Cold heart-ed W 衝撃

Cold heart-ed

W 衝撃













       合ったばかりなのに、何だかあんたが気になる。














クラウドは思案に暮れていた。

彼女に何て言えばいいんだろうか?

あれから彼女は塞ぎ込んでしまってずっと泣いている。







・・・説明しておくと、別にクラウドとて撃ちたくて撃ったわけではない。

というか、クラウドにとっては誰の命であろうと知ったことではない。

仕事だから「奪う」のだ。見られたら厄介だから「殺す」のだ。それ以上でもそれ以下でもない。唯それだけ。

今回だって例外ではない。
自分の周りをうろうろされてウザかったから殺したのではない。

「家の前で物乞いをする老人がいる。ひどく不快だ。殺してくれ。」

そんな風に言われて、前金を貰って、だから殺した。
忙しいと言ったら、いつでもいい。と言われた。

だから今日、たまたま見かけたから実行した。

それだけなのに・・・・・・・。
何故だろう。





普通の人ならこう考えるであろう。
『まあ、確かに目の前で人が殺されたとあれば誰だって落ち込むだろう。』

しかし、そこは『普通』ではないクラウド。

相手の息の根を止める術は知っていても、女の子(と言うよりは人間全般)の扱い方はさっぱりだった。


自分が他人を気にかけるなんて、ちゃんちゃら可笑しい話だと思った。


唯、何となく泣いてほしくなかった。

泣かれたら五月蝿いからかもしれない。それでも・・・・・・

とりあえず、泣いてほしくなかった。











悩んで悩んで悩みまくって、そしてクラウドは名案(?)を考え付いた。











・・・・・・とりあえず牛乳なんか取り出してみたクラウド。今目の前にあるのは長年(一回も)使っていなかったコンロにお鍋。

錆び付いているといっても過言ではない。それらを凝視するクラウド。これってどうやって使うんだっけ?


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まっいっか。」

ホットミルク作戦は断念したクラウドだった(あっさり)。










「眠っているのか?」

彼女のいる部屋の前で足を止めたクラウド。先程まで聞こえていたすすり泣く声がピタリと止んでいる。

気配から部屋の中にいるのは間違いないのだが・・・。

気分でも悪くなったか・・・?

少し心配になってクラウドは部屋のドアをノックしてみた。



                こんこん


            「・・・・・・・・・・」


                こんこん

           「・・・・・・・・・・・・?」

                
                こんこんっ

            「・・・・・・・ふぐっ?」


                 ふぐ?


                こんこんッ

            「・・・・・・・・うにゅ。」

 
                「??」


                コンコン

            「・・・・・・あひゃっ。」


              (グーフィー?)


                コンコン
               「ふみゃ〜〜。」
               「 開けるぞ。」



こいつ頭でもやられたのか・・・?とか密かに思いつつ、クラウドはドアを開けた。

「・・・・・・・・・・」


閉め切った部屋はクラウドの思った以上に暗く、クラウドは彼女の姿を見つけるのに少し目を凝らす必用があった。

それでもすぐに彼女がベッドの上で体をまるめて寝ているのに気づく。


疲れ果てて眠ってしまったのか、はたまた寝相が悪いだけなのか。

彼女の掛け布団は胸に引き着けるようにした足のすぐ下のところで、くしゃくしゃになって転がっていた。

何だか寒そうにしてるので、クラウドは彼女の傍に近づくと起さないように、そっと布団をかけてやった。

よく考えてみると酷く手間のかかるものを、連れて帰ってきてしまったような気がするが不思議と嫌じゃない。それどころか、あくまで客観的にだが無邪気な顔 をして眠る彼女の顔を可愛いとさえ思ってしまう。





(本人も気づいていないのだが、何事にも無関心だった彼が誰かに興味を持つのは、奇跡的でもあるのだ。)





暫く彼女の愛らしい寝顔を見つめていたクラウドは、ふと、彼女の頬が乾ききらない涙で濡れているのに気づいた。

怖かったのだろう。

無意識に手を伸ばし、そっとぬぐってやる。
不可解なはずの自分の行動が今は少し心地よい。

クラウドは密かに考えていた。

・・・こんな姿を仲間に見られたら、黒髪のあいつに見られたら何と言って馬鹿にしてくるだろうか・・・。

きっとクラウドが男になったと言って一人で馬鹿騒ぎするだろう。

いや、それとも彼女を口説くほうが先だろうか。



急にそんな事が頭をもたげ、クラウドはたった一人の親友のことを思い出して苦笑した。




ふと、時計を見ると随分と時間がたっていた。

ゆっくりしすぎた。

今日は三件ほど依頼が入っていたのに気づき、クラウドは物音一つたてず、それでも急いで『仕事』の準備に取り掛かった。

まず、グローブをはめる。

続いて防弾チョッキを身に着けると、棚からホルスターを取り出し腰に固定する。

ケースから『ワルサーPPK』(三八〇口径の小型の自動拳銃)と『M−16E2ライフル』を取り出し、『ワルサーPPK』の弾が十分に入っている事を確認 するとサイレンサーを取り付け簡単なテストを行う。問題が無いことを確認すると『ワルサーPPK』を腰のホルスターに収納する。

『M−16E2ライフル』にも同じように弾を詰めると、レーザー式狙撃用スコープを取り付けこれにも簡単なテストを施す。

次に鋭利なナイフ(刃の比較的長い物)を四本取り出し、足の両くるぶしの辺りに刃を閉じて収納すると、残りの二本も刃を閉じて袖(特殊な仕掛けがしてあ る。力加減により一瞬にして取り出すことができる)にしまう。

