見とけよ!これが本邦初公開、俺様の新・・・・え〜〜とえ〜と、ま、いいや!その名もバスターソードっっ!!」


言うが早くザックスはセフィロスに斬りかかった。

「おおおおおおおぉっ!!!」

ザックスの咆哮が辺りを揺るがした。
気合、凄まじく、振りかざすバスターソードが妖艶な光を発する!

刹那、“気”が室内を突風のように駆け巡る!


振り下ろしたバスターソードは、翳された正宗を抵抗無く叩き切ると、勢いを留める事無くセフィロスの肩を斬り落とした!


空高く舞った片腕が燃え盛る火に飲み込まれる。


「ぐ・・・・・っ・・・」

体自体は人間であるセフィロスが苦悶の表情を浮かべた。
出血が多く足元もおぼつかない。勝利を確信したザックスがとどめを刺そうとセフィロスに踊りかかった!


「死ねえぇ〜〜!!」

「ちっ!」

ザックスの渾身の一撃をセフィロスは体を捻り、高高度(こうこうど)にジャンプしてやり過ごした。
そしてそのまま天井を蹴り、自ら炎の中へと飛び込む!!


「馬鹿な!人の体を持つ奴が火の中に・・・!?」

ザックスが驚愕の声を漏らした。

先程も書いたように『その生物』はセフィロスの体を媒体としているだけで、人間の体を所有している以上、決して不死身ではない。

以前の姿ではどうだったかは知らないが、当然今の状態では炎に舐め尽くされるのがおち、というものだ。

それなのに・・・。


「ふん、人間にしてはなかなかやる。だが、私には遊んでいられる時間はもう無いんでね・・・」

「おいこら!待てよ!!」

ザックスが尚も追いすがろうとするが、燃え盛る炎を前にあえなく断念する。

「くそっ化けもんが!今まで遊んでたってのかよ!?」

残念ながらザックスには火の中を自在に歩き回るという芸は無い。今は歯噛みしながら立ち去るセフィロスを見送るしか出来なかった。




二人は暫し呆然としながらセフィロスが消えていった方向を見つめていた。
だが、部屋を舐める炎の熱気ではっ、と我に返る。



「おいザックス、俺たちも早く逃げるぞ!」

「ああ・・・!・・・・・・・・って、おいおい!!」

ザックスが悲鳴にも近い声を漏らした。

「!?・・どうした―――」



「――――――――――――――――!」


それを見てクラウドも絶句した。


―――発電機の内部温度が上昇している・・・!!


クラウドは割れた窓から炎を駆り、制御室(コントロール・ルーム)に飛び込んだ。
が、



「くそっ!冷却システムが作動しない!!」

冷却ボタンを押してもメインコンピューターには何の反応も無く、キーボードを駆り、強引にプログラムをONにしようとしても無駄だった。


コントロール・パネルが完全に破壊されていたから―――――。


「制御機能が完全に麻痺している・・・・・・」

クラウドが力なく呟いた。

「くそ!!あの野郎!!!」

行き場の無い怒りを拳に任せて壁に叩きつける。



「・・・クラウド・・・・・」

突如、ザックスが何か神妙な口調で言った。

「何だ・・・・・?」

クラウドがザックスを一瞥する。

「ここは終わりだ・・・・・・」






「ティファたちを連れて外へ逃げるぞ」

















「ふぁ〜ああ・・・それにしても遅いわね〜」

夕食の片付けを終えたティファが眠そうな声を漏らした。
だらん、とソファーに横になる。

「いつもなら遅くなるんだったら電話くれるのにな〜〜?」

そう言って携帯電話のディスプレイを覗き込む仕草をする。


「もう、ティファ。怖い事言わないで」

同じく夕食の片づけを終えたエアリスが、縁起でもない事を言うティファを憮然とした嗜めた。


二人が出て行って早五時間。
待てども待てども一向に二人からは音沙汰無く、段々不安の影が姿を現してくる、そんな時間。

ましては相手はセフィロスなだけに不安もひとしおだ。


「私も様子見に行こうかな・・・」

あれだけ陽気だったティファも少し焦りを覚えてきたらしく、先程からそわそわしている。
思いつめたように言うのはそんな気持ちの現れだろうか、しかしそんなティファにエアリスが噛み付いた。

「駄目!もしティファとあの二人がすれ違っちゃったらどうするの?きっと、ザックス心配するわ。それにもし二人に何かあったとしたら、それこそ行っちゃ駄 目よ。危ないわ!」

