Cold heart-ed

T クラウド


                たーん



                たーん



闇夜に二発の乾いた銃声が響き渡る。
ここはスラム。無法者や貧しきものが住まう場所。
その最も危険とされる場所に彼はいた。



彼の名はクラウド。恐らくは彼の右に出るものはいないであろう、凄腕の殺し屋だ。
どんな時でも冷静で(冷めきっているとも言う)、その恐ろしいほどの判断力と確かな腕で、狙った獲物は逃がさない。表のお偉いさんたちの間では、クラウド をより高い値段で雇った者が勝つと言われている程だ。クラウドが暗躍して自分の会社やら企業やらの発展に邪魔なものは全て排除してくれるからだ。

誰にも媚びることなく、何ら感情の起伏を示すことなく、ただ黙々と仕事をこなしていくクラウドは闇の世界のカリスマ的存在だった。
本人は全く興味が無いのだが・・・・・。


先程の銃声は言うまでも無くクラウドのものだ。
一発めで目標の動きを封じ込め、二発めで的確に急所を狙う。目標は鮮血の血を迸らせながら地に倒れ伏す。クラウドらしいスマートなやり方だ。

今日もいつもどおり仕事が終わった。クラウドは目標の息の根が止まったのを確認すると愛銃のクイックシルバーをコートのホルスターにしまい、その場を離れ ようとした。
そう、そこまではいつもの通り。後は報酬を貰うだけだったのだ。
だが・・・。

「きゃっ!!!」

「!?」

甲高い女の悲鳴が耳を突く。

「ち、見られていたか!?」

クラウドはとっさにクイックシルバーを取り出すと、声のした方に向かって一発銃弾を撃ち込んだ。
反応は無い・・・。
殺ったか・・・?
クラウドは懐からもう一丁の銃、デスペナルティを取り出すと、物陰に身を潜めながら慎重に近づいていく・・・。物音をたてないようにゆっくりと。

・・・気配が無い。クラウドは全神経を集中させて相手の気配を感じ取ろうとした。しかしその努力は虚しく、ただただ時間が過ぎてゆく。

「なめられているのか?気配をここまで完全に消しているとなると相当のやり手だ。」

突っ込むか?しかしここは死角となるものが多すぎる。このような場所ではどこから狙われてもおかしくない。クラウドとて正面から突っ込んでいったところを 狙われたなら無事にはすまない。しかし他に方法が無いのなら・・・。
「しょうがない。リスクを覚悟で突っ込んでやる・・・!」
クラウドは静かに呼吸を整えると神経を集中させた。音も無く二丁の銃を構える。よし、行くぞ・・・。


クラウドは意を決して正面から飛び込んだ・・・・!!



「−−−−−−!?」






なにもいない・・・・?








そこにはクラウドの予想に反して自分を狙うスナイパーの姿は無かった。

「逃げられたか・・・?」

しかし、次の瞬間クラウドの瞳に予想だにしないものが飛び込んできた。

彼の視界の隅に写ったのはふわふわの巻き毛。

「え・・・?」

彼は恐る恐る視線を下へとずらした。

「・・・・・・・・・・」




・・・・・・天使が倒れているのかと思った。
少なくともそう思わせるほど、彼女は美しかった。

閉じられた瞼。
長い睫毛。
すっとした鼻。
形の良い赤い唇。

そのひとつひとつにクラウドは魅せられた。
今まで一度も感じたことが無いような感覚。ぞわりと鳥肌がたつ。
やがて彼女を食い入るように見つめていたことに気がつくと、クラウドは内心バツが悪かったが何事も無かったように銃を構え直す。
ピタリと銃口を彼女の形の良い小さな頭にあてがう。


見られたら消す・・・・・・・。



彼はゆっくりとトリガーに指をかけた・・・。







続く