そして壁に掛けてあるトレンチコートを羽織ると、ハンド・ナイフ(この場合、投げて使う刃渡りの比較的短いナイフを指す。)を次々としまっていく。

発光弾も幾つか装備し、ショットガン、サイレンサー付きの九_ベレッタ半自動拳銃をトレンチコートの裏に収納する。最後に『5.56_CAR−15サブマ シンガン』と『M−16E2ライフル』をありふれた皮のバッグにしまっておしまいだ。(説明くせ〜のはごめんなさい、まあいずれ役に立つかもと言う事 で・・)

いつもより装備が厳重なのは、それだけ今日の『仕事』が厄介なことを指している。


保護用の強化サングラスを掛けるクラウド。部屋を出て行く前に一度だけ振り返ると、まだ名も知らぬ少女に一言呟いた。







        「何か旨い物、持って帰ってきてやるよ。」







それだけ言い残すと、彼はもう振り返る事無く、スラムの薄暗い路地へと消えていった・・・。




















エアリスは夢を見ていた。

『力』を得たそれは躊躇する事無く人々を殺していく。

逃げ惑う人々。

しかし、それから放たれる灼熱の光に飲み込まれ、あっという間に蒸発していく。

その光は地面をえぐり、美しい木々たちを一瞬のうちに無へと帰していく。

えぐられた地面からはライフストリームが絶え間なく流れ出し、『それ』はライフストリームを吸っていく。

吸うごとに次第に異形の姿へと変っていく『それ』には幾つかの翼が生えており、下半身は球体にも似て鱗が生えていた。

女にも似た乳房を持つ『それ』は、人の上半身を持っており二本の腕はまるで何かを捜し求めるように空中をさまよっていた。



『それ』は三日で世界の大半を滅ぼした。唯滅ぶことを望む『それ』は『闇』そのものでもあった。

『闇』は混沌としていて際限がなく、その力もまた際限のないものだった。

うつろな瞳を湛える『それ』からは生きとし生ける者のみなぎる生命力を感じ取ることはできなかった。

暫くすると太陽は闇に包まれ見えなくなった。それと同時に月も星も輝きを無くし、世界は漆黒の闇に包まれた。

闇は全てのものを飲み込み、無へと帰していった。



世界は滅びるかと思った。



その時だった。



突如現れた一条の光が闇を貫いた。

その光は拡散し、世界の全てを包み込むように広がると消えていった。それと同時に次第に闇が薄くなっていく。

柔らかな光が大地を照らした。

そしてそこにはもう、以前栄えた文明は無かった。

人もいなかった。

力を誇った『それ』もいなかった。

唯、青草の残る平原が広がっていた。






虚しいと思った。






そして何にも無い平原に、光を放つ石があった。




ライフストリームと同じ色をしていた。

誰かがそれを拾った。どこか寂しげな顔をした人だった。
自分と似ているとエアリスは思った。



断片的であやふやな夢だった。



目覚めた時にはもう、エアリスは夢の内容を覚えてはいなかった。






















「ん・・・。」

カーテンから差し込む光が顔に当たって眩しい。

エアリスはもう一眠りしようと布団を頭まですっぽり掛けた。

しかし、ドアが乱暴にノックされエアリスは已む無く二度寝を断念することになった。



「入るぞ。」

みもふたも無い青年の声。

寝起きの顔を見てほしくなかったがエアリスだが、エアリスが抗議するよりも先に青年が部屋に入っきた。

なかなかデリカシーの無い奴である。まあ文句は言えないのだが・・・。


青年は手に皿を持っていた。
そこには山盛りのフルーツ。

りんごにオレンジ、スイカにブドウ。メロンに苺とまさに選り取り見取り。

彼が切ったわけでは無さそうだが、昨日から吐き気がするほど不味い携帯食しか食べていないエアリス。みずみずしいそれに一瞬で心を奪われてしまった。

真っ赤な苺!なんて美味しそうなんだろう!