「・・・分かってるけど」

「ザックスのこと信頼してるんでしょ?」

「そ〜だったかな」


修羅場になれば、どうやらティファよりエアリスのほうがシッカリしだすらしい。


「とにかく二人を待ちましょ?それからでも遅くはないわ・・・きっと」











「も〜、あの二人一体何してるのかしら?」

エアリスが台所で一人ごちた。

自分だって不安で押し潰されそうなのに、ティファまであんな風になっちゃって・・・。


クラウドが帰ってきたら、何と言ってやろうか・・・。
『お帰りなさい』とか『心配してた』とかじゃなくて、もう少しだけきつく言ってみよう。
ちょっと焦らしてみるのも良いかもしれない。


エアリスはそんな事を思いながら一人でふふっと笑った。


―――無事に帰ってくればの話だけど。

そう思ったら何だか急に怖くなって、エアリスは自分の肩を抱いてうずくまった。


―――大丈夫。クラウドはあんなに強いんだもの・・・ちゃんと帰ってきてくれる、相手が何であろうと・・・・・・・。

「お願い、帰ってきてクラウド―――」

エアリスはティファに聞こえぬようひっそりと呟いた。
だって、こんなにも恐いのだから・・・・・・。


そして、
エアリスが祈るかのように胸の前で手を合わせた、その時だった。




どぉおおおおおおぉん


遠くのほうで雷鳴が轟く様な音がした。


「えっ、きゃ、何!?」

突然のことにエアリスはとっさに身構えた。

「何があったの!?エアリス!」

ティファがすかさず飛び込んでくる。

「分からないの!一体何が・・・」

エアリスが慌てて窓を開けた。
そして―――







「―――――――――――――!!」



二人は言葉を失った。
空が白く白く燃えている!!


「こんなことって・・・・・・一体・・・?」

ティファが震える声で呟いた。その後は言葉が続かない。
何が起こってるのかまだ分からないけど、とてつもなく嫌な予感がした。



突如、エアリスが頭を抑えて呻き始める。

「エアリス、どうしたの!?」

また何かあったのだろうかと、ティファが懸念した。

「・・・やっ、また・・・声が頭に・・・星か・・らの」

「ええっ!?」


苦しみだした友をどうにもすることが出来ず、崩れるようにうずくまったエアリスをティファは床に接触する途中で抱きとめた。


「ちょ、ちょっとエアリスやだ!」

狼狽した声でティファはエアリスの肩を揺さぶった。

「やめてよ、こんなところで・・・・・・!」

ぐったりしたエアリスを前に、ティファは自分が段々と冷静でいられなくなるのを感じる。

「やだやだ、エアリスしっかりしてよぉ!だれか・・・・・・・ザックス・・・!クラウドぉ!!」


とっさに、いるはずもない二人の名をティファは呼んだ。

「だれかぁ・・・」

半分泣きかけた、その時だった。


ふわりと、腕が軽くなった。

「・・・え?」

腕の中にエアリスの姿は無かった。
慌てて上を見上げる。


そこにいたのは――――――





「クラ・・・ウド・・・?」

「ティファ」


呆然とするティファを他所に片腕にエアリスを抱きかかえたままのクラウドが淡々と言葉を続ける。


「ここを離れるぞ。外でザックスが待っている・・・急げ」

「え!え!?どうしたの?何があったの!?」

「後で説明する。まずいことになった」


それだけ言うと、ティファの返事も聞かずにクラウドは台所を飛び出した。
走って寝室へと向かう。

寝室に着いたクラウドは、適当な毛布を取るとそれをエアリスに巻きつけた。
そして棚に入っている木製のバッグの様なケースを掴み、急ぎ足でその場を離れる。

その途中でエアリスが目を覚ました。

「う・・・・ん、クラウド?」

「起きたか、少し大人しくしていてくれるか?」

「うん」


エアリスには何が起きているのかさっぱり分からなかったが、それでも不思議と恐いとは思わなかった。

クラウドがいてくれれば、それだけで安心できる。



二人はバギーの中に飛び込んだ。

その瞬間バギーは、けたたましいエンジン音を立てて走り出す。

エアリスは腕の中でクラウドを見上げた。彼の顔を見たら何だか眠くなってきた。それに気づいたクラウドが優しい声でエアリスに言った。

「落ち着くまで、少し眠ってろ」

「うん・・・・・・・」


段々と意識が途切れてくる。




エアリスはもう一度顔を上げた。

エアリスが最後に見たのは、精悍な顔つきの男と、その瞬間向こうのほうで再び立ち昇った爆炎に、赤く焦がされた空だった・・・・・・。
















          









       






続く