それらが欲しくてたまらなくなるエアリス。待て中の子犬よろしく、潤んだ瞳でじっと見つめる。お腹が空きすぎて胃の辺りがシクシクする。

何かすごい目で見てるな・・・。

クラウドは彼女の興味の対象が完全に果物へ向いたのを確認すると無造作に果物の皿を彼女の目の前に突き出す。

「昨日切ってもらったんだが、食べるか・・・?」

つっけどんどんとしか喋れないクラウド。本当はもっと気を利かしてやりたいのだが、慣れないことを急にやろうとしても上手くいくわけが無い。
彼は不器用なのだ。

「いいの・・・?」」

おずおずと尋ねるエアリス。
その口調から彼女が自分を怖がっていることは明白だ。

クラウドは何だか少しがっかりした気持ちになった。
自分は彼女と話してみたいのに・・・。

「ほら・・・。」

無愛想な顔で皿を差し出すクラウド。

エアリスはびくびくしながら皿を受け取った。
果物が所狭しと敷き詰められた皿は予想以上にズシリと重く、エアリスは皿を取り落としそうになる。

しかし直ぐに伸びてきた青年の腕が皿を支えてくれた。

「大丈夫か?」

「え、あっ。う、うん、ありがと・・・。」

「皿。持っててやるから、ゆっくり食えよ。」

「え?だ、大丈夫!一人で持てるから・・・っ」

名前も知らない青年に面倒をみてもらうわけにはいかないと、エアリスは強がって見せた。

しかしそこは殺し屋クラウド、相手の力量を見極めるのに慣れている。
彼は即座に彼女が無理を言っていることを見抜いた。

「無理するな。」

「大丈夫って言ってるでしょ?私、こう見えて握力28キロもあるんだから!」

馬鹿にしないでよ、とでも言いたげにエアリスは胸を張って言う。

なめられたくないと思ってどんな時でも強がってしまうのは、生まれつきの負けづ嫌い故か、それとも『生き残り』の誇り故か。

どんな理由であろうと、クラウドからして見れば単なるやせ我慢に過ぎないのだが。

「28キロが何だって?」

28キロあると、彼女は自信をもって言うのだが、それでは両手合わせてもその辺の男の片腕にも満たないではないか。そもそも彼女が女性ということを考慮し たうえで考えても、満足な数値ではないように思える。

でもそれも当然といえば当然だろう。彼女はあまりにも華奢過ぎる。
きっと力作業の一つも満足にしたことが無いんだろう。
しかしそう考えるとおかしなことが有る。

何でこんな華奢な娘がこんな・・・無法者の集まるスラムで、しかも一番治安の悪い一角にいたのだろう?

良く見てみればかすり傷一つ無い手足が眩しい。
着ているワンピースも染みが無く、毎日洗っているかのような清潔感がある。
日々暴動の耐えないスラムでこんな娘がいるのは余りにも不似合いだ。

とくれば、最近このあたりに来たと考えたほうが順当だ。
親が失業でもしたのだろうか?
しかしそれもあり得ないであろう。極貧のスラムに住むしかないような一家が娘に高そうなアクセサリーを買い与えたりしない。クラウドは彼女の細い首にか かっている白っぽい石を見てそう思う。
もしそれ以前に買ったものだとしても、売ってしまってもう無いに違いない。

クラウドは記憶を辿っていく。あの時、この娘を連れ帰るときに誰かが誰かを探していた。『女』を捜していた・・・・?

それにあの独特な口調の男。
どっかで聞いたことがある様な気がする。
いつだったけか。
あれは確か・・・・・・・・・そう、新羅カンパニーの作業員だったような気がする。作業員?いや違う。あれは新羅政策部総務課・・・タークスの・・・名前 は・・・忘れた。
だが間違いない。





新羅カンパニーはクラウドの「お得意さん」だった。
「お得意さん」なだけで、決して他の奴らみたいに忠節とやらを誓ってるわけではない。それでも毎回毎回破格の値段で依頼してくる。

だが一応は天下の大会社新羅カンパニー。自ら依頼しているからといって、一種の建前。殺し屋を本社に呼んで仲良く打ち合わせ・・・とはいかない。

そこでいわゆる通信手段として彼ら・・・「タークス」は使われることもあった。
こういう雑用まがいのことも彼らの仕事の一つなのだ。というか面倒くさい仕事は全部・・・と言った方が適切だろう。

と言う事は彼らが探していたのはやはり彼女なのだろうか?
しかしあの新羅カンパニーが・・・。こんな容姿以外はあくまで普通そうな娘をなんで探していたのだろう。タークスまで使って・・・。

聞いてみようか、彼女に。素直に教えてくれるかどうか・・・。



「あ〜、お腹いっぱい!美味しかった☆」

クラウドは先程と打って変わって威勢のいい声にはっとした。
気づけば皿が随分と軽くなっている。いつの間にかこの娘は抗議するのを止めてパクパクと食べるのに専念していたようだ。

「あ、あなた、有難う!果物とっても美味しかったわ。」

お腹いっぱいで警戒心が薄れたのだろうか、彼女の口調は軽い。

「あっ・・・そ、そうか。良かったな」

良かったな・・・・って、本人の意思とは無関係に本音が出てしまっている。
しかし彼女は気づいた様子も無い。それどころか愛らしい笑顔を浮かべたままで、彼の隣にチョコンと座った。どうやら相手が誰かにかかわらず、優しくしても らったら直ぐに懐いてしまう性質らしい。

純粋すぎるというか馬鹿というか・・・。
彼女だったらきっと、下心丸出しで近づいてくる男にも疑う事無く着いていくような気がする。

それで、あっという間にホテルに連れ込まれて、襲われて、おしまい・・・といったトコダロウ。

彼女から目を離さないほうがいい・・・とクラウドは今日の事について思った。
彼女はどうも危なっかしすぎる。

「・・・・・・・・・・えは?」

「・・・・・・・・は?」

「だから、あなたの名前」

上目使いでそう聞いてくる彼女。
自分を覗き込んでくるのは翡翠の瞳。

「ん?ああ、クラウドだ」

「クラウド?クラウドってお空の・・・?」

無邪気に聞いてくる。

「さあな、まあ綴りが一緒かな・・・」

「ふ〜ん。いい名前、ね。でも私の名前には遠く及ばないわよ?」

「はあ?」

「私はね、エアリス。エアリス・ゲインズブール。」

「エアリス・・・・?」

「そう、とってもいい名前でしょう!」

元気いっぱいに言うエアリス。同意してもらいたくて何だかウズウズしている。

「残念だが興味ないな。あんたにも・・・名前にも」

思ったことは遠慮なく言う性格のクラウド。彼が尊敬されても好かれない理由はつねにこの辺にある。彼にとっては誰から何と思われようと知ったことではない のだが・・・。

「もう!可愛くないな〜。村の男の子はみ〜んなエアリスちゃん、エアリスちゃんって言ってくれたのに」

「田舎だからだろ?」

「そんなはずっ・・・・・・あるかもしれないけど・・・でもでも・・・」

とたんに弱気になるエアリス。どうやら彼女の故郷は相当な田舎らしい。
だが彼女の美貌は本物だ。おまけにこの明るく親しみやすい性格。彼女の村ではそれこそ人気者だったんだろう。


しかしそんな事より今一つの事実が判明した。

彼女はこの辺りの人間ではない。やはりタークスに連れられて来た様だ。


「なあ、あんた・・・」

「ん?なあに?」

「あんた、何でタークスなんかに追いかけられていたんだ?」

ひくっ

彼女の笑顔が凍りついた。
どうやら図星らしい。

「う・・・う〜んとね、え〜と・・・それは〜」

「なんて言うか・・・」

「その〜・・・」

態度からして、どうやら彼女はこちらが諦めてくれる事を願っているようだがそれは残念。だんまり勝負はお手の物。気長に待たせてもらおう。

「・・・・・・・・・」

とうとう沈黙してしまった。
そしておずおずと尋ね始める。

「言わなきゃ駄目?」

可愛らしく首をちょこんと傾げ、上目使いで問うて来る。
彼女は自分の最大の武器をしっかり認識しているようだ・・・無意識に。

「ああ、駄目だな」

しかしさらりと即答。

「う〜、言っても信じてくれなさそう・・・」

「信じるか信じないかは俺の自由だ」

「そうだけど・・・。・・・・・・う〜ん・・・じゃ、じゃあ約束してくれる?」

「何をだ?」

「言っても、笑わないこと。あと家から放り出さないこと」

「努力はしてみよう」


彼女は決心したように息を吸う。そして重い口を開く。


「私ね・・・魔法使いなの・・・」



は?



「だから、魔法使い」


魔法使いってあの・・・?

「信じてないでしょ?」

誰だって信じられないだろう。科学の発達したこの世界に魔法使いだなんて。非常識もいいところだ。しかし―――――100%とは言い切れない。

「ああ信じたくないな。」

「やっぱり・・・」

「できれば、な」

「ふえ?」

「本当のことを言われたらしょうがないだろ?」

クラウドぐらいになってくると、相手が嘘をついているかは目を見ればわかる。
彼女は本当のことを言っている・・・。

「え・・・信じてくれるの?」

驚いたような顔でエアリスは言う。まさか信じてくれる人がいるなんて・・・

「さあな・・・・・・言っただろ、信じるか信じないかは俺の勝手だって」

「俺は信じる」

彼女はほうけた顔で俺を見つめている。何だかその翡翠の瞳に引き込まれそうだ。

「本当・・・に・・・」

「信じて・・・?」

「ああ」

「信じられない」

「あんたが信じられなくてどうする」

「だって、馬鹿にされるかと思ったんだもん」

そうして黙り込んでしまったエアリス。しかしいつまでも黙らせて置くには時間が惜しい。今日はやらなきゃいけない事があるのだ。




「この話はここで終わりにしよう。表で待っているから早く用意してくれ」

「え?どこ行くの?・・・・・・はっ、まさか・・・!」

暫くのThinking timeの後、彼女は恐る恐る聞いてくる。

「まさか、私を売りに行くんじゃないでしょうね?」

「まさか」

それこそ、まさかだ。誰があんたを売りに行くもんか。

「まあ、俺一人でもいいが・・・・・・」

エアリスを思わせぶりにチラリと見る。

「あんた何か欲しいものあるか?」

「お買い物いくの!?」

「まあな・・・でも行きたくないんじゃ仕様が無いな。」

「え・・・!?ちょっと待って、今行くから!私絶対行くから!」



ビンゴ。

やっぱり女は買い物好きだ。
「あいつ」も買い物好きだから、これなら喜んでもらえるかもしれない、と思って聞いてみたのだが・・・本当に良かった。




「急いでくれよ」
あとは彼女が早く支度をしてくれればいいんだけれど。
「あいつ」も長いから無理かもしれないが・・・。














「わあ、すご〜い!クラウド、見て見て!!」

「見てるよ」
              
スラムから車で二時間チョイ。石造りの建物が美しいこの市街地はたくさんのお店がひしめき合い、ちょっとした観光スポットにもなったりしている。
通称『ウォールマーケット』 日常品は何でもそろうし、普通では手に入らない高価な商品も扱っている。それらがショーウィンドの向こうで微笑みかけてくる のだから買う側はたまらない。あとはお財布との格闘なわけだが・・・・・・。

「ねえクラウド、あれ何しているの?」

エアリスが人ごみの中で急に立ち止まった。

「ん?」

「ほら、あれ。子供がいっぱい集まっているところ!」

「ああ、あれか。あれは・・・バルーンアートだ」

「バルーンアート・・・・?」

「風船を成形して色々作るんだよ。見てりゃ分かる」



人ごみの渦の中には道化師のようなメイクをした男が営業用スマイルを振りまいて立っている。周りではまだ小さな子供たちが我先にと男に風船をねだる。
男は一番先頭の列にいた女の子の手をとると、軽く会釈してから女の子に風船の色を尋ねた。女の子はピンクの風船を指さす。男はそれを手に取り機械で膨らま せると、器用にねじって風船を成形していく。子供たちは興奮してそれを一心に見つめる。暫くすると子供たちが歓声を上げて拍手をする。男は幼いギャラリー に向かって丁重なお辞儀をした。歓声の中から出てきた少女は風船でできた花を持って興奮冷めやらぬ顔つきで母親の元へと駆けていく。




「あれがバルーンアートってやつだ。
分かったら先行くぞ・・・ってエアリス?」

「私もあれ欲しい」

「は?いや、あれは子供の・・・あ、おい!!」

「おじさん、私にも同じのくださいな!」

エアリスはクラウドの制止の声も聞かずに子供たちの輪の中へと飛び込んでいった。明らかに異色な人物に道化師もおろか子供たちまで不審な目で見ている。
それに気づかない天然エアリスは相変わらずのニコニコ笑顔で今か今かと待っている。

「・・・・・・・・・・・・・」

エアリスは正真正銘の馬鹿だ。

クラウドは心に強くそう思った。




「えへへ、作ってもらっちゃった。あのおじさん、すごくいい人だったよ?一個だけでいいのに三つも作ってくれちゃった。でも皆に悪かったかな・・・。」

『皆』とは子供たちのことである。
エアリスの観点からすると、子供は自分と同じ位置にいる存在らしい。
ほっといたら子供たちと本気で喧嘩しだすに違いない。

「あんたな・・・・・・」

「どうしたの?クラウド」

「いや・・・・なんでもない」

三つの風船軍団に囲まれて幸せそうに笑うエアリスにクラウドはあきれて突っこむ気になどなれなかった。


その後もエアリスは色々な物に興味を示し欲しがるのでクラウドはエアリスの手を引きその度に人混みからエアリスを引き離す必要があった。
エアリスがその度にぶーたれた事は言うまでも無い。

それでも何とかお目当ての店にたどり着く。

そこは新羅カンパニーが経営する、大手のデパートだった。
表向きはまっとうな新羅カンパニー。あれやこれやと事業に手を出し、その度に成功して、今や日常品に新羅のロゴが入っているのを見るのも当たり前のように なった。

このデパートも新羅製品を扱っているデパートの一つ。
美しい石造りの街にそびえるコンクリの建物は一際でかく、一際無骨でもあった。
美しい景色を犯していても誰からも抗議されないのは、それだけ新羅カンパニーが日常生活に浸透していることを物語っている。

何か必要なものがあったら「新羅デパートへ」。これが人々の暗黙の了解でもあるのだ。



「ここって、新羅カンパニーのデパートでしょう?」

「そうだが・・・どうした?」

「みんな、騙されてる」

「そう言うな。あんたにとっちゃ人さらいグループでも、この会社無かったら結構、大変なことになるぜ・・・?」

「ふ〜ん」

「いやだったら帰るぞ」

「嫌だなんて言ってないもん」

「じゃ、さっさと買い物済ましてくれ」












「え〜とね、シャンプーでしょ、リンスでしょ。歯ブラシに、ドライヤーも欲しいな。」

欲しいものの箇条書きを書いていくエアリス。
てっきりアクセサリーとかをねだるかと思っていたクラウドの予想は、いとも簡単に覆された。
彼女が欲しいのは日常品。確かにクラウドの家は「寝る」ぐらいしかその機能を果たしていないため、日常品は限りなく少ない。


しかし、それでも・・・・これは何なんだ!?

デパートで一番でかいカートの中はすでにパンク状態。包丁にまな板、フライパンに鍋。炊飯器にヤカン。おまけにオーブン。組み立て式の小さなダイニング テーブルもしっかり買わされて、ティーセットまで入っている。etc、etc

しかもこれだけでまだ「リビング」と「キッチン」分しか買ってないらしい。

エアリスは勘違いしている。
別にこれから一緒に住むために買い物に来ているわけではない。
ただただ・・・・・・・そう何かプレゼントしてやろうと思っただけだったのに・・・・。
それなのに、これではただのVIPではないか!
そもそも遠慮という言葉を彼女は知らないのだろうか・・・?

いけない・・・。彼女のペースにいつの間にか乗せられている。
本来の目的を彼女に言わなければ。これ以上荷物が増える前に。


「エアリス・・・あの・・・・さ」

「あ、クラウド。あのねこのタオル半額なんだけど家にあるの、もう古いからもう一式買って良いかな?あとね、このコップと脱衣かご、家に無いよね?あ、そ うそう!それとね・・・」

「・・・好きにしてくれ」

まただ。どうも、どうも何だか自分はエアリスに甘い気がする。怒るに怒れない。
自分の調子が崩れだし、そしてそのままズルズル引っ張られていく。かなり小悪魔みたいな奴だ。しかも本人に自覚が無い辺り、悪質だ。



クラウドが小さく吐き捨てるような溜息を漏らす・・・
――――その時だった。



「きゃあっ!?」

「エアリス!?」

突如聞こえたエアリスの悲鳴。
振り返ってみれば、彼女の腰には二本の・・・男のそれと分かる腕が巻きつけられていた。
クラウドは後ろから彼女を抱きすくめている男を鷹のような鋭い瞳で睨み付けた・・・・・・。

しかも、その無作法な男は・・・・・・・


「その汚らしい手で触るのは止めてもらおうか・・・」


「ザックス!」


「おうクラウド!久しぶりじゃね〜か!」

底抜けに陽気な声。

目の前にいるのは長身でがっしりとしていて、黒い長髪のハンサムな顔を持つ・・・、クラウドの唯一の親友でもある・・・・ザックスだった。

「しかしよ〜お前、ひっさしぶりに会ってみればこんな可愛い子ちゃん連れちゃって、おめ〜も隅に置けない奴だな!」

「彼女とはそんな関係じゃない」

「うそうそうそ!その馬鹿でかいカートは何て説明するつもりだ?思いっきり同棲しますって叫んでるみたいなもんじゃんか!
それで、どこまでいったんだ?ん?Aか、もしくはBか・・・?もしかしてCまで!?
うわ、おめ〜も案外むっつりスケベなのな〜。見直しちまったぜっ!!」

一人でまくしたてるザックス。この男が誤解したらもう止まらない。
信じる物のために、全てをなぎ倒し蹴散らし、捻り潰す。良くも悪くも真っ直ぐな男だ。
おまけにこのマシンガントーク。誰も聞いてなくとも一通り話し終わるまでは気づかない。止まらない。


「ってかそもそもお前、女には興味ないって言ってなかったっけ?あん時は男に興味があるのかと思って正直引きかけたけどよ、何だ誤解だったのか、良かった 良かった!!」

そしてカッカッカと馬鹿笑い。
その間、終始腕はエアリスの腰に巻きつけたまま。

それがクラウドには余り面白くなかった。
ザックスの腕を掴んでエアリスから強引に払いのけようとする・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ ・・・が、


「いでででででっででででで!!!」

突如現れた人影がツカツカツカとザックスとの間合いをつめて行き、目にも留まらぬ速さでエアリスの腰に巻きつけた腕を払い落とすと、そのままザックスの頬 を、むぎぃゆううううううっとつねったのだ。

あまりの素早さに精錬された動体視力を持つクラウドさえ反応できず、ザックスも不意打ちとは言え思いっきりそれをくらった。

『ティファ!!!』

クラウドとザックスが同時に同じ名前を口にする。
クラウドの言う『買い物好きで支度の長いあいつ』とは言うまでも無く目の前にいる彼女―――ティファのことだ。


「ザックス、あなた早速ナンパ?い〜度胸してるじゃない?!」

そう言って指の関節をボキボキ鳴らすティファ。にこにこ笑いながら話しているが、放たれるオーラは『しばりたおすぞっ!?われぇぇぇぇぇぇぇ!!!』と叫 んでる。
これを人は殺気という。
本家本元の殺気を惜しみなく振りまくティファに、周りの罪無き人々が怯えてる。

「ティファ!これは違うんだ〜!!俺が好きなのはお前だけ・・・マイリトルスイートエンジェルぅぅぅぅぅう!!!」(馬鹿)

モデル並みのプロポーションを誇るティファのどこが「りとる」なのかは知らないが、とりあえずザックスがティファの尻に引かれていることだけは確かであ る。

「許してくれ!ただ俺は・・・そう!こいつが女連れていたから、どんな娘なのかちょっと気になってだな・・・・」

瞬間ティファがピクリっと反応する。

「なんですって・・・・?」

首をぎぎぃっと反転させる。

「クラウドに・・・・・・・」

こわばった顔で見てくる。



「彼女おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅぅぅうっ!!!!!!!!!???」

大絶叫。
棚の上に置いてあった安定の悪かった商品が数個落ちてくる。


「うそっ!うそっうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ〜〜〜〜〜〜!!!!」

どさどさどさどさどさっ!!!

ああ、落ちる落ちる・・・。


「って、おい今気づいたのかよ?」

「しょうがないでしょ!?あの時はそれこそあなたしか目に入ってなかったんだから!」

どうやらザックスの頬をつねった以外は全部反射的に体が動いたらしい。おそるべし・・・・・・。

「えっえっ!?どこどこどこっ?」

「おい、だから彼女はそんなんじゃないって・・・・・・」

「あの女嫌いのクラウドが手を出すなんて?!要チェックよ〜〜〜!!」

聞いてないし・・・。

「さあさあクラウド、後ろに庇ってるのは分かってるんだから、隠したって無駄よっっっ!」

別に隠してるわけではない。ザックスとティファに怯えたエアリスが勝手に俺の後ろで縮こまってるだけだ。

しかしこのまま騒がれ続けられるのも困る。

「エアリス、こいつら一応俺の仲間だから隠れなくてもいいぞ・・・?」

前のほうで『一応』ってなによ〜とティファが叫んでるが無視。

「ほ・・・本当?」

エアリスが服の袖をぎゅうっと掴んで恐ろしそうに聞いてくる。
その仕草がちょっぴり可愛かったりする。


そしておずおず・・・と出てくる。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「か・・・可愛い・・・・・っ・・・・」

「だろ!?ティファ、こんな可愛い子そういないぜ!!?」

「っと、もちろんお前が俺のbPだけどなっ」

ティファの鋭い瞳ににらまれてザックスが慌てて付け足す。

「それにしても・・・。クラウド、彼女どっから連れてきたの?どう見たって『普通』の子じゃない?」

エアリスをじろじろ見つめてティファが不思議そうな声を出す。

「そうだよな。おいおいクラウドまさか、その子攫って来たんじゃないだろうな!?」

「・・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「もしも〜し・・・」


「・・・マジかよ・・・?」












「な〜るほどね・・・・・・」


一通り買い物を済ませたあとはランチタイム。
人目を引く美男美女の四人組がおしゃれなカフェテラスで軽い昼食を済ませていた。


戦闘用語以外は極端に言葉のボキャブラリーが乏しいクラウドの変わりに、エアリスが殆どの説明したのでクラウドは楽なものだった。

「しかっしよ〜。なんだってそんな所にいたんだ?」

ザックスが痛い所を突いてくる。もちろんエアリスが自分が魔法使いだなんて知らないからなのだが。

「うっ・・・・・・・・・」

さも訳有りです、という感じでエアリスが黙り込んでしまう。

「え〜とね、そう、ちょっと迷っちゃって・・・。ほら、スラムって入り組んでいて道が分かりにくいでしょ?」

見え見えの嘘をつくエアリス。それはすなわち肯定を表す。
誰が地元で迷うものか。ティファとザックスは同時にそう思い、昨日クラウドが考察したとほぼ同じ事を考えた。
一般人でも騙されるはずが無いのに、幾度も修羅場を駆け抜けてきた二人には殊更滑稽に見えた。



ザックスが突っこもうとして口を開きかけたが、その時向けられた視線に気づき黙り込む。ティファも同様だ。

クラウドの殺気さえも感じさせる強烈な視線。自分たちだけに向けられたそれは明らかに威嚇している。これ以上は突っこまない方が良いと二人は思った。少な くともエアリス本人には・・・。



「あっ、そうだ!二人とも仕事何やってるの?」

一人雰囲気に気づかず、おまけに納得してくれたのかな・・・?なんて思っているエアリスが急遽話を横に振った。

エアリスのその一言によって再び和やかなムードがメンバーの間に流れ始める。
エアリスはティファに次ぐムードメーカーでもあるらしい。
ほのぼのとしたヒーリングスマイル(?)で二人の答えを待っている。


「お、エアリス知りたいか?」

ザックスが何事も無かったように話し出す辺り、クラウドの機嫌が悪くなるのはいつもの事らしい。というか仲間であっても触れてはいけない領域があるのは既 に暗黙の了解であって、クラウドはそれが極端に多いだけなのだ。




「ふっふっふっ。俺はだな〜、ある時は炊事、ある時は洗濯!またある時は子供のお守り!!報酬しだいで人命救助から破壊工作まで何でもござれの何でも屋 だ!」

「殺しもか・・・?」

「おう、任せとけって!!・・・って物騒なこと言わせるなよ!そっち系はお前の十八番だろうが!」

「そうだな、営業妨害になる前に早めに駆除しておこうか」

そう言ってコートの胸ポケットに手を突っこむクラウド。

「おお!?マジかよ!俺まだ死ぬのは嫌だぜ!!!」

咄嗟に防御の姿勢をとるザックス。


こんなやり取りが出来るのもザックスが気心の知れた唯一の親友であるからなのだが、クラウドがザックスに気遣いを見せたことは一度も無い。まあ、ザックス が簡単にやられることは無いのだが・・・・・・。
それだけクラウドはザックスを信用しているし、ザックスもクラウドを信用している。
戦いの中で育まれた友情は強い。
それなのにそんな素振りを見せない二人が面白くてティファが噴出した。


「何だよ?ティファ」

怪訝そうな顔でザックスが振り返る。

「いや、二人とも本当に仲いいなって思って・・・」

『そうか?』

二人の声がはもる。それがティファの笑い上戸に拍車を掛ける。
タイプは違えど本当に仲のいい二人、まるで兄弟だ。


それに吊られてエアリスも小さな笑い声を漏らす。
彼らの姿が本当にどこにでもいるティーンエイジャーの様で、それがとても微笑ましくて・・・。


形の良い唇に真っ白な手を当ててエアリスは笑った。
どこか気品のある笑い方―――













―――その仕草が色っぽいと思ったのはクラウドだけだろうか?










「あ〜。お腹いっぱい!」

ティファが満足そうな顔で伸びをする。
目の前にはとても四人で食べたとは思えない皿、皿、皿。


「ティファ、お前これからダイエットする〜って言ってなかったっけ?」

「ああ、あれね。あれは大丈夫。ここ数日甘いもの食べてないんだから!」

「数日って、たった三日・・・」

「のぉぷろぶれむ、よ。のぉぷろぶれむ。ちょ〜っとぐらい食べたって私の運動量を持ってすればあっという間に消費されるわ!」

余裕よ!っとガッツポーズして見せるティファ。根拠も無いのに何故か説得力有り。

「結局ダイエットする気無いんじゃん。最近俺の夕食が質素なのはてっきり、ダイエットにつき合わされているんだと思ってたんだけど・・・」

不満そうな顔でザックスが言う。

「そんな訳ないでしょ、だいたい挌闘家でもある私がダイエット―― ウェイトダウン――する必要あると思う?」

「やっぱ口だけだったか・・・・・・」

「当然!」

ティファが一際存在感のある胸を反らせて言う。どうやらザックスの夕食が手抜きだったのは、面倒臭かっただけのようだ。     合掌。




「でもいいなぁ、ティファ」

エアリスが話しに首を突っ込んでくる。

「ナイスバディーだもん・・・・・・、私ももう少し胸欲しかったな・・・」

エアリスが自分の胸を見て言う。
ティファと比べることのほうが間違っている気がするが・・・。

「な〜に言ってるのよエアリス!エアリスだって着痩せしているだけで本当は結構あるんでしょう?」

「そんなことないもん・・・」

「ふ〜ん、どれどれ??」

    
                むにっ


「きゃあ!?」

ティファに胸を触られたエアリスが顔を真っ赤にして叫んだ。
同時にクラウドの頬にも赤みが差す・・・誰も気づきはしなかったが・・・。



「な〜んだ、エアリスだって普通にあるじゃない!ない、ないって言うからBくらいなのかなぁ〜って思ってたのに」

そしてクラウドのほうを振り返ると、こそっと言う。

「Dよ、クラウド」

「は?」

「エアリスのカップサイズよ(はーと☆)!」


はい?


「も〜!!何言ってるのよ〜!!」

今何と?

「ティファの馬鹿馬鹿〜〜〜!!!」

エアリスが・・・??

・ ・・・・・・・・・・・・・・・
・ ・・・・・・・・。


「大丈夫だって、エアリス!小さく思えたってクラウドがすぐ大きくしてくれるって!!なあクラウド!」

「はぁ?」

「だから、もんで・・・・・・」



ばきいいいいいいいいいいいいいっ!!!!


クラウドのゼロ距離アッパーがザックスの顔面にヒットした。沈黙。

「そうよザックス。なに野暮なこと言ってるの!揉まなくたって十分・・・」

「いや、問題はそこじゃないし・・・」

「もうこの話題は止めて〜〜〜〜っ!!!」

エアリスの絶叫が店にこだました。
よほど恥ずかしかったらしい(あたりまえだ)。





「あ、そうだ!エアリス買い物全部終わったの?」

「え?」

下ネタトークのあとティファが唐突にきりだした。

「だから買い物。一通り買い終わってるんだったら、ちょっと一緒に買い物行かないかな〜って思ったんだけど、どう?」

「え、私はいいけど・・・クラウドが・・・?」

「別にかまわないでしょ、クラウド?一応目は離さないし・・・」

エアリスがクラウドの『厄介者』だという事を考慮した上でティファが聞いてくる。

「まあ構わんが・・・なに買ってくるんだ?」

他に買うもんがあったか?とでも言いたげにクラウドが言う。

「決まってるじゃない!女の子の生活秘術品よ!」

「と、言うと?」

にぶちんのクラウド。

「化粧水でしょ、乳液でしょ、クリームでしょ、パックでしょ?」

指折り数えていくティファ。

「どこが生活秘術品だ」

「分かってないわね〜、お肌は女の子の命なんだから!!」

力説するティファ。
そしてエアリスをチラリと横目で見ると言った。

「あとは、下着とか・・・月の物とか・・・」

「分かった、行って来い」

やっと分かったクラウド。手でしっしと追い返すようなジェスチャーをする。

「良かったわねエアリス!じゃあちょっと行ってくるから、さき帰っても良いわよ?エアリス送っていくし・・・」

「ああ、頼む」

「分かった!ザックスも連れて帰ってくれると嬉しいわ!」

そう言ってエアリスの手を引っ張って人ごみの中へと紛れ込んでいく。

「あっ、えっと・・じゃあ、行ってきます・・・」

エアリスは少し戸惑いながらクラウドのほうを見ると、少し嬉しそうに笑って言った。

はにかむ様に笑うエアリスに、クラウドはほんの少し微笑みながら見送ってやった。




ぎこちない微笑が『仕事』に就いてから初めての笑顔だったとは知らずに・・・。

そしてそれに気づいたのも壁のほうで伸びているザックス一人だけだった。










「おいクラウド。お前あの御嬢チャンの事随分と気にいってるようジャン?」

帰りのバギーの中でザックスがクラウドに話を振った。

「そうか・・・・?」

「おうよ!お前さ、さっき笑ってたぜ?エアリス見て」

「・・・・・・・・・・・・・」

「ほんと、お前が笑うなんて・・・さ・・・。・・・お前笑わなくなったから、あれ以来・・・・・・」

ザックスが急に声のトーンを落として言う・・・過去を思い出して・・・。
珍しくその表情はどこか寂しげだった。

「まあ、良かったんじゃねえの?ほら、あんまり辛い事ばっかだと駄目になっちまうし・・・」

ザックスが慰めるような口調で言う。クラウドのことなら誰よりもよく分かっている。

「・・・・・・・・・・・そうか・・・・」

「ああ!」

「そうだ・・・な・・・」

クラウドの表情が少し柔らんだ。

「優しくしてやれよ・・・・・・・あの子・・・ま、おめぇ〜には無理だろうけど!!!」

急にはやし立てるような口調に戻るザックス。

むかっ

「あんたには関係ない」

ぶっきらぼうにクラウドが言う。

しかし、それにザックスは気を悪くした様子もなく笑う。

「ははっ、ま、どうでも良いけどな?あんまりしょいこまなけりゃ・・・」

そしてクラウドをしっかりと見据え落ち着いた穏やかな声で言う。




「友達・・・だろ?」




車内をバギーのエンジン音が支配する。

暫くしてクラウドは珍しく気遣いを見せる親友の顔を見ずに答えた。


「ああ・・・そうだな・・・」

口調とは裏腹にその表情は穏やかだった。

それを見て満足そうな顔でザックスはうなずいた。




再び車内に響き渡るエンジン音。


「あのさ・・・俺、この前すげー剣手に入れたんだ。今度見せてやるよ」

少年のような顔つきでザックスが言う。



昔の自分のように快活に笑う親友を横目で見て、クラウドは無言でうなずいた。



















          続く